第32話【防具】

 ―― 防具屋


 アミとティグは防具屋を見つけると早速中に入った。

 

「うわぁ……」


 ティグは店内に置かれた様々な防具を見回した。


「防具屋も初めて?」


「え? あ、うん……」


「そうよね、王国にある武器屋や防具屋は兵士の為のものだから、基本的に国民は入れないものね」


「うん……」


「さて、じゃあ何からいこうかしら……」


 アミは店内を見回した。


「さすがに兜はいらないか……ティグは剣士だよね?」


「ああ、うん……一応……」


「じゃあ、まずは胸当てかな……これは?」


 アミは一つの胸当てを指差した。


「うーん……なんか重そうだなあ……」


「そう? まあ、君の戦闘を見る限り、技術よりも動きを生かした戦い方をしているから、確かにあまり重くなるのもよくないか……」


 アミは再び胸当てを吟味した。


「あ、じゃあこれは? 左胸だけ守れるようになってる、右胸が空いてる分、動きやすさは保てるでしょ? とりあえずは大事な心臓を重点的に守るってことで、ちょっと小さいけど肩当てもついてるし、防具に慣れるまではこれくらいがいいかもね」


「ああ、うん……」


「後は手袋ね、剣士である以上、手袋は絶対にしといた方が良いわ、あとは腕当ても、多少の攻撃なら腕当てで防御も出来るから」


「わ、分かった」


 ティグは自分の感性で手袋と腕当てを選んだ。


「ふむ、次は……順当にいくと……金的……」


 アミはティグの股間に目をやった。


「わわわ! そ、それはいいよー!!」


 ティグは両手で股間を押さえ、顔を真っ赤にした。


「あらそう? じゃあ、あとは……膝当てと靴かな、脛当てはとりあえずはいっか」


「う、うん……」


 ティグは膝当てと靴を選ぶとすべての装備を試着した。


「お! いいじゃない! カッコいいよ! うん、様になってる!」


「そ、そうかな……? へへ……」


「うん! 動きはどう? 動き辛いとかない?」


「うーん、多少はあるけど、まあ、これくらいなら」


「よし! じゃあこれで決まりね!」


 アミは店主に声を掛けた。


「すいませーん! これください!」


「あいよー」


 すると奥から店主が出てきてティグの防具の勘定を始めた。


「全部で三十六万ギットですね」


「えええ!?」


 ティグは高額な請求に驚き声を出した。


「三十六万ね、んじゃぁ……はい、丁度」


「えええ!?」


 あっさりと支払ったアミにも再び驚いた。


「何驚いてんの? 防具なんてこんくらいするわよ?」


「そ、そうなんだ…? いやまあ、そうだとしても……」


「んまあ、いいからいいから! ツケにしとくから!  行きましょ!」


 アミはニッコリ笑ってティグの肩を叩くと店を出た。


 二人はその後武器屋に寄り、アミの投げナイフを購入したり、町中を探索したりした後、船着き場にて仲間と合流した。


「やっほー! みんな!」


 リラが応えた。


「アミ、お帰りなさい、 どう? ティグくんの良い防具は見つかった?」


「へへー! ほれ、ティグ!」


 アミが満面の笑みを浮かべると、アミの陰からティグが出てきた。


「あら素敵じゃない! 似合ってるわ!」


「そ、そうかなぁ?」


 ティグは顔を赤らめた。


「がっはっは!! うん! 良いぞ! 強そうな剣士だ! がっはっは!!」


「ロ、ローガン……ありがとう……」


「がっはっは! がんばれよ! がっはっは!」


 するとローガンはティグの背中を叩いた、ティグは衝撃で三回転半転がった。


「ちょっとローガン! あんた馬鹿力なんだから、ちゃんと加減しなさいよ!」


「ああ、すまんすまん、がっはっは!!」


 それを見ていたクムルも一言言い放った。


「はっ、孫にも衣裳だな」


 ティグは起き上がりながら、もの言いたげな目でクムルを見た。


「にゃ、にゃろう……」


 するとアミがリラに尋ねた。


「隊長は?」


「ああ、今ウォルと一緒に奥で店主に船の手配をしてもらってるわ」


 それを聞いたディグが反応した。


「船……」


 リラが応えた。


「そうよ、ここから船でカブスという町まで行くのよ、 一週間くらいかかるから、長旅になるわ」


「は、はい……」


 それを見ていたアミはティグに近寄った。


「君ぃ……なんかやたらリラに緊張してない? もしかしてタイプ? やめときなさい、リラは人妻よ」


「ち、違うよ! そんなんじゃないよ!」


 その時、奥からウォルが声を掛けた。


「皆さん準備出来ました! こっちです!」


 その声にアミが反応した。


「お! はいはーい! ほら、行こうティグ」


「あ、う、うん」


 一同は船着き場に移動すると、停泊しているやや大きめの船に乗り込んだ。


 船は帆を張り、ローガンが大きな櫂で船を漕ぐと、船は勢いよく進み始めた。


「うわぁ……」


 ティグは目の前に広がる海に驚きを隠せずにいた。


 そんなティグに船を漕ぎ終えたローガンが話しかけた。


「がっはっは! 海も初めてか?」


「うん、王国から出たことなかったから……」


「がっはっは! そうか、海は良いだろう?  広くて、力強くて、生命力に満ち溢れている」


