第2話 始業式というものは、どうしても退屈だ

「うちの校長って、なんだかつまんないよな。こういう行事の時の校長の話って言ったらさ、普通難しくて長ったらしいから眠くなるもんだろ。それなのにうちの校長ときたら、要点をまとめて早々と話を切り上げる」


男は始業式中だというのに、ため息をついて背伸びまでしている。


「やってらんねえよな~マジで。校長の話はなげえし。ホント、始業式かったりいわ~みたいなセリフが言えないもん。言いたいのに。だって、校長の話が短いから」



新学期早々そんなどうでもいいことに真剣に不満を抱いているのは、錦戸亮である。


錦戸亮、という名前を聞いたらあっちのかっこいい方を思い浮かべるだろうがこっちの錦戸亮は坊主頭の至って平凡な高校生である。同姓同名とは、ある意味皮肉なものである。


ちなみにうちの錦戸は、あっちの錦戸の事が嫌いらしい。

理由はジェラシーを感じるとか、そういった類ではなく、単に顔があまり好きではないらしい。


向こうの錦戸にとっては坊主頭の同姓同名の高校生に「顔が好き」と言われた方が恐怖を感じるだろうから、ここに平和な世界が誕生したわけだ。



「校長先生の話が短くても、別に始業式の愚痴は言ってもいいと思うけど」


錦戸は分かってないなとばかりに首を振った。


「いいか。始業式のダルさと校長の話が長いというのは二つでセットなんだよ。お前はとんかつ屋に行った時、とんかつの皿にキャベツが盛られてなかったらぶち切れるだろ?だから俺は今、キャベツが無くてぶち切れてるんだよ」


「いや、始業式にキャベツを持ち込むバカはさすがにいないだろ」


「田中。お前って時々、ずれてるよな」



お前に言われたくない、とそっぽを向いて校長の話に耳を傾ける。


「先生の春休みは、まさに唐揚げの皿の端に追いやられているレモンのような日々でした。家庭ではいつも、嫁や娘に邪魔者扱いされ・・・」



どうしてここの学校の関係者は、やたら揚げ物でたとえ話をしたがるのか。

それにうちの校長の話、ちょっと面白そうじゃないか。


みんな、ちゃんと聞いてやれよ。


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