第45話【協力】

 ――モラル


 モラルではスクラード軍が町を襲い、陣取っていた。


 そしてキリザミアの国王は数人の兵士と共に、とある家の地下室にて身を潜めていた。


「くそぅ……この町の人間は皆、もう兇獣きょじゅうに食われてしまったのだろうか……」


「国王様、ご辛抱ください、なんとか脱出した兵がきっと援軍を呼んでくれます、それまで、それまでなんとか耐え凌ぎましょう……」


「ううむ……それにしてもなんじゃあの兇獣きょじゅうは……強すぎる……我が国の兵士達がまるで 赤子扱いだ……応援が来たところでなんとかなるものなのだろうか……?」


「きっと……きっと大丈夫です、兵には無事脱出したらガルイードに応援を頼むよう命じました、あのガルイードの兵なら、きっと何とかしてくれます」


「……そうだと、いいのだが……」





 ――――



 一方、フィルたちはモラル手前にあるパーラビア山地までたどり着いていた。


「こ、これは……」


 パーラビア山地では、十数人のオルト兵が兇獣きょじゅうと戦っていた。


「ほ、他の兵士達は……?」


 ドリルが応えた。


「今ここで戦っている奴らは殆どが入って間もない奴らばかりだな、他の古参連中は 目の前の兇獣きょじゅうだけ倒して、とっとと先に進んだんだろう」


「先にって……」


 フィルは兇獣きょじゅうと戦っている兵士達を見た、兇獣きょじゅうの数は二十体近くに及び、兵士達は若干押され気味であった。


 ドリルはフィルに声を掛けた。


「おい、俺達もとっとと行くぞ」


 そう言うとドリル達は前へ進んだ、しかしその時、ドリル達の前には二体のビルドと一体のデズニードが立ち塞がった。


 ふとドリルは左手を地面にかざした。


 すると三体の前に大量の土誇りが舞い上がった。ドリルは一体のデズニードの前に行くと 瞬時に剣を抜き、あっという切り倒した。


 次にパールがビルドの大剣を受けると、前蹴りを腹部に入れ吹き飛ばした、そして倒れたビルドに飛び上がると剣を首に突き刺した。


 その横ではスコッチがもう一体のビルドの大剣での連撃を躱していた、 しかし肩に掠り血が流れた、だがスコッチは怯むことなくビルドに飛びかかり、 腹部に剣を突きさした。


 それを見たフィルは思った。


(ドリルさんのあの動き、なるほど……確かに強い……長く残っている理由が分かる、しかにあの二人は……おそらく前にガルイードに来たレベルの兇獣きょじゅうが来たら、勝てない……)


 その時、一人の兵士がフォレットによって倒され、槍で突かれようとしていた。


「ぐわ! うわあああ!!」


「へへへッ! 死ね!!」


 フィルは瞬時にフォレットの背後へ移動し、フォレットの首をはねた。


「アガッ!!」


 それを見たドリルは呟いた。


「あん? 何やってんだあいつ? そんなことしてる場合じゃねえぞ」


 フィルは倒れた兵士に薬草を投げた。


「早く立つんだ、まだまだ来るぞ」


「あ、ああ……悪い……」


 するとそこに更に多くの兇獣きょじゅうが現れた。


 フィルはその場にいる兵士へと声を上げた。


「一人で戦うな!! 近くにいる兵士と組になって背を合わせるんだ!!」


 それを聞いた兵士達は少し戸惑いながらも、各々近くにいる兵と背を合わせて構えた。


 そしてフィルは森を高速移動しながら兇獣きょじゅう達を倒して回り、他の兵士達も二人一組で兇獣きょじゅうに応戦した。


 ドリル達も目の前の兇獣きょじゅうを倒すとフィルたちの戦いを見て止まっていた。


「おいおい、あいつここにいる兇獣きょじゅう全部倒していくつもりかよ? そんなことしてたら先進めねえぞ?」


 パールがドリルに声を掛けた。


「ドリルさん、あんな奴放っておいて先を急ぎましょう」


「うーん……」


 ドリルは頭を掻いた。


「一応今回俺、あいつのお目付け役だからなぁ……まあ、お前等先に行きたかったら先行っててくれ」


 そう言うとドリルは兇獣きょじゅうの群れへと向かっていった。


 スコッチがパールに声を掛けた。


「おい、どうする……?」


「……こんなところで無駄に体力を消耗することは無い、先に行っている兵士達の方がレベルも上だし安心だ、先へ進もう」


「そうだよな」


 そういうと二人は先へ進んで行った。


 ドリルは兇獣きょじゅうを倒しながらもフィルに話しかけた。


「なあお前、どういうつもりよ?」


「この兇獣きょじゅう達を放って進んでも、この先にもっと強い兇獣きょじゅうがいる限り、今こいつらを倒しておかなければ、後で追いつかれた時に、先にいる兇獣きょじゅうと挟み撃ちにされます、それに……最悪、いざという時の逃げ道も塞がれることになる、今ここで全滅させておくべきです」


