第29話【岐路】

「ミ、ミナルクって!? ま! ままま! ましかして!? 君のお母さんて、サオさん!!??」


「え?? そ、そうだけど、知ってるの?」


「し、知ってるもなにも……じ、じじ!! じゃあ、お、お父さんは……? ア、アンジさん!?」


「あ、ああ……そ、そうだよ……」


「どっひゃあああ!!!!」


 アミは転げた。


「ア、アンジさんとサオさんの子供だったなんて……し、暫くガルイードに帰ってない間に……こ、こんな大きな子供が……し、しかもその子を私が助けるなんて……な、何たる偶然……」


「母さんと父さんを知ってるの?」


「はっ! う、うん、十年以上も前の話なんだけどね、私がまだ子供で、両親とガルイードに住んでいた頃に、二人には両親共々お世話になってたの……」


「そ、そうなんだ? じゃあ、父さんに、父さんにもあったことがあるんだ?!」


「え、ええ……?  もちろん、確か……最後に会ったのは船の中……」


「俺、父さんに会ったことが無いんだ……母さんが言うには、十年前に王国で起きた事件以来、行方不明なんだって……」


「十年前の事件……」


 アミは少し眉をひそめた。


「うん……だから俺が物心ついたころにはもう……」


「そうだったのね……あ……じ、じゃあ……ティグのさらわれたお母さんって、サオさんてことか……」


「……うん」


「そ、そんな……」


 アミは愕然とした。


「ほ、本当にごめん……力になれなくて……」


 アミはうなだれながらも謝った。


「ううん……いいんだ、さっきシムが言っていた事も、確かにそうだなって思ったし……」


「う、うん……」


「それにさ! グレッグが言っていたんだ、なぜだかは分からないけど、母さんが殺されることは無いって、今はそれを信じるしかない……」


「ティグ……」


「アミ達が元凶をやっつけてくれたら! その時には必ず助けに行く! それまでにはうんと訓練して、アミにも負けないくらい強くなってるから!」


「うん! その時は私も一緒に助けに行くわ!!」


「ああ、ありがとう!」


 二人はお互いのガルイードでの思い出話に花を咲かせると、その後、眠りについた。



 ――――



 ティグはそんな中、決心をしていた。


(グレッグはああ言っていたものの、本当かどうかは分からない……やっぱり……やっぱり母さんは俺一人でも助けに行く、アミには悪いけど、ある程度のところまで送ってもらったら、うまくごまかして帰ってもらおう……)



 ――――



 数日後、すっかり回復したティグはアミと二人でガルイードを目指し洞窟を出ていた。


「ねえ、アミ」


「ん? なに?」


「ヴィルヘルムって、たったの六人で兇獣きょじゅうを倒しに行くの?」


「いや、あそこにいた人達で全部じゃないよ、普段あまり大人数では動かないんだ、大体いつもは三〜四人に別れて行動している事が多いかな、今回六人もいたのはたまたま合流したタイミングだったからだよ」


「そうだったんだ? え、じゃあ全部で何人いるの?」


「んーとね……十四人……だね」


「へえー、 思ったよりいるんだね」


「そう? ここまで集めるの苦労したんだよ……実はあたし、こう見えて古株だからね!」


「古株って、アミっていつからヴィルヘルムにいるの?」


「うーんとね……だいたい……七〜八年前からかなぁ、あたしが入った時はまだ全部で六人だったんだよ、ああー……懐かしいなぁ……」


「そんなに長い事いるんだ? どうりで強いワケだ……」


「まあね!」

 

 アミは得意げに笑った。


「でも入った当初は弱弱だったけどね、なんせ虫も殺したことも無いようなお嬢さんだったから……」


 アミは少しはにかんだ。


「そうなの? てっきりおてんば娘だったのかと思ってた……」


「こら……父が、ガルイード唯一の漁師の親方だったから、結構稼ぎが良くてね、何不自由なく、結構過保護に育てられてたのよ」


「そうだったんだ……」


「うん……本当に……本当に過保護で……やさしくて……けど頼もしかったし……いっぱい、愛してくれたなぁ……」


「アミ……」


「実はね……あたしもティグと同じ様な事してたんだ……」


「え? 同じことって?」


「うん……父が兇獣きょじゅうに殺されて数年後……父の敵を討とうと王国を出たの」


「ええ!?」


「今思えばティグに負けじ劣らぬ無謀者だったよ……こーんな小さなナイフ一本持ってね、バカだったなぁ……父を殺した兇獣きょじゅうを、兇獣きょじゅうに聞けば教えてくれると思ってたのよ」


