第22話 委員会・係決め 後半戦
高校最後の係決めで分かったこと。
それは、絶対の勝利なんてこの世には存在しないということ。
第1希望の企業に就職出来たとしても、蓋を空けてみればそこが自分とは合わない企業だったなんてのは、よくある事だし、努力して付き合えた彼女が実は七股女だったなんて事も、現実には起こり得る。
結論から言ってしまおう。
今回の係決め、俺にとっては完膚なきまでの敗北である。骨一つ残っていない。
帰り道。せっかくのいい天気なのに、顔を上げることが出来ず、黒のアスファルトの景色がここ数分ずっと続いている。
「何が不満なんだよ。わっちと同じ委員会になれたっていうのによ」
こっちの気も知らずに呑気に隣でチュッパチャップスを舐めている天王寺が唇を尖らせて言った。
もちろんそれも不満の一つであるが、俺が落ち込んでいる理由はそれだけではない。
「同じ・・同じ・・・ね・・」
そう同じだったのだ。
月島も、水森も、土屋も。み~んな同じ選挙管理委員会。
希望は通ったのだ。
案の定、選挙管理委員会に立候補する人間は誰もおらず、余裕で第一希望が通ったというのに、そこからの大転落。
委員会の活動は、もう来週にはスタートする。
彼女三人と天王寺が一堂に会して、事件が起こらないはずがない。
月島は事情を知る者なので、実質隠し通さなければならないのは水森と土屋の二人だけだが、それでも俺としては不安で腰が曲がってしまうほど精神的負荷が大きい。
そもそも、三人が予想に反して選挙管理委員会になった理由も腹立たしい。
三人そろって「太郎君が選びそうな委員会をあえて選んだ」と言うのだ。
まったく、ホントに可愛い・・・いいや、腹立たしい。
一緒の委員会になりたいからと俺のことを欺きおって。
俺が言うのもあれだが、嘘をつくのは人として一番最低な行為だと思う。
だけど、愛のある嘘であれば・・・まあ良しとしよう。
「笑ったり怒ったり、忙しいなお前の表情は。気持ち悪い」
そんな辛辣なツッコミを入れる天王寺がこの委員会を選んだ理由は、決して俺と一緒になりたかった訳ではないらしく、単に「管理」という言葉が気に入っただけらしい。
もしかしたら具体的に何をするのかも、こいつは分かっていないんじゃないのか?
「それにしても、普通女が学級委員に立候補したときは驚いたな。そんなタイプには見えなかったけど」
天王寺の言葉に、俺は強く頷いた。
日野については、俺もびっくりした。
学級委員の希望を取る際に、身体を震わせながら小さく、けれども力強く手を上げる日野の姿が、数時間経った今でもはっきりと脳内に焼き付いている。
「今までリーダーなどの経験はありませんが、せっかくの最後の機会なので挑戦したいと考え、立候補しました。頼りないと感じることもあるとは思いますが、是非とも温かい目で見守ってくれたら嬉しいです」
彼女は壇上に立ち、そう意気込みを語っていた。
「挑戦」
日野はもしかしたら、何か変わろうとしているのかもしれない。
少なくとも、俺が今まで知る日野は、決して自分から学級委員に立候補するタイプではなかった。
だからこそ、クラスメイトの前で力強く意気込みを語る彼女の姿は、俺の瞳には眩しく映ったし、同時に少し寂しさも感じた。
幼馴染とはいえ、ずっと一緒に居たとはいえ、俺の知らない日野が、まだいる。
そのことにあまり言葉では上手く説明できない不安を覚えたのだ。
ちなみにもう片方の火野は、体育委員会に入った。
彼女はてっきり俺と同じ委員会に入ろうとするのではと予想していたが、それは自意識過剰だった。
「女心って、難しいよな」
なかなか思い通りにいかなかった係決めを総括して、ため息をつきながら呟くと、天王子は「当たり前だろ」と嘲笑した。
「女なんて生き物は、些細な出来事一つで考え方を180度も変えられちまうんだぞ。今はお前にゾッコンの輩たちも、明日になったら全員別の男に想いを寄せている、なんてことも考えられるんだぜ」
何故か愉快そうにそう脅す天王寺。
「それも充分にある話だよな」と呟き、空を仰ぎながら、俺はこれから先の自分の七股ライフを案じた。
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