第49話【遭遇】

 ――正面組


 ジレットとカリー達は全軍と合流すべく、タミル入り口を目指していた。


「なあジレット、どう思う? あいつ」


「あん? なんだカリー? あいつって、あのフィルとかいう新人か?」


「ああ……実際、只者じゃねえよな? なんだってあんな奴が急にウチの隊に?」


「うーむ、確かに……大抵ウチに来る奴は弱いか、頭が悪いか、やる気がないか、言う事聞かないか、暗いか……ろくな奴じゃねえからな! がははは!」


「だよなあ……」


「おおかた元の隊でなんかやらかしたんだろう? がはは! 俺は面白え奴だと思うけどなあ! こんな作戦なんて立てて攻めるのはいつ以来よ? まさかお前さんと協力して兇獣きょじゅうと戦う日がくるとはなあ!」


「たしかにな、ウチの隊長は適当だからなぁ……毎回来たり来なかったりだし……」


「がはは! お陰で窮屈せずにやれてるじゃねえか! 中枢の国衛軍じゃあ、こうはいかねえぜ!」


「違えねえ、本当、はみ出し者には居心地の良い隊だよな」


「がははは! お! 見えてきたぞ! あれだ! ロコ達だ!」


「ようし、んじゃまいっちょやったるか!」


 ジレットとカリー達は、モラル入り口付近で数体の兇獣きょじゅうと対峙している兵士達を見つけた。


 ジレットは兵士達の後ろに着くと、声を掛けた。


「おうロコ! 追いついたぜ! どうだ調子は!?」


「……よおジレット、遅かったな、けど丁度よかったぜ」


 ジレットは振り向いたロコの顔を見て驚いた。


「お前……」


 ロコは額から血を流し、身体にも無数の傷を負っていた。


「お前程の男が……?」


「へっ……それだけじゃねえぜ……ダミーとキープはられたよ……」


「なに!?」


 ジレットが兇獣きょじゅうの横を見ると、二人の兵士が倒れていた。


「残ってんのは俺とキリュウとラッドだけだ」


 それを聞いたカリーも驚きを隠せずにいた。


「う、うそだろ……この、兇獣きょじゅう達に……?」


「ああ……それでも随分と他の兇獣きょじゅうは倒したんだがな、特に奴ら三体はちと別格だ……」


 ロコが目配せした先には、ただならぬ雰囲気を持つ三体の兇獣きょじゅうが立っていた。


 カリーはロコに問いかけた。


「てことはこいつらがモラルを占拠してる兇獣きょじゅうの親玉って事か?」


 すると三体のうちの一体の兇獣きょじゅうが口を開いた。


「フッフッフッ……残念ながらそれは違う……」


「なに!?」


「この奥に控えているスクラード様こそ、この場を仕切る統獣兵とうじゅうへい、その力は俺達三体の総戦力より上だ」


 それを聞いたロコは驚愕した。


「こ、こいつら三体よりも……上だと……?」


 するとジレットが一歩前へ出た。


「がははは! 驚いたところで、どの道倒さんとならねえ敵だ! それにまだ援軍だっている! とにかく、俺らは目の前のこいつらをぶっ飛ばそう! いろいろ考えんのはその後だ!」


 そう言うとジレットは両拳をぶつけ合わせた。


 それを聞いたカリーは笑った。


「へっ! 確かにそうだな、んじゃまいっちょやったるか!」


 そう言ってカリーが構えると、カリーの身体からアーク光が輝いた。


 そしてそれを見た他の兵士達も皆構えた。


「フッフッフッ……」


 兇獣きょじゅうは不気味に笑っている。






 ――モラル東南



 フィル達はモラル東南側へと着々と進んでいた。


「みんな! そろそろだ! あそこにある高い木の上に登ろう!」


「おう!」


 そしてザックもまたフィル達を追って来ていた。


(……なんでい、こっちの組はあの小僧以外は雑魚ばっかじゃねえか……こんなことならあの筋肉野郎の方へ着いていけば良かったかな……)


 ザックはモラルに目を向けた。


(確か、筋肉野郎達は西側の方へ向かっていたな、この位置ならそろそろ見えるか……?)


 するとザックは足を止め目を凝らした。


(あの辺……か……ああん!?)


