第37話【脱獄】
【グレイブ】
野獣シードからなる
ティグはグレイブの威圧感に生唾を飲んだ。
(や、やっぱりここにいたんだ……)
グレイブはティグに尋ねた。
「お前は……ヴィルヘルムの者だな?」
「ち、違う!! そんな奴らは知らない!!」
「ふっ、下手な嘘はつかなくていい、シードから話は聞いている、残りの仲間はどこだ?」
「し、知るか! 俺は入りたてなんだ! 詳しいことは何も知らない!」
「そうか? しかし、知っていることは素直に話した方が身のためだぞ……」
「うるさい!! お前に話す事なんてなんもない!! いいからこっから出せ!!」
するとグレイブは指を一本前に出した。
「??」
つぎの瞬間、グレイブの指先からオームが放たれた。
「ぐわっ!!」
指から放たれたオームはティグの額に当たりティグは吹き飛んだ。ティグは何とか立ち上がるが、額からは血が流れている。
「うぐぐぅぅ……」
「ヴィルヘルムは全部で何人だ?」
「し、 知るか……」
またしてもグレイブはティグにオームを放った。
「がああ!!」
「アジトは?」
「こ、こっから出せ……」
「ぐああ!!」
「頭の名は?」
「がはあっ!!」
グレイブは暫く質問してはオームを放った、しかしティグは一向に喋ろうとはしなかった。
そしてティグは倒れながらも身体を引きずり鉄格子まで近づくと、グレイブへと顔を上げた。
「へっへへっ……俺は絶対になにも話さねぇ、お前なんかに死んでも話すもんか」
「……そうか」
するとグレイブは再び指を構えた。
「ぐううぅ……」
そしてオームを放った。
「あああ!!」
オームは後ろにいた女性達の一人に当たった、女性は吹き飛び壁に激突すると倒れた。
「な!?」
「ならば死んでもらおう、他の人間にな……」
「や、やめろ!!」
オームが再び放たれると、ティグは身を立てにして女性達を守った。
「ぐわああ!!」
それを見たグレイブはなぜか指を収めた。
「??」
「やはりな……お前は自分より他の人間が傷つけられるのを嫌がるタイプの人間だな……」
「はあはあ······な、なんだと……?」
「四人で、来ていたな? 残りの三人の仲間はお前を助けに来るんだろう? 今、俺の部下がお前の仲間を捕まえに行っているのだが、お前が捕らえられている事が分かれば、向こうも下手に手出しは出来ないだろう」
「な、なに!?」
「三人を捕らえた後でゆっくりと口を割らせてやる……そんな赤の他人よりも、仲間の虐げられる姿の方が、お前もなにかとしゃべりやすいだろう? クハハハ!!」
「き! 貴様ー!!」
ティグは鉄格子に飛びかかった、しかしグレイブは笑いながらその場を去って行ってしまった。
「く、くっそー!! おい!! 仲間に手をだしたら承知しないからな!!」
するとティグはフォレットの棍によって突き飛ばされた。
「ぐはっ!!」
「おいお前ぇ、自分の立場がよくわかってねえみてえだなぁ?」
「くっ! くそ!!」
「とにかく、これ以上痛い目にあいたくなかったら、お前さんのお仲間とやらが捕まるまで、おとなしくしておくんだなぁ、ヒャッハッハッ!!」
そういうとフォレットは少し離れた場所で腰を降ろした。
ティグは悔しさのあまり地面を殴った。
「ちっきしょう!!」
その時、さっきの男の子がティグに声を掛けた。
「お、お兄ちゃん大丈夫……?」
「あ、ああ……ありがとう、君は?」
「ブンタ……カタスって町で
「そ、そうか、俺はティグ、よろしくな」
ティグはそう言い起き上がると、先程オームを受けて倒れた女性の方を見た。
女性はピクリとも動かず、その女性を囲むようにして他の女性たちがすすり泣いていた。
ティグは倒れた女性に近ずくと、女性が息を引き取っていることに気付いた。
「くそうっ!!」
その時、一人の女性がティグに声を掛けた。
「あまり、騒がない方がいいわ……どうせ私たちは助からない……明後日にはカーガモゥと言う場所に連れて行かれ、奴らの親玉に献上される……おとなしくしていればあと二日は生きられる、それとも、この女性のように今すぐ死にたい?」
「そ、そんな! あきらめないでください! 絶対に助かる! 俺が助けてみせる!」
するとそれを聞いた子供達が寄ってきた。
「お兄ちゃん助けてくれるの?!」
「僕らを助けにきたの!?」
「本当に助かるの!?」
ティグは腰を降ろし、子供たちの頭を撫でた。
「ああ! 絶対に助かる、信じるんだ!!」
子供たちは一斉に返事をした。
「うん!!」
女性は白けた目をしてそっぽを向いた。
(しかしどうすれば……あの鉄格子は簡単にはやぶれそうにないし……)
ティグは外で座っているフォレットを見た。
(幸い見張りはあいつだけか……)
その時、また一人の女性がティグに声を掛けた。
「あ、あの……ティグくん? だよね?」
「え?」
ティグは女性の顔を見た。
「あ、ル、ルカのお母さん!?」
「やっぱりティグくんだ! そう、ネルよ」
女性はティグの同級生、ルカの母親であった。
「な、なんでこんなところに?!」
「一か月前くらいにガルイードが襲われたでしょう、その時に……」
「そ、そうだったんですか……え? ずっとここに?」
「ええ……さらわれてきた人達は無造作に檻に入れられるんだけど、檻は何種類かあるみたいで、一定周期でそれぞれの檻の人達が外に連れ出されるの……連れ出された人達は多分、
「なんだって……」
「さっきの女性、ルシールが言っていたでしょ? 明後日には連れ出されるって、五日前にね、
「明後日……大丈夫、俺が、俺が何とかしてみせます」
「うん……でも無理はしないで」
「はい! 頑張ります!」
ティグは檻の中をグルグルとと回り考え始めた。
(うーん……鉄格子の破壊が無理となると、あいつから上手く鍵を盗むか、なにかで鍵を作ってこじ開けるか……そうだ、どっかに隠れて俺が逃げたと思わせて、この中に誘い込むか?)
