第4話 ゴリラの噂

クラス替えと新学期のダブルパンチで、教室中のムードが高まっている中、端の方から奇妙な噂が聞こえてきた。


「今朝、うちの校舎にゴリラが入っていくのが見えた」


宮本という名の黒縁メガネのモブが言うには、それは冗談でも比喩表現でもなく、本当にゴリラだったらしい。


「そんなはずないだろ」


宮本を取り囲む二人の特徴すら無いモブが、俺の心の中を代弁してくれた。


「ホントなんだって!」

宮本は主張するが、当然俺もモブも聞く耳を持たない。


あまりに芳しくない対応が不服でヤケをおこしたのか、とうとう宮本はそのゴリラがうちのクラスとまで言い出した。


「ほら、このクラス名簿見てみろよ。天王寺舞って名前があるだろ?この女こそが、俺が見たゴリラなんだって!」


確かに今まで聞き覚えのなかったこの名前を気にはなっていた。けれど、そんな可憐な名の女子がゴリラなはずないではないか。


きっと、黒髪ロングのお嬢様に決まっている。


宮本の周りのモブたちは、堪えきれなくなったのか、「新学期早々かましてくれるな~」と堰を切ったように笑い始めた。



「あいつらは信じちゃいないが、宮本の話、本当だぜ」


俺の机に座り、宙に浮いた足をプラプラさせながら錦戸は言った。


「新学期早々かましてくれるな~」


「バカ。だからマジだって言ってるだろ」



錦戸は唇を尖らせて言うと、顔を俺に近づけて耳元でささやき始めた。


「あんまり大きい声では言えないけどよ。ここら辺の地域一帯の不良やチンピラをまとめ上げていたJKが居るって伝説があったんだよ。喧嘩慣れした大の男が100人束になっても勝てず、忠誠を誓わされたり、腕っぷしだけでなく、あの美空ひばりをも髣髴とさせるそのカリスマ性で、部下は年代性別を問わず500人はいたという・・・」


そのJKの名が、天王寺舞というらしい。



「お前、小説家になれるぞ」


「だから作り話じゃねえって!なんで信じられないんだよ」


「いや、逆に信じる方が無理があるだろ」



ただでさえハードモードの七股学園ライフだというのに、そこにさらにクラスメイトに伝説の不良だか、ゴリラかも分からない奴まで登場してきたら内容量が多すぎて訳が分からなくなる。


そんな内容の定まらないラノベじゃあ、読者はついてきやせんよ。


頼むぞ。作者。

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