2話:これは世界最強だぜ

「アウラのこと、妹になんて説明しよう……」


 アウラにこの世界の常識などを教えたあと、俺はそんな言葉とともに頭を抱えた。


「勇夜、妹の他に家族は?」

「両親はいないよ。前に事故で亡くなっている。今は妹と二人で暮らしているんだ」

「そう」


 物珍しそうに周囲を見渡すアウラの背中を見ながら考える。

 どうしよう。彼女と言っても、妹である陽菜ひなは信じないだろう。

 それに彼女がどうして家で一緒に暮らすだとか言いそうだ。


「なあ、アウタ。俺とお前の関係は?」

「宿敵」

「……確かにそうだけど、一緒に考えてくれよ」

「どうして私なのよ?」


 それから一緒に考えることしばし。

 ようやく答えが見つかった。


「俺の親父の海外友達の娘、という設定でいこう」

「本当にそれで大丈夫なの?」

「問題ないだろ。実際、親父とお袋は海外に仕事で行ってたし。ってわけで帰ろう!」


 俺とアウラは隠蔽の魔法を使い、姿を見えなくしたことで屋上を飛び降りた。

 勇者の身体能力だ。この程度造作もない。

 アウラも魔王の娘と言うこともあって、身体能力は高い。

 それでもレベルは俺の半分以下ではあるが。


 屋根を伝い、そのまま自宅へと向かって駆けていく。

 程なくして二階建ての一軒家へと到着した。


「ここが俺の家だ」

「随分と小さいのね」

「魔王城と比べるな。この世界で俺は一般人なんだよ」

「へぇ~、勇者が一般人ね……」


 だが他の家と比べると大きい。

 両親が残した財産で暮らしてはいるが、一体何の仕事をしていたのか不明だ。

 そんなことはさておき。俺は玄関の扉を開けた。


「ただいま~」


 すると奥から大きな足音を響かせた妹、陽菜が姿を見せた。

 その表情は怒りに染まっている。


「お兄ちゃん、遅い! 何時だと思って――この人誰!?」


 怒っていた陽菜は、アウローラを見て驚いた顔になった。


「この子は親父の友達の娘さんだ。電話がきて、家で預かってほしいって頼まれた」

「今日からお世話になるアウローラ・グラナティスです。よろしくお願いします」

「ア、アウローラさん、でいいのかな?」

「アウラでいい」

「よろしくアウラちゃん! 私は陽菜。そこのダメな兄の妹。よろしくね!」

「ダメとはなんだ。ダメとは!」


 俺にとって久しぶりの妹だが、つい突っ込んでしまった。

 てか、言葉は通じるようだな。

 女神様が何かしてくれたのだろう。


「それはそうと。中に入って話さないか?」

「玄関だもんね。さあ、アウラちゃんも上がって上がって!」


 中に入り、そこから夕食を食べながら話すことになった。

 一つ問題があるとすれば、アウラが日本食を初めて食べたということ。

 美味しいと目を輝かせて食べていた。


「そうだ、アウラちゃんのお父さん、お仕事は何をしているの?」


 陽菜の質問に、アウラは俺を見るが、すぐに視線を戻す。

 さすがに魔王とは答えられない。答えたところで「ふざけないで」と怒られるだけだ。


「よくわからない」

「私もお父さんとお母さんが何をしていたのかサッパリなんだぁ~。一緒だね!」

「そうなんだ」


 そこから色々と話が進む。

 夕食が食べ終わった後、陽菜とアウラが一緒に風呂に入ったり。

 気付けば夜遅くなっており、陽菜とアウラが一緒に寝ることになった。

 誰もが寝静まった夜。俺は窓から外に出る。


「勇夜、どこかに行くの?」

「起こしたか?」

「起きてた。それでどこかに行くの?」

「魔法とか身体能力を試そうと思って。アウラも一緒に行くか?」


 俺の質問にアウラは頷いた。

 どうやらアウラも試したいらしい。


「じゃあ、人気がない場所に行くか」

「歩いていくわけ?」

「そうだな。走っていくけどついて来れるか?」

「走るのは苦手。私は魔法の方が得意」

「そうか。なら俺が背負っていくよ。ほら」


 俺はその場でしゃがむ。

 しばらく経ってもアウラは乗ろうとしない。

 振り向くと、ワナワナと震えていた。


「勇夜、おんぶされろと……?」

「そうだが? 市街地で魔法を使うわけにもいかないからな」

「……分かったけど、後で一発殴る」

「理不尽!?」


 不承不承と言いたげなアウラは俺に背負われた。

 女の子特有の柔らかい感触が、背中と手に伝わってくる。


「ヘンな事考えた?」

「ま、まさか! ハハハッ……」

 ジト目で見られている気がするが、気のせいだろう……多分。


「……まあいい。でも一発は殴る」


 背中から向けられる殺意に、俺は「はい」と素直に頷いた。


「それじゃあ、行きますか!」


 俺は一気に山に向かって駆けていく。

 近くの場所が山しかないのだ。

 三十分ほど走ると、かなり山深いところまでやってきた。

 車で一時間かかる場所も、この身体能力があれば余裕だ。それに全然疲れていない。

 走ってくる途中で身体強化なども使ったが、スキル関連は普通に発動していた。


「さあ、周囲に結界も張ったから試すか」


 それから互いに確認しながら、どの程度使えるのかを一つ一つ試していく。

 二時間ほどが経過して、スキルや魔法関連も普通に発動することが分かった。

 ただ一つ、魔力が少ないせいか、魔力の回復には少し時間がかかるみたいだった。

 大規模な魔法は使わないから問題はないと思いたい。


 互いに確認も終わったことで、帰りながらこれからのことを話す。

 ちなみにアウラは俺に背負われている。


「ガッコウ?」

「そうそう。妹と一緒に中学でも行ったらどうだ? さすがにその見た目で高校生とは言えないからな……」

「どういうところ? 楽しいの?」

「勉強をするところだ。楽しさは人それぞれだと思うが、俺は楽しいと思うよ」

「なら行くわ。少しはこの世界に興味が出てきたから」

「ハハッ、アウラも苦手なことがあるのか。なら色々と準備しないとだな」


 戸籍を作ったりしないといけないが、幸いにも明日は土曜日だ。

 この休みで生活に必要なものは用意しておこう。

 そんなことを考えながら帰るのだった。



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