第53話【愕然】

 バルザへ突っ込むジレットと吹き飛ばされたロコの二人が交差しようとするその直前、ロコは一回転してジレットの拳の上に足を乗せ、足にアークを集中させた。


「ぬをおおおおおおお!!!!」


 するとジレットは拳にロコを乗せたまま、アークを纏った拳を前に押し出した。


 ビキビキビキ!!


「ぐううあああ!!!!」


 ロコの足に激痛が走ったが、ロコは歯を食いしばりジレットの拳の勢いをつけてバルザへと飛び出した。


「!!??」


 ロコは一気にバルザの眼前へと迫るとバルザは咄嗟に拳を振った。しかしロコは身体を回転させて避けるとその回転の力も利用し、バルザの首へと剣を横払いに振り当てた。


「おおおおお!!!!」


「ガアア!!!!」


「!!??」


 バルザの首から大量の血が噴き出した、が、剣は深くめり込むも途中で止まってしまった。


「うおおおおおお!!!!」


 ロコは懸命に剣を振り切ろうとするがバルザの首にはこれ以上めり込んではいかない。


「ぬをおおおおお!!!!」


 その時、ジレットが飛び出し拳をロコの剣先へとぶち当て、剣を振り切る後押しをした。


 ジレットの拳に剣がめり込み血が噴き出したが、ジレットは構わず力を込めて拳を突き出した。 



「ぬをおおおおおおお!!!!」


「うおおおおおおおお!!!!」


「グゴゴゴオオオ!!!!」


 剣は次第に深くバルザの首にめり込み。


 遂にバルザの首を切り飛ばした。


「グオオオオオ!!!! ま、まさかこの俺が……」


 バルザの首が地面に落ち、身体が倒れた。


「はあはあはあはあ……あーしんど!!」


 ロコはその場に大の字で倒れた。


「がははは! 上手くいったじゃないか!」


 ジレットは血だらけになった自分の右拳を見て思った。


(しばらく拳を握れそうにはないな……)