 ジレット達を見つけたザックは対峙している兇獣きょじゅうを見て驚いた。


(あ、あれは……バルザとブルーム、それにドロウルじゃねえか……スクラードの奴、あんな奴らまで従えていたのか……)


 ザックは笑みを浮かべた。


(くっくっくっ……あいつらは三体共二獣兵にじゅうへいだ、数こそ筋肉馬鹿達の方が多いが、こりゃあ下手すりゃスクラードにたどり着く前に全滅もありうるなぁ……くっくっくっ……)






 ―― 一方モラル北側



 ドリル達は特に兇獣きょじゅうに合うこともなく、モラルへと容易に侵入した。


「やけにあっさりと入れたな……やっぱ兇獣きょじゅう達は正面西側へ集中してるのか?」


 モラル内は崩壊した建物が多く、至るところに倒れたキリザミア兵や兇獣きょじゅうの姿があり、戦闘の痕跡が見て取れた。


「…………」


 ドリル達はモラル内を歩いた。するとパールがドリルへ声を掛けた。


兇獣きょじゅういませんね……全て西へ向かっているのでしょうか?」


「うーん……どうだろうな? キリザミアの国王がモラルへ逃げ込んだって情報だから、掴まってるか隠れるかしてると思うんだけど、だとしたらそれをほったらかしにしていくかね……?」


「確かに……どうしますか? 国王を探しますか? 西へ応援に行きますか?」


「うーん……どう思うシズ?」


「…………」


「んん、なんか言えよ! 相変わらず暗えなぁ……んじゃあ、とりあえず一旦西に行くか、んでジレット達がやばそうだったら加勢するし、大丈夫そうだったらキリザミアの王様を探す、それでいいだろ?」


 パールとリップが応えた。


「わかりました!」


 ドリル達はモラル内から西を目指し歩き始めた。


 その時、ドリルが何かに気付いた。


「!!?? みんな待つんだ!!」


「!!??」


「どうしましたドリルさん!?」


 するとドリルは一軒の民家へと近づいた。


「干し肉だ……いただいていこう」


 ドリルは軒先に吊るしてあった干し肉を手に取った。それを見たパールは半目で声を掛けた。


「窃盗ですよ……それ……」


「なんだよー、いいじゃねえかよー、もう誰も住んでねえって、食料は大事だよー」


「もしかしたら兇獣きょじゅうに捕らわれてるだけかもしれないじゃないですか、一国の兵士あろうものが窃盗なんて恥ずかしいですよ……」


「どうせ俺は恥ずかしい奴ですよーだ」


 ドリルはパールに舌を出して見せた。


 すると次の瞬間、六体の兇獣きょじゅうが四人の元へと現れた。


「!!」


 ドリルは呟いた。


「この干し肉の持ち主……ってわけではないよな?」


 パールが応えた。


「冗談言ってる場合じゃないですよ……」


 そう言い、パールが剣に手を添え構えたその時、パールの腹部を黒い閃光が貫いた。


「!!??」


「!!??」


「クックック……正面の奴らとは別に北側から侵入しているとはな……なかなか賢いじゃないか……」


 ドリルが血相を変えて叫んだ。


「シズ!!!! アークを解き放て!!!!」


 その瞬間、ドリルとシズは身体から一気にアークを放出し、閃光を放った兇獣きょじゅうへと突っ込んだ。


「クックック……」


 ドリルは兇獣きょじゅうの首元へと横なぎに剣を振り、シズは足元へと剣を振った。


 しかし兇獣きょじゅうは裏拳でドリルを容易く吹き飛ばすと、ドリルは民家へと突っ込んだ。


「ぐああああ!!!!」


 そしてシズの放った剣は、なんと足の裏で止められた。


「!!??」


 兇獣きょじゅうは口からオームをシズへと放った、シズは両腕をクロスし、アークを纏わせ防御するが吹き飛ばされてしまった。


 一方、リップは倒れたパールを抱きかかえ叫んでいた。


「パール!!!!」


 すると民家へと突っ込んだドリルが飛び出し、リップへと声を上げた。


「リップ!!!! 戦闘態勢を取れ!!!! 死にたいのか!!!!」


 リップは抱えていたパールを地面へ寝かせると立ち上がり、両腕からアークを放出させた。


「うをおおお!!!!」


 そしてオームにより吹き飛ばされたシズも辛くも立ち上がり、再びアークを放出させた、それを見た兇獣きょじゅうは不敵に笑い、三人の前へと一歩出た。


「クックック……丁度暇をしていたところだ……せいぜい、楽しませてくれよ……」


 兇獣きょじゅうの身体からは禍々しいオームが滲みだしていた。


【スクラード】

マクベシノからなる兇獣きょじゅう、三メートル程の巨体を誇り力も頭脳もずば抜けている。 郡獣団兵の中での 最高位、 統獣兵の位置につく。

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