第25話 新入生歓迎レクリエーション その2

「3年2組。田中太郎。B型。帰宅部。特になし。居ない。よろしくお願いします」


レクリエーション最初のプログラムは、六人のグループで輪になっての自己紹介だった。

このように楽しげな雰囲気で行う改まった自己紹介が苦手な俺は、運営の生徒が掲げるカンペを見ながら、番号順に紹介していく。


「田中君。いきなりそれは適当過ぎない?」

隣に居た土屋に苦笑いを浮かべながら指摘され、周りを見てみると下級生が若干引いていた。


根が陰キャなので、こういう時にどのように場を盛り上げればいいのかが分からない。とりあえず、笑おう。

そう思い、困ったような笑みを浮かべて誤魔化すと「笑い方怖いって」と土屋がさらに表情を引き攣らせて言う。


「土屋先輩。色々と、残念っすね。でも大丈夫です!その分俺が頑張るんで」


2年3組。長嶋浩二。O型。バスケ部。ファッションとスポーツ観戦。土屋志穂。しくよろでえす!


俺に哀れみの視線を向けながら、THE・陽キャといった感じの自己紹介をした長嶋君の情報をまとめると、こんな感じだ。


グループが出来てから、こいつはずっと土屋にべったりで絶えず話しかけている。

バスケ部のくせして大学生みたいなパーマかけやがって。雑草みたいにむしり取ってやろうかその髪。陰キャは遠回しのディスリに人一倍敏感なんだよ。


「ちょっと浩二君。私はまだ芸能人じゃないよ」


「いいや、俺の中では広瀬すず。もしくはそれ以上っす!」


「それはさすがに嘘でしょ~。てなわけで次は私がいくね。3年1組土屋志穂です!血液型は浩二君と同じO型。そして部活は田中君と同じ帰宅部でーす。趣味はこれといったものはないけど休日はショッピングに行くことが多いかな。そして次の好きな芸能人だけど、これも田中君と同じで私も居ないかな。キラキラした雲の上の存在よりも、身近で一緒にいて安心する人に憧れるな。それじゃみんな、今日はいっぱい楽しもうね!」


土屋が、これぞお手本のような自己紹介を、眩いばかりのスマイルと共に披露する。

「身近で一緒にいて安心する人」のところでアピールするようにこちらをチラチラ見てきた時は思わず町田を窺ってしまったけど、特に関係性に気づいた様子はなく、これから来る自分の自己紹介のことで頭がいっぱいといった感じだった。

あと、休日ショッピングに行くと言っても、スーパーの試食コーナーを回ったり、腰の曲がったおばあちゃんが経営しているような古着屋でボロい洋服をただでねだったりと、浩二君では想像もつかないようなことをしているのだが、それは心の中でマウントを取るだけにとどめておく。


「楽しみま~す!!!」


おちゃらけた様子で拳を突き上げる浩二君に、ため息をついた2年の彼女が輪になって初めて口を開いた。


「2年3組の長谷部真紀です。血液型はAB型。趣味はお菓子作りで、好きな芸能人は錦戸亮君です。今日はよろしくお願いします」


淡々と自己紹介をする錦戸ガールに、浩二君が「テンション低くね真紀」と文句を言う。


錦戸ガールは「ふん」と鼻を鳴らすと、そっぽを向き、分かりやすく唇を尖らせた。


その態度に浩二君は「なんだよ。それ」と不満を漏らす。


グループの空気が完全に冷え込む前に「じゃあ次、結衣ちゃんお願い」と話を振り、彼女が慌てて「はい!」と姿勢を正す。


町田が一生懸命自己紹介をしている際に、隣に居る土屋からツンツンと太ももを突かれ視線を半分向けると「結衣ちゃんって何?浮気?」と口パクでメッセージを送ってきた。


その目には、明らかにあの錦戸ガールと同じ魂が宿っている。


俺は全力で首を横に振り「あとで詳しく」と口パクでそう伝えると、彼女は軽く息を吐いてニコリと笑って頷く。その表情は、少し面白がっている様子だった。

どうやら、少しからかわれただけらしい。


この間に、いつの間にか町田の自己紹介が終わっており、なぜか土下座で「不束者ですがよろしくお願いします!!」と締めくくっていた。


「よろしく!結衣ちゃん!」と景気よく応える浩二君。どうやら、根は悪くないのかもしれない。


「これで、5人だね。そしてラスト!トリを飾るのは・・・」


土屋がテレビのMCのような口調で進行し、みなの視線の先にいるのは町田の隣に居る、もう一人の1年生。


黒縁メガネの地味な印象を受ける彼は、体育座りをしながら表情一つ崩すことなく「1年1組。宇野海斗」と不愛想に言った。


それで役目を終えたとばかりに口を閉じる宇野。

「あの、、終わり?」


戸惑いながら土屋が訊ねると、宇野は深くため息をついてやってられないとばかりに胡坐をかいた。


「どうして高校生にもなってこんな下らないことをやらなくちゃいけないんですか。今後一切関わる予定の無い人間の血液型や趣味を知ったところで何になるんですか。はあ、めんどくさい。先輩方は高校生活で、ずっと自己紹介の仕方でも勉強してたんですか」


おっふ・・。天王寺、お前、凄いとこのくじ引いたな。

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