「うん、なんとなく、 分かる気がする、ローガンは船の扱いに慣れてるね、どこで習ったの?」


「俺が育ったのは漁師町だったからな、ガキの頃から散々乗ってた」


「そうなんだ」


「ああ、だからこの鋼の肉体は、海から授かったようなものだ! がっはっ は! じゃあ俺は舵を取らないといけないから、また後でな」


「うん、今度さ、船の扱い方教えてよ!」


「ああ、もちろん! 筋肉つくぞ! がっはっは!」


 ローガンはそう言うと船橋せんきょうへと向かっていった。


 ティグは甲板でナイフの手入れをするアミを見つけると、アミの元へと向かった。


「アミ」


「ん? どうしたティグ?」


 アミはナイフの手入れを続けながらティグに答えた。


「ローガンて漁師町で育ったんだって」


「んんそうよー、ローガンと話したの?」


「うん、そういえばアミのお父さんも漁師って言ってたよね? アミも船扱えるの?」


「んー、ある程度は分かるけどね、でもそれはヴィルヘルムに入ってから覚えたものよ、それこそローガンに教わったよ、父の船に乗っていたのは大分小さい時だったからねぇ、その頃はもっぱら乗る専門だったわよ」


「そっか、ところでさ……」


 ティグは神妙に話し始めた。


「んー? なにー?」


「アミはなんであんなにギットを持ってたの? もしかしてヴィルヘルムって、何か悪い事とかしてるの……?」


「ぶっ!! いで!!」


 アミは吹き出し、指を切った。


「ア、アミ! 大丈夫?」


「あ、ああ……だ、大丈夫……」


 アミは切った指をくわえ、ティグに答えた。


「あのね、兇獣きょじゅうにはギットが懸けられているの、兇獣きょじゅうを倒すとオームの殻が残るから、それを交換所に持っていくと、ギットに変えてくれるのよ」


「ええ? そうなの?」


「そうよ、兇獣きょじゅうの強さによって、もらえるギットが変わってくるから、強い兇獣きょじゅうを倒す程、沢山のギットがもらえるわ、ちなみに、五獣兵ごじゅうへい四獣兵しじゅうへいくらいでも五千から一万ギットくらい、三獣兵さんじゅうへいなら二〜三万くらいは貰えるわよ」


三獣兵さんじゅうへいで二〜三万くらい、てことはアミに三十六万返すとなると……グレッグなら十二体……」


「はは! 大丈夫大丈夫! もっと強くなればそんくらい、旅してればすぐだって!」


 アミはティグの背中を何度か叩いた。


 するとティグは寝転び空を見上げた。


「ああー、でもなんかちょっと安心はしたよ」


「安心? なにが?」


「うん……ガルイードを出て初めて着いた村があってさ、その村は兇獣きょじゅうの襲撃によって酷い有様だったから……もうこの世界はすべてそんな感じになってるんじゃないかって、不安だったんだ……」


 アミは手を止めた。


「でもイグナみたいに活気のある町もまだまだあるってわかったら、まだまだ希望はあるなって、少し安心したよ」


「ティグ……」


 その時、それを聞いていたクムルが口を出した。


「はっ、めでたいやつだな」


 ティグは起き上がりクムルへ言った。


「な、なにがだよ!」


 それを見ていたアミは今度は特に言い返すこともなく黙った。


「イグナはあくまでも小さな町だから、今はまだ生き残っているだけだ、この大陸にあるガルイードを覗く、四つすべての王国は、すでに兇獣きょじゅうの手によって陥落されている、この意味がわかるか?」


「え……」


兇獣きょじゅうに対抗すべく、まともな軍をもっているのは、あとはガルイードだけということだ、他すべての王国の軍は兇獣きょじゅうによって倒されているんだよ」


「なっ……」


「つまり、ガルイードが落とされた日にゃあ、この大陸で兇獣きょじゅうを倒せる軍が完全になくなるってこった、わかるか? 兇獣きょじゅうに対抗すべく軍が、どこにもいなくなるってことなんだよ」


「ちょっとクムル……」


 アミはクムルに目線を送った、しかしクムルは構わず続けた。


「イグナに希望? はっ! ただ今は眼中にないから強い兇獣きょじゅうが来ないってだけの町に? これから先、兇獣きょじゅうの勢力が増え続ければ、間違いなくどの町も、いずれは大陸全ての町も村も、兇獣きょじゅうによって壊滅させられることになるんだぞ、それを安心? 希望? はっ! これがめでたくなかったらなんだってんだ」


「くっ……」


 ティグはぐうの音も出ず俯いた。


「クムル! いい加減にしなさい! そうならない為にあたし達がいるんじゃない! 仲間同士で志気を下げるようなこと言わないで!」


「はっ! 現実を言ったまでだね、こんなんで志気が下がるようなら、最初からやめとけ、所詮は王国のおぼっちゃん、血みどろの戦いにゃついてこれねえよ」


 そういうとクムルはその場を去った。


「ティグ、気にしちゃ駄目よ……あたし達はあたし達のやるべきことをやるだけだから」


「ああ……大丈夫……」


 その様子をウィザードは船橋せんきょうから見ていた、そんなウィザードにウォルが声を掛けた。


「あの子、大丈夫ですかね……?」


 ウィザードはティグの表情を見て答えた。


「……どうだろうな……」


 船は勢いを増し、大海原を駆けていった。

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