4話:柔道部に興味はない!

 月曜日になり、俺達は学校に行く支度を始めた。

 幸いとアウラの編入手続きと編入テストは無事に終わり、入学を許された。

 前日に勉強を教えたのだが、すぐに高校までの内容をマスターしてしまった。


「凄いな……」

「これでも魔王の娘だからね! 余裕よ!」


 と言う会話が昨日あった。

 俺は楽し気に会話する二人の背中を見つめる。


 うん。可愛い!


 そう思うが言葉には出さない。だってアウラに殴られるから。

 陽菜が後ろを歩く俺に振り返る。


「それじゃあ、私達はこっちだから」

「おう。迎えは必要か?」

「大丈夫だよ~。それに恥ずかしいよ」

「ハハッ、アウラも大丈夫か?」

「問題ないわ。任せて」


 一体何を任せるのか……


「あ、うん」


 俺はアウラに耳打ちする。


「絶対に魔法は使うなよ? 魔法だけじゃなく、この世界の一般人程度の力しか出すなよ? 頼むぞ?」

「問題ないわよ。勇夜は心配性なんだから」

「そうか? ならいいが……」


 そこに陽菜が割って入って来る。


「お兄ちゃん、アウラちゃんと何コソコソしてるの!」

「悪い悪い。色々と注意事項を、な」

「そうなの?」

「そうだよ、陽菜」

「ならいいけど。それじゃあ行ってくるね!」

「勇夜、行ってくる」


 俺は二人を見送り、学校へと向かう。

 学校に着いた俺は教室に入り、席に着く。

 いつもと同じ日常だ。

 

 授業が始まるが、そこで問題が起きた。

 英語の授業だ。

 俺には女神様から貰った言語理解というスキルのお陰で、ネイティブに喋れるし書けるのだ。

 寝ていたら問題を出されたので答えたのが、正解した俺に先生が「国立の大学の問題だったのに……」と呟いていたのを聞き逃さなかった。

 以前の俺なら答えられなかったが、スキルってすごいね!


 それから俺は英語の授業で指名されることはなかった。

 体育の授業になり、今回は柔道だった。


「朝桐、俺と組まないか?」


 声をかけてきたのは、柔道部に所属しているクラスメイト、安堂だった。

 俺よりも一回り大きく、ごつい体つきをしている。

 加えて俺はクラスの陰キャと言われる存在で、時よりこのように相手にされることがあった。


「いいよ」

「すぐに音を上げるなよ?」

「もちろん」


 ニコニコしながら返した俺の言葉に、ピクピクと安堂のこめかみが動いた。

 イライラしているらしい。

 周りのヒソヒソ話が聞こえてくる。


「おいおい。朝桐のやつ、安堂にボコられるぞ」

「見ていて楽しいけど、アレが俺だったら嫌だわ。断るわ」

「だよな。朝桐も自分が標的にされないと思っていたのか?」

「さあな。まあ、朝桐の無事を祈っておこうぜ」


 そして安堂の提案で一対一での対戦形式になった。

 コイツ、周りにアピールしたいのか?

 女子からモテたいのだろうか。答えは定かではないが、俺と安堂の出番が回ってきた。

 先生が合図をする。


「どうした、来ないのか?」


 安堂の言葉を無視して観察するが、どうやら俺が相手だからなのか、油断しきっているようだった。

 安堂が俺の襟を掴み、投げようとする。


「ふんっ! ――は?」


 安堂の呆けた声が聞こえる。

 そこから何度も投げようとするのだが、俺の体はビクとも動かない。


「投げられないのか?」

「調子に、乗るな!」


 俺はワザと投げれる。

 体が宙に浮く。ただ投げられるわけがない。

 それだとつまらない。


 俺は空中で体勢を整え、安堂の腕をしっかりと掴み、地面に着地したのと同時に、手加減しつつも勢いよく投げた。

 ドンッという大きな音が体育館に響く。

 あたりがシーンと静まり返り、みんなが俺を凝視する。


「……は?」


 その呟きはみんなの心の声を代弁していた。

 まさか柔道部の安堂が投げられると思っていなかったのだろう。

 別の授業で体育館を使っていた女子の視線も俺に向いている。

 女子からは。


「朝桐くん凄い……」

「え、安堂くんに投げられていたよね?」

「見た見た! でもなんで安堂くんが投げられているの?」

「さあ?」


 男子からは。


「おいおい、マジかよ……」

「朝桐のヤツ、安堂を投げたぞ」

「でも投げられていなかったか?」

「投げられて着地とか、ありえねぇ……」


 まさかの展開にそのような言葉の数々が聞こえた。

 俺は倒れている安堂に手を差し伸べる。


「安堂、大丈夫だったか?」

「あ、ああ。助かる」


 手を掴み立ち上がる安堂。

 安堂は最初、投げようとした時、大樹のごとく力を入れても動かなかった朝桐に、驚愕していた。


「何か習っていたのか?」

「まあね。親父が、父さんが仕込んだんだ。「危険があるかもしれないから」って。お陰である程度の輩なら対処は出来るよ」

「なあ、朝桐。柔道部に入らないか?」


 思わぬ勧誘をされた。


「悪いけど興味ないな」

「そうか……」


 俺が断ったことで安堂は肩を落とした。


「気が向いたら顔でも出してくれ。きっと楽しいぞ」

「気が向いたらな」


 俺と安堂はガッチリと握手を交わしたのだった。





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