第33話【初任務】

 船はイグナを出て一週間程経ていた。


 その間、メンバーはそれぞれに時間を過ごし、アミとティグはアークの練習をしていた。


「すううう……はぁぁぁ……」


「そう! 良い感じ! いいぞ! もっと!」


「ぶはあ!! はあはあはあ!!」


「ああーん! 惜しい! 消えちゃった! 一分四十秒ってとこね」


「はあ、はあ、はあ……で、でも両腕でアークを出すのにも大分慣れてきたよ」


「そうねぇ、でも最低でも三分は保持出来るようにしたいわねー」


「うん……まあ、練習あるのみか……」


 その時、近くをウォルが通りかかった。


「あ! ウォル! ちょっと来て!」


「はい、どうしました、アミさん?」


「ちょっとティグにアークのコツとかあれば教えてあげてもらえないかな? なんかいまいちあたしの言い方だと伝わらないみたいでさ……」


「はあ……」


「多分あたしの教え方って言うか……これはもはや男女の隔たりとかだと思うから……男子で、しかもアークの扱いが上手いウォルだったら上手く教えられると思うの、同じ剣士だし」


「はあ……はい、いいですよ、僕こう見えて教えるの上手いんで」


「そうなんだ? だれかに教えたことあるの?」


「いえ、ないですけど、なんとなく出来る気がします、要はやり方を教えればいいんですよね?」


「そうそう! じゃあ、よろしく」


「はい、ではまず、ティグさんの今のアークの習得状況は?」


 ティグは答えた。


「あ、ああ、最近やっと両腕で出せるようになってきたくらい……」


「そうですか……両手だけではしょうがないんで、では、こんな感じで全身で出してみて下さい」


「え?」


 そういうとウォルはおもむろに拳を握り軽く構えた。


「はっ!」


 次の瞬間ウォルの身体のから高密度のアークが放出され、ウォルの身体の周りに渦を巻くように留まった。


 そしてウォルから放たれたアークに船に乗っていたメンバー達が反応した。


「なっ!?  ……ちっ 相変わらず、化け物みてえなアークしていやがる……」


「がっはっは!! おおー! 景気がいいなー! がっはっは!」


「まあ、凄いわ……」


「……」


 間近で見ていた二人はそのアークに驚き、ティグはしりもちを着き、アミはウォルを止めた。


「うわわわ!! わっ! ちょっとウォル! タンマタンマ!!」


「え?」


 ウォルはアーク孔を閉じた。


「ちょっとウォルー、船壊れちゃうよー……」


「ああ……すみません……」


 しりもちをついたティグは驚きながらも笑った。


「は、ははっ! す、すげえ!」


 ティグは起き上がり、ウォルに尋ねた。


「今のはどうやったの?」


「そうよ、やり方よ、やり方」


「簡単ですよ、こう……お腹の中心にグッと集中して、全身から一気にドーンって、噴き出す感じです!」


「……」


 ティグの表情は間抜け面になっていた。


 そしてアミは賛同した。


「そうそう! そんな感じ!」


(だ 駄目だ、この子も天才肌だ……天才肌の言うことは分からん……)


「あ、ありがとうウォル、また、なんかあれば教えてよ!」


「はい! いつでもなんでも聞いてください! 僕教えるの上手いんで!」


 ウォルは無垢な笑顔で答え、その場を去った。


「もういいのティグ? あんなわかりやすく説明してくれたんだから、もっといろいろ聞けばよかったのに」


「え? あ、ああ……大丈夫……とにかく練習が必要だって事だけは身に染みてわかったから……」


「うん! そうね!」


「あ!」


「え?」


 アミが目を送った先には陸が広がっていた。


「着いたー! カブスだ! ティグ着いたよ! あれがカブスよ!」


「あ、あれが、カブス……」


 船はカブスの港に着けると、一行はその地に降りた。


「え……?」


 ティグがカブスに降り立つと驚いた。そこには人はおらず、建物もひどく損壊しているものが多く、以前行ったラフターやロッドの村と同じような風景であったからである。


「やはりか……」


 ウィザードが呟いた、ティグはそれを聞くとウィザードに尋ねた。


「やはりって……?」


「カブスが兇獣きょじゅうの手に落ちている情報は聞いていた、この辺りで一番大きな町だからな、仕方ない……恐らく、三獣兵さんじゅうへい上位クラスの兇獣きょじゅうの襲撃にでもあったのだろう……」


 損壊した建物や町中を見ると、ところどころに血の跡や、切り裂かれた服などが見て取れた。


「そ、そんな……仕方ないって……」


 ウィザードは茫然とするティグを冷たい目で見た後、アミに声を掛けた。


「アミ」


「はい!」


 アミは元気よく手を挙げた。


「ここから別れるぞ、お前とクムルとリラでシサの谷へ行け偵察だ、お前が頭をやれ」


「ラジャー!!」


 クムルが舌打ちをした。


「ちっ!」


「なにクムルー? ちゃんと言うこと聞きなさいよー、あたしが隊長なんだからねー」


「わかってるよ! ちっ!」


「ふふふっ!」


「それと……ティグも一緒に連れていけ」


「え? ティグも!? あそこは結構ティグにとっては危険じゃぁ……野獣シード、出ますよ……?」


 ウィザードはティグを見た。


「我々に守られるだけのお荷物としてきたわけではないのだろう? どうする? 危険な任務だからやめておくか?」


 それを聞いたティグは表情を変えた。


「行きます! 行かせてください!」


 アミは心配そうにティグを見た。


「だ、大丈夫かなぁ……」


 クムルもまた不満を吐いた。


「おいおい……とんでもねえハンデがついたな、ウィザード隊長……なんかあっても助けてやらんでもいいんすよね?」


「もちろんだ、アミ、お前もなにより任務を優先するんだ、いいな?」


 アミはティグをチラ見し答えた。


「は、はい……」


「それと、今回の任務はあくまでグレイブの存在を確認する為だけの任務だ、グレイブの存在を確認したらすぐに戻れ、勝手に手を出すことは許さん」


 アミは返事をした。


「おす!」


「私とウォルとローガンはここから東にあるタミルで知らせを待ちながら、今後の作戦を練る、グレイブの存在を確認したらタミルへ来い」


「わっかりやしたー!」


「四日間だ……四日で戻らない場合、作戦失敗とみなす、その場合……わかっているな?」


「はい、大丈夫ですよ! ただ見に行くだけっすから! イージーっす!」


 アミはウィザードにピースサインを出した。


「……ではこれより任務開始だ、出立するぞ」


「おー! ほら、ティグ行くよ!」


「あ、お、おう!!」


 ローガンがティグに声を掛けた。


「おー、ティグ! 初任務、頑張れよー!! がっはっは!」


「うん! 任せといて!」


 そしてウィザード達は東のタミルへ、アミ達は北東シサの谷へと進んで行った。

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