第48話【布陣】

 ――フィルVSガルド


 ガルドは身を低く構えると爪を長く肥大させフィルへと襲い掛かった。


「グヘアアア!!」


 フィルは爪を剣で弾き防御すると剣を横なぎに振った。ガルドは瞬時に横へ飛びそれを避けると、自身の毛を針状にしてフィルへと飛ばした。


 フィルが針を払い飛ばすとガルドはフィルの眼前へ迫っており、牙を剥き出しフィルに噛みついてきた。しかしフィルは身体を横にずらしガルドの側面を取ると胴体に剣を振り降ろした。


 するとガルドは身体の毛を束ねて針状に変化させフィルの剣撃を防ぐと距離を取った。


「グヘッヘー……さすがにやるなあ……じゃあ、もういっちょうギアを上げてみるかあ?」


「ふんっ、もったいぶらずにさっさと全力で来たらどうだ? 先を急ぐんだ、出し惜しみしてる間に切り伏せられても文句を言うなよ」


「まあそうくなよ、楽しくやろう……」


 ガルドは毛針を数発フィルへ飛ばした後、先ほどよりも速くフィルの側面へと移動し、またも全身の毛を針状に変えると、高速回転しながらフィルへと体当たりをしてきた。


 フィルはガルドの体当たりを剣の腹で受け止めるも、後ろへと押されていった。


「ちいっ!!」


 途中でフィルはガルドを剣で弾き上部へ飛ぶと、ガルドはその回転のまま針を乱発した。フィルが迫りくる針を弾き着地すると、すぐに回転したガルドが迫ってきた。


「はあ!!」


 フィルはガルドの体当たりを躱したが、ガルドの体当たりを躱すと針が飛んでくるという攻防が何度か続いた。


 そしてガルドは一本の大木を体当たりでなぎ倒すとその動きを止めた。


「グヘッへ……どうした? 急ぐんじゃなかったのかあ? 逃げ回るだけで全然攻撃してこないじゃないかー……」


「ふんっ、貴様の体毛がどれだけ続くのかと思ってな、あまり使いすぎると冬を越せなくなるぞ」


「グヘッへー、お気遣いは嬉しいが残念だったなあー、俺の毛は無限に生えてくるんだ!!」


 ガルドはまたも高速回転をし始めた。


「要するにこの攻撃を何とかしない限り! お前に勝ち目はないってことだー!」


 そしてフィルへと迫った。


「貴様といい、カルゴといい、よほど兇獣きょじゅうってのは回転するのが好きらしいな……」


 するとフィルも剣を振り上げガルドへと大きく踏み込んだ。


「負け惜しみをいいやがってー!! 悔しかったら止めてみろー!!」


 フィルがガルドへと剣を振り落とすと剣は弾き返されてしまった。


「そんなものが効くかあ!! ボロ雑巾にしてやる!!」


 その時、フィルは弾かれた勢いを利用し回転すると、側面から回転するガルドの渦の中心へと蹴りを放った。


「グオアアア!!」


 するとガルドは吹き飛ばされ、大木へとぶつかった。


「ふんっ、いかに強力な回転だろうが、中心をとらえてしまえば関係ない」


「ウグググゥ……このやろう……」


 フィルは構えた。


「もう他に見世物がないなら終わりにするぞ」


「グウウ……くっそがああ!!」


 するとガルドは木の陰へと飛び、姿を隠しながら枝から枝へと飛び移った。


「グへへへー!! 森林での戦闘は俺の方が慣れてる!! このまま串刺しにしてやる!!」


 そういうとガルドは至る所から毛針をフィルに飛ばした。


 しかしフィルは毛針をものともせずに躱し続けた。


「いい加減にしろ、こんな攻撃が効かんことくらい、いかに貴様が低能だろうが理解出来んわけではないだろう」


 するとその時、一本の大木がフィルへと倒れてきた。フィルがそれを避けると、 避けたところへ毛針が飛んできた。


「ちいっ!」


 フィルが毛針を剣で弾くと更に大木が倒れてきた。そしてフィルがその大木を一刀両断したその時、背後からガルドが爪で襲い掛かった。


 間一髪フィルは爪を避けたが、ガルドはまた木の陰へと飛び移り姿を消した。


(グヘヘアー……奴は俺のスピードについて来れねえ……このまま隙を見てあの面を噛みちぎってやる!)


 ガルドはまた木々へと高速で移動しながらも毛針や木々を倒し続けた。


 フィルは全てを避けているものの、ガルドを捉える事は出来ずにいた。


 そしてフィルが倒れた大木を後ろに飛び避けたその時、ガルドは牙を剥き出しフィルへと襲いかかった。


「ここだあ!! ガアアアー!!」


 ガルドは後ろからフィルに噛み付いた。


(グヘッへー!! このまま噛みちぎってやる!!)


