第54話【急げ】

 ドリルから少し離れた場所にはパールがうつ伏せで血を流し倒れている。


 ドリルは辛うじて意識を保っており顔を上げた。


「う、うぅ……パール……シ、シズ……」


 シズはスクラードによって顔を鷲掴みされ、片手で持ち上げられていた。


「クックックッ……他愛のない……もう少し、楽しめると思ったんだがなぁ……」


 シズもまた、辛うじて意識は保っていた。


「くっ、くそう……」


「ほら、どうした? 元気をだせ」


 スクラードはシズの顔を握る手に力を込めた。


「ぐあああああ!!!!」


「クククッ! なんだ、まだ元気じゃないか! ほら、もっと聞かせろよ!」


「うがああああ!!!!」


 スクラードはシズをいたぶり続けた。


「ケッケッケッ!!」


 周りにいる兇獣きょじゅう達もそれを見て笑っていた。


「!?」


 その時、スクラードへと石が飛んできた。


「んんー?」


 スクラードが石の飛んできた方を見ると、ドリルが大木を背に寄りかかり立ち上がっていた。


「はあはあはあ……」


「ほう……まだ生きていたのか?」


「はあはあはあ……シ、シズを、放せ……」


「クックックッ……そんな身体でまだそんな気を吐くか」


 するとスクラードは兇獣きょじゅう達に合図を送った。


「今の貴様なんぞ四獣兵しじゅうへいでも十分だろう」


 合図を受け三体の兇獣きょじゅうがドリルを囲んだ。


「ケッケッケッ!!」


「くっ!!」


 そして一体の兇獣きょじゅうがドリルへ襲い掛かると、ドリルは剣で兇獣きょじゅうを切り裂いた。しかしその拍子に態勢を崩し地面へと倒れてしまった。


「ぐあっ!!」


 そこへ兇獣きょじゅうが飛びかかりドリルの顔や足を蹴った。


「ぐふっ! がはっ! ぐあっ!」


「クックックッ……おいおい、可哀想だからあまりやりすぎるなよ」


 ドリルは四獣兵しじゅうへいによっていたぶられ続けた。


「……ううぅ……」


 その時、シズが朦朧とした意識の中、声を出した。


「ぐうぅ……ドリル……」


「んん? まだ意識があったのか? まあいい……」


 するとスクラードはシズをドリルの元へと投げつけた。


「ぐふあ!!」


 瀕死のドリルはシズに声を掛けた。


「シ、シズ……」


 シズはダメージが大きく、ドリルへと答える事が出来ないでいた。


「うう、ぐあぁ……」


 スクラードは冷めた目で二人を見ている。


「ふん、そろそろ飽きたな……終わりにするか……」


 するとスクラードは右手にオームを集中させ始めた。


「コオオオオオオ……」


 スクラードの右手にオームが集まり球体を成していった。


「クックックッ……きれいさっぱり、跡形もなく吹き飛ばしてやる……」


 それを見ていたキリザミア兵のマルコスは拳を強く握った。


(くぅう……! すまん、ガルイードの兵士よ! ここで私が出て行ったところでどうにもならん……今、国王を御譲りする兵士であるこの私が倒れるわけにはいかんのだ……ゆ、許せ!!)


 その時、マルコスは何かに気付いた。


(??  あ、あれは??)


 一方、スクラードが溜めたオームの球体は直径一メートル程にもなっていた。


「クックックッ……覚悟はいいか……?」


 ドリルもシズもダメージが大きすぎて動けないでいる。


「ぐ、ぐうぅ……」


「死ねえい!! ガルボドム!!」


 スクラードはオームを二人に向け放った。


「ぐっ!! くそっ!!」


 スクラードの放ったガルボドムが二人に直撃しようとしたその時、オームは二つに割れ左右に弾けて大爆発した。


「なに!?」


 爆発したオームは広い範囲で爆炎を発し、辺りは黒煙に包まれた。


 そして次第に薄れゆく黒煙の中には、うっすらと人影が見えた。


 黒煙の中から姿を現したのは、 なんとオルト隊長であった。


「うぅ……オ、オルト、隊長……?」


 ドリルはオルトに気付くと声を発した。するとオルトは二人にクレアルを投げた。


「飲め……そのダメージには気休め程度にしかならんだろうが、多少は楽になる」


「ううぅ……」


 ドリルはクレアルを飲むと動けないシズにも自ら飲ませ、その後オルトに声を掛けた。


「オルト隊長……」


 オルトは背を向けたまま答えた。


「ああ……大丈夫だ、後は任せろ……」




「……遅え……」




「……………………え?」




 オルトは振り返った。


「だってしょうがないじゃん! ガルイードを出ようと思ったら酒屋のジークが声掛けてくんだもんよ! 久しぶりだったし無下には出来んだろう!?」


「飲んでたんですか……?」


「いや……だってジークが……」


「飲んでたんですね?」


「……はい……」


「……ったく……いい加減なんだから……」


 ドリルは少し笑いながら言った。


「悪かったって……今度はお前も誘ってやるから!」


 笑顔でそう答えたオルトは、ドリルの切断された左足を見ると表情を引き締めた。


 そして血を流して倒れているパールを見ると少し顔を伏せ目を瞑った。


「…………」


 オルトはゆっくりと目を開けた。


「しかし、強い兇獣きょじゅうがいるとは聞いていたが……」


 オルトはスクラードの方へと振り返った。


「まさかこんなとんでもない化け物がいたとはな……」


 オルトは身体からアークを滲ませた。


「クックックッ……随分と、楽しめそうな奴が現れたじゃないか……」

(この俺のガルボドムをあっさりと切り裂くとは……こいつ……何者だ……?)


  するとオルトは剣を抜くと何か動きを見せた。


 そして剣を鞘に納めた次の瞬間、残っていた二体の兇獣きょじゅうが真っ二つになり倒れた。


「なに!?」


 オルトがスクラードを睨み付けると、滲んでいたアークは徐々に濃くなり、オルトは一歩前へと出た。


「部下の仇……取らせてもらうぞ」


 それを聞いたドリルは呟いた。


「まだ死んじゃいないすけどね……」


 一方、それを見ていたマルコスは驚いていた。


(だ、誰だあれは? あの男もガルイードの兵士なのか……? と、とんでもないアーク感じるぞ……こ、これなら……)


 そしてフィルの後を追い、モラルへと向かうザックも異変に気付いた。


(ん? 誰か増えたか……? 凄え量のアークを溜めてるじゃねえか……こりゃあ、ひょっとするとひょっとするか……? くそっ、こっからじゃあまるで見えやしねえ 、あの小僧もうちっとスピードあげらんねえのかよ!?)


 フィルも何かしらの異変には気付いたが、ザック程詳しい内容は理解できなかった。


 しかし胸騒ぎは感じており、よりモラルへと向かう足取りを速めた。


 そして――


 お互いの隙を探しながら対峙するオルトとスクラードだったが、一瞬の静寂を経て。


 オルトが動いた。

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