 すると戦いを終えた他の兵士達がジレットとロコの元へとやってきた。


 カリーがジレットへ声を掛ける。


「おう、そっちも終わったか」


「がははは! なんとかな! おめえさんもなかなか苦戦したみてえだな!」


「へっ! なぁに、ちょいとアークが底をついたってだけだ」


 そしてキリュウがスコッチの肩を抱えやってきた。


「すまない、だれか回復魔を使える奴はいないか? スコッチの背中の傷が深い……」


 カリーが応えた。


「回復魔法か……俺は攻撃魔法しか使えねえし、ジレットもロコも駄目だな……」


 するとデスクとバトルも戦いを終えてみんなの元へやってくるとデスクが申し出た。


「俺、多少回復魔法使えます!」


「そ、そうか、すまないが急いでスコッチの傷の手当をしてやってくれ」


「はい!」


 キリュウがスコッチをうつ伏せにして降ろすと、デスクが背中に回復魔法を当て、そして他の兵士達も各々で出来る限りの傷の手当を行うとロコが口を開いた。


「全員ボロボロだな……」


「がははは! なあに! まだいけるさ!」


「ジレット、おめえは楽観的だなぁ……」


 カリーも口を開いた。


「あいつらの言う事が本当なら、この中モラルには奴らよりはるかに強い兇獣きょじゅうがいる……」


 カリーはモラルの方を見た、するとバトルが問いかけた。


「ドリルさん達は? ドリルさん達はどうしたんですかね? ここへ来てないってことはまさか中で……」


「がははは! 慎重な奴だ、あいつに限ってそれは無いだろう、きっと俺達が来るのを待っているんだろうよ!」


「で、ですかね……?」


 キリュウが口を開いた。


「いずれにせよ早急に、慎重に行った方が良い……」


 カリーが応えた。


「だな、しかしうちの隊長はなにやってんだ? いつも肝心な時にいやしねえからなぁ……」


「がははは! あの人は気まぐれだからなあ、まあ気が向いたら現れるさ!」


「だといいがな……」


 そしてカリーはみんなに声を掛けた。


「んじゃまあ、気は進まねえが、とにかく行くか!」


「おう!!」


 兵士達はモラルへと向かって行った。






 ——数十分前、モラル東南側



「ぐぬぬぬううう……」


 フィルはモラルの方を見ながら拳を握りしめていた。


「うおおおお!!」


 そして大木を殴りつけた。それを見たボウルがフィルへと声を掛けた。


「フィル! ど、どうする? このままじゃあ……」


「ぐうぅぅ……」


 バッチとパウチも声を掛けた。


「フィル!」


「フィル!」


 フィルは更に拳を強く握りしめると口を開いた。


「俺が……俺が行く……!!」


 それを聞いたボウルが叫んだ。


「し、しかし、それじゃあここは?」


「そんなことを言っている場合じゃない!!」


「そ、そうだけど……」


「……ボウル……ここはお前に任せる……」


「え? 俺に?」


「ああ……お前の兇獣きょじゅうとの戦闘を見る限り、お前は勢いや自分の能力だけではなく、周りの状況、相手の動きや特性を判断し、理論的に作戦を構築出来る戦い方をしていた」


「え……」


「お前なら何かあった時に、最良の判断が出来る。だからここの指揮はお前に任せる!」


「そ、そんな……俺なんかにそんな……」


「四の五の言ってる場合か!! やるんだ!!」


「うぅ、……わ、わかった……や、やってみる!」


「よし……バッチ、パウチ、なにかあればお前たちもボウルをサポートしてやってくれ!」


「わ、わかった!」


「よし、じゃあ行ってくる!」


 そう言ってモラルへと駆けて行ったフィルを影から見ていたザックは考えた。


(おいおい、行っちまったぜあいつ……しかし流石にあいつが行った所でどうにかなるようには思えんが……)


 ザックは更に考え込んだ。


(どうするか……そろそろ潮時か……んー、まあ、もうちょっとだけ見ておくか……)


 ザックもフィルを追い、モラルへと向かった。





 ――――



 フィルは大急ぎで山道を降って行った。


(くそっ! 頼む! 間に合ってくれ!!)






 ――数十分前、モラル内民家の地下



 キリザミア兵のマルクスが国王に話しかけた。


「国王様、静かになりましたね……」


「うむ……さっきまでの轟音……確実に兇獣きょじゅうと兵士との戦いが起きていた……もしかしたらガルイードの兵士か……?」


「様子を、見に行きますか……?」


「……そうだな……マルクス、くれぐれも用心して行くんじゃ」


「はい、承知しました」


 そう言うとマルクスは地上への扉をゆっくりと開いた。


「よし、兇獣きょじゅうはいない……」


 そして物音を立てぬよう、ゆっくりと地上へと出ると出入り口の扉まで走った。


「ふう……」


 そして慎重に少しだけ扉を開くと外の様子を見た。


(近くに……兇獣きょじゅうはいない……)


 マルクスは慎重に外へ出ると辺りを見回した。


(音がしていたのは…………あれか……!?)


 マルクスが南西の空を見ると、うっすらと土埃が立ち上っていた。


(よし!)


 マルクスは辺りを警戒しながらも土埃が立ち上がっている方へと走り、一軒の民家の屋根へと登った。


 そして屋根の最上部まで到達すると顔をゆっくり上げ、屋根の向こう側を覗き込んだ。


「!!!???」


 マルクスは目に飛び込んできた光景に愕然とした。


 ドリル達のもとにやってきた兇獣きょじゅうのうち、三体は首や胴を切断されその場に倒れていた。


 そして、その近くにある大木に左足の膝から下を切断され、血まみれになり大木にもたれかかり下を向く、ドリルの姿があった。

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