「!?」


 しかしガルドが顎に力を入れ噛みちぎろうとしたたその瞬間、異常な硬さを感じた。


「ふんっ、まんまと餌に食いついてきたか……」


 ガルドが噛み付いたのはフィルの右腕であった、そしてその右腕はアークで覆われていた。


「なにい!?」


 フィルはガルドの横っ面を殴り飛ばした。


「グヘアア!!」


「貴様はその自慢のスピードとやらに頼りすぎだ、それが故に攻撃力が劣る」


「グ、グウウ……ガア!!」


 ガルドは立ち上がるとその場から高速で移動した。


「それに……」


 すると今度はフィルの足からアーク光が輝いた。


「!!??」


 フィルはガルドより更に速く動き、ガルドの目の前へと移動した。


「そんなに自慢するほどのスピードでもない……」


「グッツ……ゥゥガァアアアアア!!」


 ガルドは口を大きく開き、フィルに襲い掛かった。


 その瞬間、フィルはガルドの首を刎ねた。


「ガヘッ!!」


 フィルはガルドの首が落ちると同時に剣を鞘に収めた。


「…………」


 するとそこへドリルがやってきた。


「お疲れさん」


「ドリルさん、他のみんなは?」


「ああ、あらかた終わったよ」


 するとそこへジレットもやってきた。


「がははは! 終わりだ終わり! 残らず倒したぞ!」


「ジレットさん」


 他の兵士達も協力し合いながら全ての兇獣きょじゅうを倒していた。


 フィルは安堵の表情を浮かべたが、奥のスコッチとボウルが肩を落としている事に気付いた。


「スコッチさん、ボウル、どうしたんだ?」


 するとボウルが答えた。


「コストとフィスが……くそう!!」


 フィルが戦跡せんせきを見ると、倒れたコストとフィスの姿があった。


「コスト……フィス……」


 フィルはしばらく目を瞑った後、ゆっくりと目を開けた。


「先へ急ごう!!」


 するとジレットが声を掛けた。


「がははは! 頼もしいじゃねえか! じゃあ今度こそ全員で総攻撃か!?」


「いえ、しっかりと作戦を立てます」


「作戦??」


「はい、敵の本拠地はもう目前です、完全に敵を制圧する為にも三手に別れましょう」


 ドリルが声を掛けた。


「どう分かれるんだ?」


「まずは正面組、ここは先に行っている全軍の加勢です、兇獣きょじゅうは今ここに注意が集中している筈です、全軍に次いで、戦力を更に押し込む」


 ジレットが反応した。


「お! いいねえ! そこは俺が行くぜ!」


「そして次はモラルの北側から攻める組、後方からの支援と、海への退路を断ちます」


ドリルが反応した。


「なるほどね」 


「そして東南組、ここは地形が高い、攻めるのはギリギリまで待ちます、兇獣きょじゅうが逃げ込んできたら上から一気に叩く」


 フィルが説明を終えるとジレットが声を上げた。


「よっしゃあ!! じゃあ俺と一緒に正面ん突破する奴あ誰だ!?」


 するとフィルが声を掛けた。


「俺が行きます、正面は一番危険だ、作戦を立てた俺が責任を持ちます」


 それを聞いたカリーが口を開いた。


「いや、俺が行こう、お前は東南へ行け、作戦を決めたお前だからこそ、全体を見回せる場所へ行くべきだろう」


「カリーさん……わかりました、お願いします!!」


 するとドリルも声を掛けた。


「んじゃ俺は北側か、んまあ後方支援なら楽そうでいいや、一応怖いからシズ連れて行くぞー」


「ドリルさん……はい、お願いします!」


 その後、他の兵士も振り分け、布陣が決まった。



【正面組】

ジレット、カリー、スコッチ、デスク、バトル


【北側組】

ドリル、シズ、パール、リップ


【東南組】

フィル、ボウル、バッジ、パウチ


 フィルは一歩前へと踏み出した。


「行こう!!」


「おおう!!」





 ――――



 一方少し離れた場所からザックはその様子を見ていた。


「別れたか……」

(さてどれを追うか……? 恐らく正面に加勢に行くだろうあの筋肉男と魔法士も捨てがたいが……やっぱりあの小僧が気になるなぁ……)


 ザックは少し考えた。


(よし、やっぱりあの小僧にしよう、向かった方向はモラル東南側だ……あそこは地形が高いからモラルも見渡せる……恐らくあの小僧もそれが狙いだろう……)

 

 ザックはフィルを追った。

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