第29話 新入生歓迎レクリエーション その5

俺の素晴らしい説得が功を奏したのか、次のプログラムであるクイズ大会は平和に行うことが出来た。


宇野海斗はただ黙って俯いているだけで、こちらが気さくに話しかけても曖昧に頷くことしかしなかったが、こちらがただのクイズに夢中になって答えを必死に導こうとしても、それを馬鹿にするようなこともしなかった。


それにクイズ自体、テレビ番組でも通用しそうなくらいにクオリティの高いものでそれなりに楽しむことが出来た。

ただ途中、Cグループから天王寺らしき声と水森らしき声が何やらクイズの答えを巡って言い争っているのが聞こえてきたが、それは俺の幻聴だったと思うことにする。


「太郎先輩。優しいだけじゃなくて頭も良かったんですね」


クイズ大会が終わり、グループごとの昼食に移ろうとしている際に、町田が尊敬の眼差しで俺のことを上目遣いで見つめてきた。


「今日はたまたま、勘が冴えてたかな」


ここであえて謙遜しなかったのは、自分でもびっくりしてしまうほど、クイズに

おいて俺が大活躍したからだ。


近年、テレビのゴールデン帯におけるクイズ番組の占める割合は上昇している。

そのため、家では何となくテレビを眺めることの多い無趣味の俺は、意図せずともいつの間にかクイズに強い頭となっていたわけだ。


クイズで使う柔軟な発想力と対応力は、七股をするのにも通じる部分がある。

これは、新たに良い発見をした。教えてくれてありがとう町田。


「何デレデレしてるの」


いつの間に町田のすぐ隣にいたのか、土屋が訝しげな目を俺に向ける。


「結衣ちゃん。田中先輩を誑かすのも良いけど、私ともおしゃべりしようよ。男子じゃ混ざれない、女子トークをさ」


「も、もちろんです!土屋先輩みたいな超美人なお姉さんとお話するのは初めてなので、少し緊張しますが頑張ります!あ、あと誑かしたりはしてないですから!」


「いや別に何も頑張る必要はないんだけど・・・。でも、こんな可愛い女の子にそう言ってもらえるのは嬉しいな。ほらほら、向こうで一緒にお弁当食べよ」


二人は楽しげな様子で俺に背を向けると、少し離れたところに陣取ってしまった。


二人をこれ以上接触させるのはまずいが、かと言ってここで俺が無理やり二人の間に入ってもおかしな話なのでここは二人の会話が変なところに発展しないように願うことにする。


さて、それよりもまず腹ごしらえだ。

クイズで頭を使ったから余計に腹が減った。


一緒にお弁当を食べようと、他のAの1グループのメンバーを探すと、いつの間にか浩二君と長谷部が二人で何やら楽しげに床にランチョンマットを広げて一緒に食べる雰囲気を醸し出していた。


アイツら、さっきまでバチバチのように見えたが、どういう風の吹き回しなんだ。

まったく、最近の若いもんの恋愛模様は分からん。


そこから少し離れたところに、宇野が一人で体育座りをしていたので、俺は彼の隣に座り「一緒に食べてもいい?」と誘った。


宇野は小さく頷き、手に持っていた袋から弁当箱を取り出し、目の前に置く。


俺の同様に自分の弁当を、彼と横並びにして置く。


それからしばらくして「いただきます」の合図が出され、体育館中が食べ物の香りに包まれる。


その間俺と宇野はずっと無言だったが、これを機に、俺は宇野に話しかけようと口を開いた。


「あのs―」


「おい。太郎。見てくれよコレ。傑作だろ」


ドタバタと駆けこんできた天王寺が突然、大きな手で器用に掴んだ弁当箱を俺に向けてくる。


俺も宇野も一瞬怯んだが、その弁当箱を覗き込んでみるとそれはそれは可愛らしい熊さんが目に飛び込んできた。


「見てくれよこれ。チビ女の弁当。あいつ、グループ活動のくせに一人で食べるとかぬかすから無理やり弁当奪い取って中身覗いてみたらコレだよ。ここは保育園かっての」


「おい・・・テメエ・・・」


天王寺が嬉々として説明している間、鬼の形相をした水森が後ろから天王子を睨みつける。


「お~。怖い怖い。一丁前に怒ってやがる」


「早く返せやゴラアア!!!」


その小さな体で、怒りに我を忘れた水森が襲い掛かる。

しかしそれを天王寺は持ち前の反射神経で華麗に避け、座って弁当を食べている全校生徒を掻き分けて逃げ去った。


「待てや!逃げんじゃねえぞ!!」


彼女のロりボイスには似合わぬ口調で、逃げる天王寺を追いかける水森。

二人の追いかけっこは、先生の止めが入るまで、しばらく体育館上で続きそうだ。


全校生徒の皆様、うちの彼女とストーカーが大変失礼しています。


と、心のなかで謝罪するとしてあくまで他人のふり他人のふり・・・。


全く、どっちもまだまだガキなんだから。


「あれ、田中先輩の友人ですか・・・?」


呆気に取られている宇野に、俺は頬を掻きながら「多分」と曖昧に頷いた。


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