ティグは知恵を振り絞り暫く考えた。
「うーん……」
その時、何かを蹴り飛ばした。
「ん?」
それは岩の破片であった、ティグはその破片を拾った。
そして倒れた女性の方をみると、女性がオームを受けた時、激突した壁が少し欠けていた。
「…………」
ティグはブンタを呼んだ。
「ブンタ! 子供達を全員集めてくれ!」
―― 数分後
見張りのフォレットは欠伸をしながら外を見ていた。
「あーあ、つまんねえなぁ……女子供の見張りなんかじゃなくて、俺も人間を扱き使いてぇよ……」
「!!!」
「!!!」
「ああん? なんだ?」
その時、檻の方から騒がしい声が聞こえてきた。
「なんだあいつら? なにやってんだ?」
檻では子供達が鉄格子の前で大声を出し騒いでいた。
「とおちゃーん!! 聞こえるかー!! とおちゃん頑張れー!!」
「誰かー!! 助けてー!! 殺されるー!!」
「昨日おねしょしちゃいましたー!! ごめんなさーい!!」
「お腹すいたー!! メシ食わせろー!!」
フォレットは檻へと駆け寄り怒鳴りつけた。
「うるせえぞてめえ等!! 静かにしろい!!」
しかし子供達は騒ぐのをやめず、むしろより一層騒ぎ立てた。
―― 数分前
「いいか? お前たちは合図をしたら鉄格子の前で思いっきり叫ぶんだ、俺が奥で大きな音を出すから、その音に負けないくらいの声で叫び続けてくれ」
「わかった!!」
「多分あいつは途中、暴力を奮ってくる……耐え、られるか……?」
「大丈夫!! おいら達は暴力なんかに負けない!!」
ティグは微笑んだ。
「わかった! 頼んだぞ!」
「うん!!」
――――
「おいうるせえぞ!! いい加減にしろ!!」
フォレットはブンタを棍で突いた。
「ぐああ!!」
しかしブンタはすぐ立ち上がり、叫ぶ子供達に加わり再び叫び出した。
「なっ!? なんだこいつは?」
フォレットは他の子供も次々に棍で突いたが、そのたびに子供達はすぐに立ち上がり、叫び続けた。
「ぬぐぐぅぅ!! おい女ども!! このガキ共を静かにさせろ!!」
女達は檻の奥で一箇所に固まり、微動だにしなかった。
「おい!! 聞いてんのか!! 早くこのガキどもを黙らせろ!!」
その時ティグは一箇所に固まる女達の裏にいた。
(檻はなにかの力に護られていて破壊することは出来ない、でもこの岩なら、手にアークを纏えば破壊できる!)
ティグは両手にアークを集中させた。
(いくらブンタ達が騒いでくれているとはいえ、あまり大きな音を出しすぎると気付かれてしまう、アークを最小限に岩を叩き壊す、そして何より速く! 奴に気付かれる前に檻の外まで掘り進める!)
鉄格子ではフォレットが子供達に棍を突く手を止めていた。
「ハアハアハア……な、なんだこいつらは……なんだってんだ?」
フォレットは奥で固まる女達を見ると、なにか異変に気付いた。
「!!?? あのガキは!? おい!! おんな共!! あのガキはどこ行った!?」
女性たちは黙ったままでいる。
「こんのー……おちょくりやがって……」
フォレットは近くにあった岩の欠片を手に取った。
「お前ら固まってないでそこそこどきやがれ!!」
フォレットは岩の欠片を投げた、欠片はネルの顔へと飛んできた。
「!!!!」
その時、ネルの顔に手を伸ばし、ルシールが岩の欠片を素手で止めた。
「ルシール!?」
ルシールの手からは血が垂れた。
「ぐっ!! このクソ女共!!」
フォレットは岩の欠片を立て続けに投げた。女性たちは顔や身体に当たるも、そこを動こうとしなかった。
「ハアハアハアハア……な、なんだってんだ……」
(なんなんだあいつらは? あの女共の後ろにあのガキがいるのは間違いねえよな……? 一体なにしてんだ……? 確認するか……? いやいや、別のところに隠れて、俺が入った瞬間に不意打ちを食らわせる作戦かもしれねえ……下手には入らねえ方がいいよな……)
フォレットは少し考えた。
(そ、そうか、なにも俺が入らなくても、適当な
フォレットはそう思うと
するとそこにはティグがいた。
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