第21話 委員会・係決め 前半戦

4月12日。火曜日。


今後の一年の運命が決まる、学生生活において最も重要な時間が訪れた。


『係決め』


それは、クラス全員の野望と欲望がうずめき合う、陰に埋もれがちだけど結構な重要なイベントランキングナンバー1のイベント。


お近づきになりたいあの子と同じ係になりたい・・・。

とにかく楽な仕事がいい・・・。

クラスカーストを上げるために、少しでも良い役職に・・・。


各々の目的は、全く異なるものにしろ、空いている席は限りがある。


そう、係決めとは、恋愛的シミュレーションを含む就活である。


この学園生活において自分が何に重きを置くかというのを真剣に考え、時には周りを蹴落としてでも、なりたい自分へと近づくために限りのある椅子を奪い合う。


そして俺が係決めにおいて重きをおいているのは無論、起こりえる事故を少しでも避けるために彼女たちと同じ係にならないことである。


うちの高校ではクラス40名全員が、必ず何かしらの委員会や係に所属しなければならないというルールがある。


委員会とは、学校に通ったことがあるものならみんな知っている通り、生徒手帳に記載されている生徒会組織図に該当する、クラスの幅を越えて学校全体の活性化のために力を尽くす組織である。


学級委員長・副学級委員長を兼ねた評議会。

風紀委員会。

美化委員会。

体育委員会。

保健委員会。

図書委員会。

文化委員会。

生物委員会。

放送委員会。

選挙管理委員会。


この10つの組織が、うちの高校が定める「委員会」に該当する。

この中で高校の委員会としては少し異彩を放つのが生物委員会だろうが、うちの高校は飼育している生物(ウサギやニワトリ、鯉など)の数が農業高校などを除けば全国ナンバー1の高校で、生徒の人権よりも生物の健やかな暮らしが優先される高校なのである。


何でもいいから全国ナンバー1の実績が欲しいと目論んだ校長の策略により、年々動物の数は増え始め、この10つの委員会の中では生物委員会が一番の重労働を強いられるという外れ中の外れの委員会である。



そして「係」に該当するのが

現代文。

古文・漢文。

数学。

コミュニケーション英語。

英語表現。

日本史。

世界史。

現代社会。

地学・生物。

その他。


の、各教科ごとの先生のサポートを行う組織である。

こっちは、活動範囲がクラスだけに留まるのであまり目立ちたくない俺にとっては絶好の役職でここ2年はずっと係に所属していたのだったのだが、この高校のクソ校則の規定により、3年間で必ず一回は委員会に所属しなければならないせいで今年は強制的に委員会の方に所属しなければならないのである。


この20の組織に、男女一名ずつが所属し、計40名。

そう、空いている椅子は、たったの一つしかないのである。


「なあ、お前はどこに入るか決めた?」


担任教師のみっちーがそれらのラインナップを黒板に書き並べていく間、クラス中が異様な空気に包まれていく中で、後ろの席の錦戸が耳元で尋ねてくる。


問題はそこだ。委員会に所属しなければならないということは、他クラスの生徒とも交流を持たなくちゃいけないという訳であり、他クラスの彼女たちの動向も気にかける必要がある。


だが、プロの七股の俺はもうすでに彼女たちの希望委員会についてはリサーチ済みで、あとはそこを避ける且つ、自らの希望も備わった委員会を選べばいい話なのだ。


ちなみに彼女たちの希望委員会は、ヒノヒノコンビは同じクラスなので除外して、1組の土屋はブラックで評判の生物委員会。うさぎの餌の野菜を、こっそり持ち帰ることを企んでいるらしい。

3組の金村は、そもそも留学中なので欠員が出たら困る委員会になることはないだろうと踏んでいる。

4組の月島と木原だが、木原はそもそも生徒会長なので委員会には所属できない。月島は保健委員会で、動機の方は何となく想像がついたので聞かなかった。

そして特進科6組の水森だが、これまで2年連続で風紀委員だったので今年もそれか、もしくは係の方に回るかもと言っていた。


それらの情報を元に、俺が導き出したのは・・・。


「選挙管理委員会」


これが一晩考えた末に、俺の出した結論だった。


「マジかよ。変わってんな。なんで」


錦戸が、興味津々の様子で聞いてくる。


変わってる・・・か。

ま、そうだろう。


選挙管理委員会とは、文字通り生徒会選挙の運営などを行う委員会であり、堅苦しいイメージとその作業の面倒さと地味さから、決して人気があるとは言えない。


しかし、この委員会の最大のポイントが、他の委員会は通年を通して何らかの仕事があるのに対して、ここはたったの選挙期間の前後1か月を耐えれば、もうそれで終わりなのである。


つまり、残りの11か月は、無所属状態。ニートになれるのだ。


「いやあ。勇気を出して立候補した人を、応援したくて。それに、近々俺たちも選挙権を持つだろ?だから運営の立場から選挙の仕組みに関しての理解を深められないかなと思って」


「うわ。真面目、太郎」



もっともらしい理由を並べてみるが、結局は楽したいだけなのである。


それにうちの高校の選挙期間は珍しいことに5月。

たった一ヵ月後に迫ったこの早急さも、不人気の理由の一つなのだろうが、俺にとってはライバルが減って都合がいい。


俺は、もはや勝利を確信したかのような笑みを浮かべる。

目先の利益ばかりに囚われて、物事の本質を見抜けない人間はいつだって損をする。

俺のように、広い視野を持つことがこの先の人生を歩む上で大切であるのさ。


「さ、さ~って。みなさんお待たせしました。早速学級委員の方から決めていきたいと思うんだけど・・・」


黒板に写し終わったみっちーの掛け声に合わせて、教室が静まり返る。


一瞬で緊張感が駆け巡り、勝ちを確信した俺も思わず鳥肌が立つ。


運命の50分が今、始まる。


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