3話:それでも勇者か!

 翌日、俺はアウラを連れて役所へと向かった。

 戸籍や住民票を用意するためだ。

 とはいつつも、魔法でちょちょいとやって終わりだ。


「勇者の名が効いて呆れる」

「ちょっ、お前のためにやったんだから少しくらい感謝してもいいだろ? いいよなぁ?」

「まあ、ありがとう」


 小さい声だったが、俺の耳にはしっかりと聞き取れた。


「んじゃあ、帰って買い物だな。服、妹のだもんな」

「勇夜、買ってくれるの?」

「任してくれ。向こうの金を女神様に換金してもらったからな」


 ニヤッと笑う俺を見て、アウラが身を引いた。

 ちょっと傷付いたが、そんなことで折れはしない。

 だって勇者だから!


「さ、さあ、帰ろうか。陽菜が待ってる」

「買い物、楽しみ」


 ふふっと笑う可愛らしいアウラを見て、ドキッとしてしまう。


「どうかしたの?」

「いいや、何でもない。俺も楽しみだ」

「なら早く帰ろう」


 急ぎ足で帰るアウラの後を追うのだった。

 そして現在、俺は陽菜、アウラと一緒にショッピングモールへとやってきていた。


「見て見て。あの子、超可愛くない?」

「俺、あの子をナンパしてこようかな?」


 買い物客の視線がアウラへと向けられる。

 絡まれないように警戒しつつも、俺達は買い物を楽しむ。


「お兄ちゃん、見て! アウラちゃん可愛いでしょ!」


 着替えたアウラを見て、俺は思わず見惚れてしまう。

 クルッと回ったアウラが俺を見る。


「勇夜、どう? 似合ってる?」

「うん、似合ってるよ」

「ありがとう。これも買うわ」

「あ、うん……」


 俺が似合ってると言った商品が次々と買わされていく。

 金に余裕があるとはいえ、荷物が多くなっていく。

 この場で収納魔法を使って入れるわけにもいかず、両手の荷物が増えていく一方だった。

 荷物を二人に任せた俺はトイレ休憩に向かう。


 女の買い物は疲れる……

 全ての耐性があるにも関わらず、俺の精神がジリジリと削られていくのだ。

 買い物、恐るべし。


「そんなことよりも早く戻らないとな」


 溜息を吐きつつ俺が二人の下に戻ると、何やら三人組の男に絡まれていた。


「いいじゃん、少しだけ俺らと遊ぼうよ」

「ちょっとだけだからさ。欲しい物何でも買ってあげるから」

「なんですか! さっきから断っているじゃないですか!」


 陽菜が男達の誘いを断っていた。

 周囲の人は関わらないようにと、距離を取っている。誰も助けようとはしないらしい。


「君、外国人? 日本語分かる~?」

「何言ってんだ、分かるだろ」

「おいおい。分からないかもしれないだろ?」

「なら俺達が日本語教えて上げるか」


 下卑た視線が陽菜とアウラに向けられている。

 そして一人の男が、アウラの方に手を置こうとした。

 アウラを見ると、殴り飛ばそうと腕を上げていた――って、不味いだろ!


何が不味いのか。それは男達が、である。

 彼女のパンチを喰らえば、最悪死んでしまう。

 俺は彼らを助けるために割って入った。


「お待たせ」

「あ゛ぁ゛?」

「なんだてめぇ?」

「お前は下がってろ」


 俺を追い返そうと鋭い眼光が向けられる。

 以前の俺だったら怖かったが、今ではチワワに吠えられているくらい可愛いく感じていた。


「お兄ちゃん!」


 陽菜が俺を呼ぶ。

 アウラを見ると、振り上げていた手を静かに下した。

 視線で俺に任せろと伝えるが、うまく伝わったようだった。


「お前達ためだから。それにいい年した大人が、中学生をナンパするのはどうかと思うけどね?」


 周りからクスクスという笑い声が聞こえ、男達の顔が羞恥で赤くなる。


「なんだとぉ!?」

「やるってのか?」

「調子に乗るんじゃねぇよ」


 そして一人の男性が拳を俺に振り下ろしてきた。

 振るわれた拳は酷く遅い。周りからは俺がやられると思ったのだろう、悲鳴が聞こえる。

 俺は小さくため息を吐いて、対処することにした。


「お兄ちゃん!」

「大丈夫だから」


 陽菜にそう言って、俺は迫る拳を躱して掴み取り、背負い投げを決める。

 ドンッという男が倒れた音共に、「カハッ」という肺から空気が出ていく音が聞こえた。


「イテテッ……一体、何が……?」


 背負い投げされた男は訳がわかないとでも言いた気だ。

 残りの二人はというと……


「この、ガキが!」

「潰すぞ!」


 二人は俺に向かって攻撃してくるがどれも遅く、拙い。

 そもそもの話。身体能力で差があるのだ。

 こちとら何度も死線を潜り抜けてきた。

 気付けば床には三人が倒れており、周囲からパチパチと拍手が聞こえる。


「イテテッ……クッソ」


 最初の男が立ち上がり、俺を睨みつける。


「まだやるか? 俺は一向に構わないが、ツレを待たせているんだ。また今度にしてくれないか?」

「ガキがいい気になりやがって!」

「この辺でやめにしないか?」

「このままコケにされて――」

「あ?」


 軽く殺意を向けてやると、残りの男達も含めて「ヒィッ」と小さな悲鳴を上げ、「すみませんでした~!」と脱兎のごとく逃げ去って行った。

 俺は周りの人たちに「ご迷惑をお掛けしました」と謝罪し、その場を後にする。

 しばらくして陽菜が俺に聞いてくる。


「お兄ちゃん、強かったの?」

「ん? まあそこそこね」

「陽菜、勇夜は強いよ?」

「そうなの!? てかアウラちゃんが何で知ってるの!?」

「見たことあるからね」

「そ、そうなんだ……それより買い物を続けようか! 次はあそこに行こう!」

「まだ買うのか……」


 俺が死んだ魚の目で二人の買い物に付き合ったのは言うまでもない。



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