第36話【タミル】

 一方その頃、ウィザード達はタミルへと辿り着いていた。


 タミルの前まで来たウィザードは、中から感じる異様な気配に気付いた。


「……兇獣きょじゅうか……ローガン」


「はい」


 ローガンはタミルの大門を開けた、すると中では数人の兵士が兇獣きょじゅうと戦っていた。


「うをおおお!!」


 一人の兵士がガラモへ切りかかったが、ガラモの固い身体にはじき返された。ガラモは口から火の玉を放ち、兵士は吹き飛ばされてしまった。


 更には太剣を持ったビルドが二人の兵士に切りかかっていた。二人の兵士はビルドの大剣を受けきれず、吹き飛ばされてしまった。


「うわあああ!!」


 そして一人の兵士はバルニルドと対峙していた。


「……はあああ!!」


 兵士は素早い連撃をバルニルドに放った、しかしバルニルドはそれを全て避け、兵士へと剣を横なぎに振った。兵士はそれを両腕で受け、弾かれると何とかこらえたが、更にバルニルドは追撃に来ており、頭上から一直線に剣を振り降ろした。


「うがあああ!!」


 兵士は咄嗟に剣で防ぐも剣は飛ばされ、被っていた兜も割れると兵士はウィザードの足元へと吹き飛んできた。


 吹き飛ばされた兵士はウィザード達に気付いた。


「はあはあはあ……!? き、君たち、に、逃げるんだ……」


 ウィザードは特に目を合わせることもなく兇獣きょじゅうの方を見ている。


「ローガン……」


「はい」 


 するとローガンは前に出ると、バルニルドへ向かっていった。兵士は驚き、ローガンに声を掛けた。


「お、おい! やめろ! 逃げるんだ!」


 ローガンはバルニルドの眼前まで迫った。


 バルニルドはローガンへと剣を横なぎに振った、するとローガンは右腕で剣撃を防いでいた。


 それを見た兵士は再び驚いた。


「な!?」


 ローガンは右手で剣を掴むとバルニルドへと頭突きを食らわせた、バルニルドが地面に膝を突き、顔を上げた瞬間、ローガンは大きな足を振り上げ、かかとをバルニルドの頭上に落とした。