「ふーん……」


 その時、一組の兵士のうちの一人が兇獣きょじゅうに切られて倒れ、組になっていたもう一人の兵士は兇獣きょじゅうに囲まれる形となってしまった。


「くっ! くそ! これまでか!!」


 そして一体のワラミルが兵士の形を成し、その兵士に切りかかった。


「バニング!!」


 するとドリルがバニングでワラミルを蒸発させると、瞬く間に残りの兇獣きょじゅうも切って倒した。


「よう、リップ」


「ド、ドリルさん?  す、すみません、ありがとうございます」


 ドリルはぼそっと呟いた。


「まあ、ここにいる兇獣きょじゅう全部倒すってんなら、兵士の数は多い方がいいやなぁ」


「え?」


「ん、いや、ほらまだ来るぞ、戦え」


「は、はい!」


 フィル達オルト兵は、その場にいた兇獣きょじゅうを圧倒し始めた。


 そしてついにその場にいたすべての兇獣きょじゅうを倒した。


「はあはあはあ……」


 兵士達は歓喜の声を上げた。


「うをおおお!! やったぞおおお!!」


「やった!!  倒しきったぞ!!」」


 それを見たドリルは呆れたようにため息をついた。


「はあ……おいおい……これで終わりじゃねえぞ……」


 そしてフィルが一歩前に出た。


「負傷している者はいるか? 今のうちに薬草や回復魔法で回復しておくんだ、済み次第急いで前軍を追おう!」


「お、俺! 薬草持ってる!」


「俺、多少回復魔法使えるぞ!」


 兵士は互いにケアをし始めた、それを見たドリルは笑った。

 

「へえ? なんかしっかりしてんなぁ、歳の割りになかなか強えし、お前一体何もんよ?」


「い、いえ別に……ただの穂兵ほへいです……」


 それを聞いたドリルはふと考えた。

(穂兵ねぇ……よくよく見たら歳は二〜三新生の歳だよな……ただ若く見えるだけか? まあ、面白そうな奴だし、どう出るのか、ちと様子を見てみるか)


「んで、次はどうすんだ? とりあえず前軍と合流して追い抜いちまうか?」


「いえ、この先にどの程度の兇獣きょじゅうがいるのかわかりません、ここには俺とドリルさん合わせて十人いる、五人ずつに別れてサイドから攻めましょう、兇獣きょじゅうを発見し、数が多い場合は全員で挟み込む」


「おっけー、んじゃあ俺とお前で別れるか」


「はい、その方が……」


「よし、デスク、 パトル、 リップ、パウチ、俺と行くぞ、ついてこい」


「は、はい!!」


 ドリル達は先へ向かった。


 そしてフィルは残った四人の顔を見た。


「俺はフィル、まずはあなた達の名前を教えて欲しい、共に戦う仲間なんだ」


 兵士達は互いに顔を見合わせた、すると一人の兵士が口を開いた。


「俺はコスト、さっきはありがとうな、一旦この場はお前に任せるよ、頼りにしてるぜ」


「コストさん……ありがとう、お願いします」


「コストでいいって、よろしくな」


 すると他の兵士達も次々と名乗った。


「お、俺はバッジ、よろしくな!」


「俺はフィス、お前若そうなのに随分強いな」


「ボウルだ、よろしく」


 フィルは全員と握手を交わした。


「みんな聞いてくれ、兇獣きょじゅうと一人で戦おうと思わないで欲しい、一対一より二対一、三対二よりも四対二、常にこの感覚を持っていて欲しい、互いが互いをフォローし合いながら戦うんだ」


 するとコストが応えた。


「わかった……みんな、出来るだけ単独にならないように声を出していこう」


 みんなは頷き、フィルもまた頷いた。


「よし、じゃあ行こう」


「おう!」


 五人は先へ進んで行った。





 ――――



 そしてその後、その場にザックが現れた。


 ザックは兇獣きょじゅうとの戦跡を見回すと、一人の兵士にまだ息があることに気付いた。


「う、ううぐぅ……」


 ザックはその兵士の元へ近づき腰を落とした。


「あぐぅぅ……た、たすけ……や、薬草を」


「…………」


 するとザックはその兵士の首にナイフを刺した。


 兵士は倒れた。


「悪いな…… 持ってねえんだ、薬草……」


 ザックは気味の悪い笑顔でそう言い放つと立ち上がり先を見た。


(しかしあの若めのガキ……なかなか面白そうな奴がいるじゃねえか……こりゃあますます見ごたえがでてきたなぁ)


 ザックはフィル達を追った。

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