第31話【六人】

 ヴィルヘルム一行はイグナという町を目指し、ヘブルの森を歩いていた。


 ティグは道中、アミに話しかけた。


「ねえアミ……」


「ん? なにティグ? どうした?」


「これは今どこに向かってんの? スカールのアジト?」


「ううん、スカールのアジトまでは、まだ私たちもわかってないわ、これから向かうのはコワルド火山」


「コワルド火山……?」


「そう、そこにはスカール率いる群獣軍ぐんじゅうぐん二獣兵にじゅうへいのグレイブがいるはず、まずはそいつを倒しに行くわ、一気に大将を取りたいとこだけど、まずは奴らの強い部下から倒していかないと、いざって時に手を組まれたらやっかいだからね」


「へー……なんか、ちゃんと考えてんだね……」


「そうよー、ウィザード隊長は賢くて慎重な人だから、決して私たちのように無鉄砲には動かないわ、常に綿密に考えて、必ず勝つ為の行動を取るの」


「そうか……」


 ティグはふと前を歩くウィザードの後ろ姿を見た。


「そういや、ヴィルヘルムって全部で十四人いるって言ってたけど、他の人達は今、何してんの?」


「他の隊員は今、統獣兵とうじゅうへいのスクラードを追って北にいるわ、いろいろと情報収集をしてる」


統獣兵とうじゅうへい、スクラード……」


「てか、そういや、ここにいるメンバーの紹介もまだだったね」


「あ、うん……」


「まあまずは、先頭を歩く我らが大将、ミサ・ウィザード隊長よ、強くて賢くて、ちょっと怖いところもあるけど、時にはやさしい、私の師匠であり、恩人であり、憧れの人よ!」


「ウィザード隊長……」


 そしてそのすぐ後ろが、ウォル・フラム、ティグとそんなに年も変わらないんじゃないかな? 彼はウィザード隊長の息子……」


「ええ? そうなの!? ま、まあいてもおかしくは無いんだけど……」


「実は本当のところはちょっとよく分からなくってね、血は繋がってない……養子だってうわさもあるんだけど、本当のところは……」


「そうなんだ……」


「ただ……めちゃくちゃ強いわよ、私なんかじゃ足元にも及ばないくらい……彼がこーんな小さなころから成長を見てきてるけど、天才って言葉は、まさに彼の為にあるような言葉ね」


「え!? アミより?  俺とそんなに年も変わらないのに……?」


「うん、まあ、気を落とさないで、あの子が普通じゃないだけだから」


 アミはティグの肩を軽く叩いた。


「んでその次が、あそこにいる筋肉隆々の男、ローガン・グルーバー、武闘家よ」


「 武闘家……」


「そう、基本は武器を持たずに、己の身体のみで戦うの、見た目は馬鹿っぽいけど、戦闘においてはとても利発的よ」


「はーっくしょい!!」


 ローガンは大きなくしゃみをした、それを見たアミは少し笑うと紹介を続けた。


「んで、度々君に噛みついて来るのが彼、クムル・ナジカ、隣にいるのが母親のリラ・ナジカよ」


「クムル……リラ……」


「ウィザード隊長とあの二人は唯一、この大陸の人間じゃないの、十年前にスクラシア大陸から三人で海を渡ってきたそうよ、スクラシア大陸での出来事は私の口から軽はずみに言えることじゃないから、仲良くなったら今度本人達に聞いてみて」


「仲良くか……」


 ティグはチラッとクムルを見た。


「なぁに、大丈夫だって! あいつ普段はあんなんだけど、意外と男気のある良い奴だから!」


 アミはティグの背中を叩いた。


「んでね、リラはもう、すんごい優しくて優しくて、私たち全員のお母さんみたいな存在よ! しかもリラの回復魔法は本当すごいんだから!」


 リラは声に気付いたのか、ティグとアミの方を振り向くと少し微笑んだ。


 アミはそれに満面の笑みで手を振り、ティグは少し照れながらお辞儀をした。


「お母さんか……」


 ティグが小さくつぶやくと、アミは気の毒そうな顔をした。


「そ、そしてー!」


 アミはティグの前に躍り出た。


「私がヴィルヘルムの才色兼備! 強さと美貌と優しさを兼ね備えた超戦士! アミ ・スペイサーよ!」


 すると木の上で鳥が鳴き、クムルが声を掛けた。


「おーい、なにしてんだー? 置いてくぞー」


 二人は駆け足で仲間を追った。


 その時、ウィザードが足を止め、アミもティグを静止させた。


「ティグ待って!」


「え?」


「敵よ……」


「敵!?」


 ティグが集団の前方を見ると、三体のホルネットと二体のモルザが迫って来ていた。


「あ! あんなに!?」


 ティグは剣に手を掛けた。


「ティグいいよ、ここいて!」


「え?」


 そう言うとアミは飛び出していった。


 ウィザード含む他の隊員を見ると、特に戦闘態勢を取るわけでもなく、皆普通に歩きだしていた。


「ひゃっほーい!!」


 アミは高く飛び上がると、木から木へ飛び移り、あっという間に兇獣きょじゅうの近くまで移動した。


「やっ! はっ!」


 するとナイフをホルネット一体とモルザー体へと飛ばした。


 ナイフは見事に額に当たり二体を倒した。すると残り二体のホルネットがアミに向け針を発射したが、アミは瞬時に避け、木の枝に掴まり回転すると、残り一体のモルザの頭上から頭を踏みつけた。