 バルニルドの身体は三つに折れ地面へめり込んだ。ローガンはバルニルドの前に両手を構えるとアークの塊を放ち、バルニルドを消滅させた。


「!!??」


 バルニルドが倒されたことに気付いたガラモとビルドは、ローガンへと標的を変え向かった。


 ビルドが太剣を振り上げローガンに落とすと、ローガンは拳で太剣を叩き折った。そしてビルドの首を掴むと持ち上げた。ビルドは足をバタつかせている。


 その時、ガラモがローガンへと火の玉を放った、ローガンは左手で火の玉を受け止めると、それをビルドの顔面へとぶち当てた。


 ビルドの顔面は吹き飛んだ。


「うをおおおおお!!」


 ローガンはガラモへと走り出し助走をつけると、大きな拳を振りかざしガラモへと放った。


「グアララ!!」


 するとガラモはバラバラに砕け散った。


 それを見ていた兵士達は呆気にとられていた。


「……す、すごい……」


 兵士は我に返ると立ち上がり、ウィザードへと声を掛けた。


「あ、あなた達は……?」


 ウィザードは口を開いた。


「我々はヴィルヘルム、兇獣きょじゅうを倒す者だ」


「ヴィ、ヴィルヘルム……」


 ウィザードは兵士の着装している装備を見た。


「クラスティック王国兵か……」


「あ、はい……レスラ・サランドと言います」


「タミルにはいつから……?」


「は、はい……三年程前から」


「そうか……レスラ、暫くここを拠点にさせてもらう、すまないが場所の提供をしてもらえるか? それと、この辺りの情報を知りたい」


「は、はい、もちろんです、こちらへ」


 ウィザード達はレスラの案内で空き家へと案内された。




 ――――



「この家は住民が居ないので好きに使ってください」


「すまない」


「……あの……」


「なんだ?」


「ここへはなぜ? 兇獣きょじゅうを倒すって……」


「北のコワルド火山をグレイブが根城にしているという情報を得て、今仲間が偵察に向かっている、グレイブの存在確認と準備が整い次第、グレイブを討つ」


「グ、グレイブを……」


「ああ、なのでここ最近の兇獣きょじゅうの目撃情報や動向、それにこの辺りの詳しい地図も欲しい、頼めるか?」


「は、はい、勿論ご協力させていただきます!」


 そういうとレスラはそそくさと外へ出て行った。


 するとウォルがウィザードに話しかけた。


「クラスティック王国って最初に落とされた王国ですよね?」


「ああ、そうだ……」


「たしか十年前、ガルイードに次ぐ大きな王国にも関わらず、たった一体の兇獣きょじゅうに滅ぼされた……」


「ああ……」


「あの兵士、その兇獣きょじゅうの情報も持っていますかね?」


「どうかな? ……いずれにせよ今はまずグレイブだ、目の前の敵に集中しろ……」


「あ、はい……」


 次にローガンが話した。


「しっかし、ティグの奴大丈夫っすかね? 今のあいつじゃシードにも勝てんだろうし、アミやクムルの足引っ張でなきゃいいけど……」


「足を引っ張るくらいなら、切り捨てればいい」


「んんー、クムルやリラはその辺は大丈夫だろうけど……アミはどうですかねー? ティグの事、えらく気に入ってた感じもあるし」


 ウィザードは窓の外を見た。


「ふん、それが出来んようなら スクラシアには連れて行かん……」


「まさか、それを測る為にティグを一緒に……?」


「…………」


  外では男の子と女の子が仲良く遊んでいた、男の子が転び泣き叫ぶと、女の子が慰め、着いた泥を払い立たせた後、二人は手をつなぎ走って行った。


「…………」





 ―――― コワルド火山



「ううぅーん……」


 ティグは目を覚ました。


「はっ!?」


 ティグは上半身を起こすと、身体や頭に痛みを感じながらも辺りを見回した。


「こ、ここは?」


 そこは岩をくりぬいたような空間になっており、外の方には鉄格子が嵌められ、中には数人の女性と子供がいた。


「あ、あなた達は……?」


 すると一人の女性が話した。


「わ、私たちは町や王国で、兇獣きょじゅうに連れ去られました、あなたも先程……」


「そ、そうか……谷から落ちたんだ、あの下は兇獣きょじゅうの根城だった、つまり俺は兇獣きょじゅうに捕まったってことか……くそっ!!」


 ティグは立ち上がると剣が無い事に気付いた。


「ああ!? 剣が無い!? 取られたのか?? くそー!!」


 ティグは鉄格子の方へと進み外を見た。


(やはり……ここは火山の麓だ、でも谷から見てた場所とは少し違う……反対側とかなのか……?)


 ティグが目線を変えると、外では数人の男性が働かされていた。


(あ、あれは……)


 その時、岩を積んだ滑車を押していた男が滑車を倒し倒れた。


 すると男は近くにいたこん棒を持った兇獣きょじゅうに何度か殴られた。


「あ、あのやろう……」


「と! とうちゃん!!」


「!?」


 様子を見ていたティグの横に男の子が駆けてきた。


「あ、あれは君の?」


「お、おいらの父ちゃんだ!! とうちゃん!! やいお前!! 父ちゃんをいじめるな!!」


「……っくそう……!!」


 ティグは鉄格子を強く掴むとアークを込めてゆすった。


(な?! なんだこれは!? アークを込めてもビクともしないぞ? ただの鉄格子じゃない!?)


 するとその時、騒いでいた少年がなにかに突き飛ばされた。


「ぐあっ!!」


「な?! おい! ぐわあ?!」


 さらにティグも突き飛ばされた。


「おいうるせえぞぅ、 静かにしろ」


「うぐぐぅ……」


 ティグが見上げると、鉄格子の外には長いこんを持った兇獣きょじゅうが立っていた。


【 フォレット】

黄色い毛で覆われ、吊り上がった目が特徴的な獣の兇獣きょじゅう、ずる賢く、嫌味な性格をしている。


 ティグはフォレットの腰の辺りをみると驚いた。


「あ! 俺の剣だ!! おい! それは俺の剣だぞ!! 返せ!!」


 ティグは再び鉄格子に駆け寄りフォレットに手を伸ばしたが届かない。


「ああん? 何言ってんだお前? これは俺んだ、さっき空から降ってきた貢物だよ、ヒャッハッハッ!!」


「それはハナが俺に託した大事な剣だ!! 返せ!!」


 ティグは再び棍で突き飛ばされた。


「あぐぁ!!」


「ヒャッハッハッ!! 取れるものなら取ってみなぁー!! お前さんにこの鉄格子がやぶれるってならなぁー!! 直にお前ぇらは俺ら兇獣きょじゅうの餌になるんだ、折角だからお前ぇさんはこの俺が、この剣をナイフ代わりにして上品に召し上がってやるよぉー! ヒャッハッハッ!!」


「くっ!! っそおお!!」


 ティグは再び鉄格子に飛びつき強くゆすった。


「ヒャッハッハッ!! 無駄だ無駄だぁ!!」


 またもフォレットはティグを棍で突いた。


「ヒャッハッハッ!! 何度やっても無駄だぁ!! ヒャ!?」


 するとその時、急にフォレットは止まり、かしこまった。


「??」


「グ、グレイブ様!!」


(グレイブ!?)


 すると鉄格子の前にグレイブが現れた。

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