第35話【決裂】

 クムルはシードの腹を蹴り上げ頭に肘を落とした。そして次に迫ってきたシードの爪を躱すとそのまま腕を掴み、先に倒したシードの上に叩き落とした。


「はあ!!」


「ギャヘ!!」


 リラはシードの攻撃を杖で防ぐと、そのまま回しながら地面に倒した後、杖で叩いた。更に後ろから迫るシードに向け杖を突くと、すぐさま振りかぶり、シードの頭へと杖を落とした。


「えい!!」


「ギャ!!」


 ティグとアミの元にもシードは襲い掛かり、アミは瞬時にシードの後ろへ回り込むと、シードの首を切った。


 ティグはシードの爪を剣で防ぐもシードの力に押され、シードはそのままティグに噛みつこうとしたが、アミがすぐさまシードの腕にナイフを投げ、力が弱まったところをティグが押し返し胸を切った。


「ギャギャ!!」


 しかし傷はそこまで深くは無く、シードは一旦距離を取った。そして他の倒された四匹のシードも立ち上がった。


 それを見たクムルが舌を鳴らした。


「ちっ! 素手だけとなるとちと厄介だな……」


 アミはそんなクムルに言った。


「大丈夫だって! あと五匹!」


 そういうとアミは一匹のシードに突っ込んだ。


「あちょー!!」


 アミは凄い勢いでシードに蹴りや拳を当てると、頭を掴み半回転させ首を肩に乗せた、そしてそのまま地面に勢いよく腰を落とすと、シードの首の骨を折った。


「あと四匹!」


「はっ!!」


 クムルも負けじと一匹のシードに突っ込み蹴り上げると、すぐさまシードの頭上へと高く飛び、両手を組んで叩きつけた、そして地面に衝突したシードの頭に膝を落とした。


「!?」


 しかしまだシードに意識が有り、クムルの足を掴んだ。するともう一匹のシードが爪を出しクムルへと襲い掛かった。クムルはそれを右腕でまともに受けた。


「クムル!!」


 それを見て叫んだリラだったが、シードが噛みつきにきており、ギリギリでそれを躱すと杖で叩き飛ばしクムルを見た。


「ギャギャ……」


 まともにシードの爪を腕で受けたと思われたが、 クムルの腕の表面は氷で覆われていた。


「ち、調子に、乗るなよ!」


 するとクムルはシードの頭を掴んだ、その瞬間、シードの頭は凍りつき、クムルはシードの頭をねじ取ると、足を掴んでいたシードの後頭部に叩きつけた。


「あと二匹か」


 クムルが立ち上がると、それを見ていた一匹のシードが逃げ出した。


 それに気付いたクムルは声を上げた。


「まずい!! 逃がすな!!」


 アミが咄嗟にナイフを投げようとした瞬間、もう一匹のシードが後ろからアミに掴みかかった。


「くっ!!」


 逃げたシードに一番近いのはティグだった、クムルはティグに叫んだ。


「おい!! 逃がすな!! お前がやるんだ!!」


「う、うおおお!!」


 ティグは剣を振り上げシードに迫った、そして背中へと切りつけるとシードは前方に転がった。ティグは更に飛び上がり剣をシードに向け突き下ろすと、シードはギリギリで身体を横に起こし避けた。


「ギャギャギャギャア!!」


 ティグの剣は地面に突き刺さり、ティグが剣を抜こうとするその瞬間、シードは長い爪をティグへと振った。


「!! くぅっ!!」


 その時、アミは掴まれたシードの首を掴み前方へと投げ、地面に叩きつけると、ティグを襲うシードへとナイフを投げた。


 ナイフはシードの手に当たり、ティグはシードの爪の攻撃から難を逃れた。


「ギギャ!!」


 しかしシードはその場から逃げ去って行った。


「はあはあはあ……ほっ……」


 アミは安堵の表情を見せた。


 しかし、クムルは険しい表情でアミへと近寄ると、アミの頬を叩いた。


 リラがクムルを止めた。


「クムル!!」


 リラは俯いたまた黙っていた。


「なぜだ…………なぜ頭を狙わなかった!!」


 剣を抜いたティグは二人の元へと近づいた。


「クムルごめん、俺のせいだ、俺がちゃんと仕留められなかったから……」


「てめえは黙ってろ!!」


 クムルはさらにアミへと詰め寄った。


「隊長にも言われた筈だよなぁ、このガキよりも、任務を優先しろって! あのシード、必ず兇獣きょじゅうに俺たちの事を報告しに行くぞ、そうなれば任務も失敗だ! 全部! なにもかも! また一から! やり直しだ!」


「……ごめん……」


「ちっ!!」


 クムルは怒りながらその場を離れた、リラもそれを追った。


 ティグは戸惑いながらもアミに声を掛けた。


「アミ……ごめん……俺のせいで、俺、なんて言ったらいいか……」


 アミは俯きながら答えた。


「ううん……ティグのせいじゃないよ……全部、あたしのせい……あたしの弱さ……」


「アミ……アミは弱くなんかない!!  アミがシードの手を狙ってくれなかったら、俺はあの時爪で裂かれていた、アミは俺を無傷で助けてくれたんだ!! それはアミの強さだよ!!」