 そこへ二体のホルネットが針を剥き出しアミへと迫ったが、アミは瞬時に二体のホルネットを切り裂いた。


 一匹は倒れたが、 一匹は辛うじて生きており、逃げ出した。


「あ!」


 アミはすぐさまナイフを構えた。


 しかしホルネットの逃げた先にはローガンがいた為、ホルネットはローガンのゲンコツによって地面に叩きつけられ、バラバラになった。


「ああー!! こらっローガン!! あたしの獲物だったのにー!!」


「ああ、すまんすまん! がっはっは!!」


「んもー! へへー! ティグー! 見たー?」


 アミはティグヘとピースサインを送った。


「はは……すげえや……」


 そして暫く歩くとヴィルヘルム一行は、イグナという町へとたどり着いた。


「ここが……イグナ……」


 そこには生き生きと暮らす人々の姿があった。


 あっけにとられているティグにアミが声を掛けた。


「どうしたティグ?」


「あ、いや……ガルイード以外の活気のあるとこって初めて来たから……」


 それを聞いたクムルが呟いた。


「へっ、王国育ちのおぼっちゃんが、この先本当に大丈夫かね? ここにはお前さんに服を着させてくれるような人間はいねーぞ」


 それを聞いたリラがクムルをつついた。


「クムル、やめなさい」


 アミはそんなクムルを、もの言いたげな半目で見た。


「な、なんだよ……」


 アミはすぐに目を逸し、ティグへ話した。


「あいつ、田舎ってか、森の奥で暮らしてたもんだから、王国民僻んでんだ」


 それを聞いたクムルはすかさず突っ込んだ。


「おい……」


 アミは気にせずティグと話した。


「でどう? ご感想は?」


「ああ……なんか、まだこんな兇獣きょじゅうに襲われていない町もあるんだなって……」


「んー、まあね、なんだかんだこの大陸は広いからね、兇獣きょじゅうの手に落ちていない町はまだまだあるわよ、といっても全く攻撃を受けていないわけじゃないけどね、小さな町だから、そんな強い兇獣きょじゅうが来ないってだけで、四獣兵しじゅうへい五獣兵ごじゅうへいあたりはたまに来てるはずよ」


「それは町の人がやっつけてるの?」


「ううん、ほらあそこ」


 アミが指した方を見ると、そこには武装した兵士がいた。


兇獣きょじゅうによって王国を追われた兵士よ。彼らがたまに来る兇獣きょじゅうからこの町を守っているの」


「ヘー……」


「ところでぇ……」


 アミはティグを下から上へ、舐める様に見た。


「な、なんだよ……」


「まず、その格好をなんとかしないとね……」


「だ、だってしょうがないだろ、これでも一番動きやすい恰好を選んだんだ」


「んん……まあ、この剣は良いとして……やっぱなんかしら防具はあった方がいいわ」


「ええ? 大丈夫だよ、これで動きやすいし……」


「よし! わかった!」


「え? なに?」


「買ってあげる! 防具! なぁに、出世払いで返してくれればいいわよ!」


「いや、いいってそんなの……」


「遠慮しない! 遠慮しない! お姉さんに任せなさいって!」


 そう言うとアミはウィザードの方へ駆けて行った。


「隊長!」


「……なんだ?」


「防具屋へ行ってティグへ防具買ってあげていいですかー? あのままだとすぐ殺されちゃいそうなんでー」


 ティグは反応した。


「アミ……聞こえてる……」


 ウィザードはチラッとティグを見た後、アミへ返事をした。


「いいだろう……我々は情報収集と船の調達をしてくる、用が済んだら合流しろ」


「はーい!」


 アミはティグの元へ駆け寄り、手を引いた。


「ヘヘー! ティグ行こう!」


「あ、ああ……」


 二人は町の中へと駆けて行った、それを見たクムルはつぶやいた。


「あいつ……なんかはしゃいでね?」


 ローガンは笑った。


「がっはっは!! 青春青春!!」


 ウィザードの表情も、心なし笑っているかのようだった。


「行くぞ」


 そしてウィザード達も町中へと入っていった。

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