 アミはまた、はにかみながら話しを続けた。


「案の定すぐに兇獣きょじゅうに襲われてね……食べられそうになってたところを、運よくウィザード隊長に助けられたってわけ」


 ティグは食い入るようにアミの話を聞いた。


「その時に……大泣きしながらウィザード隊長に言ったの、強くなりたいって……この手で父の仇を討ちたいって……」


「……」


「ウィザード隊長は言ったわ……このまま国へ戻れば、良くも悪くも平穏無事に、愛する者達と幸せな暮らしを送れるだろう、しかし、お前が今進もうとしている道は、命の保証もない、血で血を洗う、暗く、険しい、 いばらの道だってね」


「血で血を洗う……」


「あたしはとにかく強くなって、父の仇を討ちたくて……生まれて一度も切らずに伸ばし続けた髪を、持ってたナイフで切って言ったの……どんなことがあろうと、この手で父の仇を討つまでは、王国へ戻る気はないって……」


 アミは少し笑った。


「髪切ったからどうってわけでもないんだけどね、なにか……証明みたいなものを見せたかったのかもしれない……」


「……」


「まあ、そんなこんなで、その日からウィザード隊長直伝、地獄の特訓の始まり始まり……そりゃあもう、辛いのなんのって……思い出しただけでもゲボ吐きそう……」


 アミはおどけてみせた。


「でも……おかげで本当に強くなれた……ウィザード隊長には本当に感謝してる……あの日、あたしを連れてってくれたこと、強くしてくれたこと、そして……第二の家族を与えてくれたこと……」


「アミ……」


「こないだはちょっと冷たかったけどね、本当はもっと温かくて優しい人なんだよ! ちょっと真面目過ぎるってだけでね!」


「……うん」


「他のみんなも、シムだって、ちょっとシャイなだけで、あれで話せば結構いい奴なんだ、リラも、ウォルも、ローガンも……みんなみんな……」


「ああ……」


「実はね……こないだティグに隊長が言ってたでしょ、この大陸での最後の仕事があるって……」


「え?  ああ、うん」


「あれね、あたしの父を殺した兇獣きょじゅうを倒す事なんだ……」


「え? アミのお父さんを殺した……?」


「うん……あたしは大陸を渡って、元凶を倒した後で良いって言ったんだけどね、約束だからって……真面目でしょ?」


「そうだったのか……」


「うん、ヴィルヘルムのみんなも、なんの文句も言わずに協力してくれる……本当に良い奴らばかり……」


 アミは優しい顔で微笑んでいた。


「あっとごめんね、なんかあたしの事ばっか話しちゃって……ティグは? とりあえずガルイードに戻ったらどうするの?」


「あ、ああ……グレッグとの戦いで、嫌って程自分の力の無さを思い知らされた……今はとにかく特訓して、もっともっと強くならないと!」


「そっか、じゃあ戻ったらひたすら特訓の日々か」


「うん、アークももっと使いこなせるようにならないと……」


「アークは今どのくらいのとこなの?」


「まだ、右手から少し出せるくらい……」


「うーん、まだまだ初歩の初歩か……兇獣きょじゅうと戦うにはそれじゃあ、やっぱちょっとキツいわね……」


「やっぱそう……?」


「うん……例えばね、いくら腕の立つ剣士でも、アーク無しで兇獣きょじゅうと戦うとしたら、三獣兵さんじゅうへいにギリ勝てるか? ってとこじゃないかなぁ……?」


「そうか……やっぱりアークか……」


「そうね……今は剣の訓練より、まずはアークの訓練を優先した方が良いと思う、アークが使いこなせるようになれば、剣術の幅も広がるから」


「うん、そうだね、 分かった、ありがとう!」

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