新入生歓迎レクリエーション編
第24話 新入生歓迎レクリエーション その1
4月13日。水曜日。
我らが「成駿高校」は、特殊なカリキュラムを用いて毎年多くの難関大学合格者を輩出している特進科の存在を除けば、特別な進学校ではない。部活の成績もそこそこであるし、全国に誇れることと言ったら、それこそ動物の数ぐらいしかない。
しかし、この成駿高校には、毎年倍率2倍を超える入学希望者が殺到する。
それは何故か。
「全学年合同新入生歓迎レクリエーション大会のスタートです!!!」
全校生徒がいる体育館中に生徒会長の木原の声が響き渡る。
そう、この高校の人気の理由は、圧倒的な行事ごとの多さなのである。
このレクリエーションに始まり、ほぼ毎月生徒が楽しめるような行事を用意してある。県内の中学校の教師が受験を控える生徒たちに送る言葉に、こんなものがある。
「漫画やドラマのような青春が送りたい人間は、成駿高校に行け」と。
実際、この言葉に間違いはない。
普通は学業や部活動に力を入れがちな高校であるが、うちはそういった生徒がいかに楽しく学校生活を送れるかという「青春」の部分に力を入れているためイベント関連で不満を持ったことは無い。
そして入学してくるのは、毎年2倍近くもある倍率を勝ち抜いてくるある程度質の保障された生徒ばかりなので学業や部活動の実績も真ん中よりは格段に上であるのだ。
(こう考えたらどうして天王寺のようなイレギュラーが入学できたのか疑問が残る)
そんなある意味青春をエンジョイしたい中学生の間では憧れとなっている成駿高校最初のイベントは、この新入生歓迎レクリエーションである。
全校生徒が体育館に一堂に会して、1年、2年、3年の男女一名ずつ計6名のグループを作り、ゲームなどを通して親睦を深めることが目的とされている。
新入生にとっては、先輩の存在を身近に感じる良い機会であり、上級生も先輩面を吹かせて右も左も分からない新入生に対してイきれる絶好の好機なのである。
しかし、俺は新入生にイきり散らかそうと息まいている余裕などどこにもなく、この全校生徒が集うこの行事でいかに七股がバレないそうにするかということしか考えていなかった。
「おい、お前。わっちとグループ組もうぜ」
グループにばらける前に、天王寺が近づいてきた。
「なんだ。話聞いてなかったのかよ」
こちらとしては彼女たちとグループを組むことになるよりは、こいつと組んだ方がマシな部分もあるのだが、事前に渡された紙に、もうグループ分けが書かれているのだ。
ちょうど彼女にそのことを説明しているタイミングで、木原が同じことをアナウンスし始めた。
「それでは、開いて下さい!」
四枚折になった用紙を、丁寧に開いていく。
一方で、天王寺は乱雑に素早く紙を開き「Aの1」と口にした。
「なんだ、お前はCの4か。つまんねえな」
天王寺がこちらの紙を奪い取り、俺もまだ見ていないのに番号を口にする。
些細なネタバレに、俺のテンションはガクンと下がる。
こうした小さな不幸の積み重ねが、人をどん底へと至らしめるのである。
「なあ、交換しようぜ。この紙」
「何でだよ。くじで引いたんだから、責任持てよ」
「だってよ~。1よりも4の方が数がデカくて強そうじゃねえか」
「だったらCよりもAの方が強そうだろ。それに、くじは男女別に分かれてるんだから・・・」
あれ?これは、もしかして・・・。
「よし、交換しよう」
「やったぜ。お前も段々ノリの分かる奴になってきたな」
俺は彼女のAの1を手にし、ニヤリと笑った。
このくじは、天王寺が引いたので女子用ということになる。
つまり、グループの同じ三年の相方となるのは、「男」。
これによって、彼女たちと同じグループになる確率は0となる。
Aの1のくじを引いた男子が、どんな女子が来るんだろうとワクワクしていたら、なんだか申し訳ないが、天王寺が来るよりは同性の俺の方が百歩譲ってマシなはずだ。
運営から指摘された時は、不手際を指摘してごり押せばいい。
俺はスキップをしながらAのグループが集まる体育館の南東へ向かう。
そこでAの1のプラカードを持った運営の生徒を発見し、近づく。
するとグループの大半はもう集まっており、列を作って前後や左右の人とおしゃべりをしていた。
「どうも~。こんにちは~」
恐る恐るその列に加わった瞬間、思わず声が出た。
その列の先頭にいたのは、三年の男ではなくて、まさかの人物だったからだ。
「え・・・、太郎?」
そこに居たのは男からは最も程遠い見た目の、俺の彼女、土屋志穂であった。
俺は何が起きてるのか分からなくなり、その場に立ち尽くした。
立ち尽くす俺を、最初は土屋も目を見開いて驚いていたが、やがて少し頬を紅くして、周りに聞こえるか聞こえないかくらいの声で「やった」と小さくガッツポーズ作った。
可愛いけど!可愛いんだけど嘘だろ?俺は確かに、女子の天王寺のくじと交換した。男子用のくじと女子用のくじは分かれているはずなので、同じ性別同士になることは絶対にないはずなのに・・・。
ここで、俺の頭にある仮説が浮かんだ。
それは、天王寺が「男」だったこと。あるいは、くじの神様かなんかに「男」と勘違いされたか。
(のちに、これはただの運営のミスであることが判明した)
ともかく、俺が現実として受け入れなければならないのは、このレクリエーションを土屋と乗り切らなければならないことだ。
でもまあ、正直絡むのはほぼほぼこのグループ内の人間だけだし、それに鉄の掟もあるので土屋も自ら俺たちが付き合っていることを言ったりはしないだろう。
おまけに、彼女は演技派だ。他人のふりをするとこなど、容易い。
「ど、どうも・・」
あくまで自然体に、土屋に軽く挨拶し、彼女が空けてくれた前の空間に座る。
「ど~も」
土屋も俺に合わせて、余所行きのスマイルでぺこりと軽く頭を下げる。
周りの視線がある時の営業モードの土屋と絡むときは、彼氏である俺すらも緊張する。
だから、土屋と同じグループとなった俺へAグループの男子たちの憎しみのこもった羨望が容赦なく突き刺さるのも、無理はない。
恨むなら俺でなく、己のくじ運を恨むがよい。
ま、このくじを引いたのは、男ではなく、人間かすらも怪しい奴なのであるが。
「今、5人集まってるから、あと一人かな」
土屋が状況を教えてくれ、俺は後ろを見て自分のグループを確認する。
見た感じ、来てないのは一年女子らしかった。
それにしても二年男子。横目で土屋をガン見しすぎだ。もうちょっと離れろ。
それにその浮かれる二年男子を物凄い形相で睨みつける二年女子。
あ~あ。これは面倒くさいことになりそうだな。
「す、すいませ~ん!」
俺がこっそり二年男子を睨みつけていたところ、後ろから声を掛けられた。
あれ?この声、もしかして・・・。
嫌な予感を抱きつつ振り返ると、そこには一昨日入学式の際に、一緒に学生証を探した町田結衣が肩で息をしながら立っていた。
「あ、あれ?!太郎先輩?!!!」
これはどうやら、土屋を見つめる二年男子に、睨みを利かせている場合ではなくなりそうだ・・・。
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