「ありがとう……でも、任務失敗しちゃったね……折角の初任務……ごめんね……」


「そ、そんなこと……」


「戻ろう……」


 アミもその場を離れた。


「……アミ……くそっ!!」


 ティグは自分の無力さに怒りを覚え拳を握った。


「ギ、ギギャ……」


「!!?? アミ!!」


「!!??」


 その時、アミにナイフを投げつけられたシードがアミへと襲い掛かった。


「危ない!!」


 ティグは咄嗟にアミを突き飛ばした、するとシードはティグに突っ込んだ。


「ギャギャア!!」


「くつ!! あ……」


「え?」


 すると、その勢いでティグとシードは谷から落ちてしまった。


「ティ! ティグー!!!!」


 クムルとリラも異変に気付き振り返ると、ティグとシードが谷底へ落ちて行く瞬間を目の当たりにした。


「な、なん、だと……?」


「そ、そんな!!」


 アミは谷底へ向け声を上げた。


「ティグー!!!!」


 クムルはすぐさまアミへと駆け寄るとアミの口を塞いだ。


「馬鹿!! 兇獣きょじゅうに見つかるぞ!!」


 クムルは崖からアミを引きずり離した、アミはクムルの手を取り払い、その場に手を着き地面を叩いた。


「ティグ!! ティグ!! うああああー!!」


「もうあきらめろ、この高さじゃ助からない、それに万が一助かったとしても下は兇獣きょじゅうだらけだ」


 リラが心配そうにアミへと近寄った。


「アミ……」


「とにかく任務は失敗したんだ、早く戻ってウィザード隊長に報告するぞ、作戦の立て直しだ」


「ううう……ぐっ!!」


 アミは形相を変え、顔を上げると起き上がろうとした。それを見たクムルが叫んだ。


「おい!!」


 アミは一瞬動きを止めた。


「まさかお前……助けに行こうなんて思ってんじゃねぇだろうな……?」


 アミは返事をしなかった。


「おいおい、勘弁してくれよ……任務失敗の上に命令違反か? お前どうかしてるぞ……?」


 アミは声を震わせながら呟いた。


「あんたとリラは戻って隊長にこの事を伝えて……作戦は変更してもらって構わない……」


「はっ! 馬鹿か? お前死ぬ気か!? もしグレイブが居たらどうすんだ!? グレイブとあの数の兇獣きょじゅう、いくらお前でもただで済むと思ってんのかよ!?」


「うるさい……」


 そういうとアミは立ち上がり歩を進めた。


 その時、クムルはアミの腕を掴んだ。


「おいてめぇ……いい加減にしろよ……」


 アミは鋭い目つきでクムルの目を見た。


「放して……」


 リラは戸惑いながらもどうすることも出来ないでいた。


「これ以上勝手な真似をしようってなら、ぶっ倒してでも連れて帰るぞ……」


 アミの腕を掴んだクムルの右腕からアークが輝き出した。


「クムル!!」


 リラが叫ぶも二人には聞こえていない、そしてクムルを睨むアミも、腕からアーク放出させると口を開いた。


「本気で言ってる……? あんたがあたしに勝てた事なんてあったかしら?」


「ガキの頃の話だ……」


 二人は睨み合った。


 次の瞬間、二人は互いに拳を顔面へと放ったがどちらもそれを躱した。アミはその勢いで回転するとクムルへと蹴りを放った、しかしクムルはその蹴りを肘で跳ね返した。

 

 アミはその反動をも利用し、更に回転すると上からクムルの肩口へと蹴りを叩きこんだ。  


「ぐっ!」


 クムルは前のめりに手を着くと、振り向き様に、向かって来たアミの顔面へと裏拳を当てた。アミは構わずクムルに拳を繰り出すとクムルはアミの拳を掴み、アミの腹へと拳をねじ込んだ。


「くうっ!!」


 クムルは立て続けに何発か腹に拳を打った後、腕を抱えて地面へと投げつけた。アミは空中で身体を回転させ、足から着地すると、クムルの頭に膝を突き放った。


「がっ!!」


 クムルはたまらず顔を上げると、さらにアミは逆の足の膝をクムルの顔面に叩きこんだ。


「ぐあっ!!」


 クムルが後ろへ吹き飛ぶと、アミは追撃の為に更に追った。


 するとクムルは両手を組み前へ出すと魔法を放った。


「ハヴィング!!」


「!!」


 アミの身体は重力で地面に叩きつけられ身動きが取れなくなった。


「あぐうぅ……」


「はあはあ……お、おとなしく……俺達と帰ればいいんだ……」


「ぐううぅ……ううぐっっつああああ!!!!」


 その時、アミの全身からアークが放出され、アミはもの凄い速さでクムルへ飛びついた。


「なっ!? くそっ!!」


 アミは立て続けにクルムに拳を当てると、前のめりに一回転し、かかとをクムルの脳天へと叩きこんだ。


「ぐあああ!!」


 クムルは地面へと倒れた。


「はあはあはあ……」


 リラがクムルの元へと駆け寄った。


「クムル!!」


「はあはあはあ……リラ、ごめんなさい……私……やっぱりティグを放っとけない!!」


 アミは走り去っていった。


「アミー!!」


 リラの叫びが虚しく響いた。

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