第27話【窮地】

「くうっ!!」


 ティグはギリギリで横に転がるように避けると、すぐさま立ち上がった。


「チッ!! すばしっこい奴だな……」


 グレッグは槍をまた構えると、ティグへと再び襲い掛かった


「観念しやがれ!!」


「くそう……!!」 


 グレッグが槍を振り回しながら攻撃をするも、ティグはそれを何とか避けたり受け流したりと、完全に防御に徹することで致命傷を避けていたが、ところどころで槍先が擦り、至る所から出血をしていた。


「ヒッヒッヒッー!! だんだんダメージが溜まってるんじゃないかぁ!? いつまでもつかなあ!?」


「ぐっ!! ぐあ!! かはあっ!」

(駄目だ……奴の言う通り、このままじゃあ……とにかく奴の懐に飛び込まなきゃ話しにならない!! でも、入ったところであの尻尾が……ええい!! 余計な事を考えるな!! どうせこのままじゃやられるんだ、とにかく速く!! 素早く入って尻尾が来る前に攻撃を当てるんだ!!)


 そしてグレッグが横なぎに槍を振り、身体が流れた瞬間、ティグは勢いよくグレッグに突っ込んだ。


「うおおお!!」


 しかし、ティグの攻撃が当たるその直前、またもティグは尻尾で吹き飛ばされてしまった。


「ぐはあっ!!」


「ヒッヒッヒッ! 今度は来ると分かっていた分、うまく剣で防御したなあ……良いぜ……なかなかの学習能力じゃねえか……」


「くっくそう…」

(は、速い……しかも、左右どちらから来るか分からないから……これじゃあ攻撃を尻尾に合わせるのも難しいぞ……)


 グレッグは不敵に笑いながらティグへと近づいて来た。


「どうしあぁ? もう観念したかぁ?」


 ティグはまた立ち上がった。


(くそう……もっと速く……もっともっと速く踏み込まなくちゃ……)


 グレッグはまたも槍を振り回し、ティグへと攻撃を繰り出した。


「くうう!!」


 ティグはその攻撃を捌くも、出血の為か足元がおぼつかないでいた。


「ほれほれほれほれー!! どうした!? 足がフラついてんじゃねえか!! このままじゃやられちゃうぞー!!」


「くっ!! ……うあっ!?」 


 その時ティグはフラつき、前のめりに体勢を崩してしまった。


「ヒッヒッヒッ!! これで終わりだな!!」


 グレッグはティグの顔面目掛けて横なぎに槍を振った、槍先はティグの顔へと吸い込まれるように走って行った。


「!! うんぐぁあああ!!」


 ティグはさらに沈み込みながら槍を躱すと、グレッグへと再度踏み込み突っ込んだ。


「ケッ!! 性懲りもねぇ……」


 するとグレッグは尻尾を振り、尻尾はティグの側面から勢いよく飛んできた。


(もっと速く!! もっと速く!! 速く踏み込むんだ!!)


「うあああああああ!!!!」


 その時、強く踏み込んだティグの足からアーク光が放たれた。


「な!? なに!?」


 ティグは瞬く間にグレッグの眼前へと迫り、グレッグの顔めがけて剣を振った。


「グヲヲヲっ!!」


 ティグは勢い余り、グレッグの後方へと飛び出すと、そのまま受け身も取れずに転がった。


 グレッグは間一髪首を捻り、ティグの剣撃避けていたが、頬を擦っており、頬からは血が流れていた。


「てってめえぇ……! 俺の顔に傷を!!」


「はあはあはあ……い、今……右足にアークが……?」


 ティグは何とか立ち上がるも、かなり体力を消耗していた。


「ヒッヒッヒッ……しかし、もうかなり限界が近いみてえだなあ……」


「くそぉぉ……まだだ……まだやれる!!」


「ヒッヒッヒッ!  威勢の良いガキだぜ、良いぜ……この俺の顔に傷をつけた褒美に良い事を教えてやるよ……」


「なに?」


「てめえの母親、サオとか言ったなぁ……あの女はこの先、俺等によって食われることはねえよ」


「な! なんだって!? ほ、本当か!? でもなんでだ!?」


「ヒッヒッヒッ! 嘘じゃねえよ、なぜだかは知らねえが 、バジム様からそういうお達しが出たんだ、どうだ? 安心したか? んん?」


「か、 母さんは生きてる!! 生きてるんだ!!」


 ティグは深い安堵の表情を浮かべた。


「だが逆に残念だったなぁ……ヒッヒッヒッ……」


「な、なんだと!?」


「だってそうだろ……? 母親が死んでりゃあ……あの世で会えたんだ……だが、残念ながらあの世に行くのは……おめえ一人でだ!!」


 グレッグは槍を振り回し、またティグへと突撃してきた。


「くっ!!」

(母さんは生きてる!! なら、なおさらこいつを倒して居場所を聞き出さなきゃ!!)


 ティグは剣を構えた。


 グレッグは槍をしならせ横なぎに振ると、ティグへと叩きつけた、ティグは剣を縦にしてそれを防ぐも、踏ん張りが効かずに吹き飛ばされた。


「ぐわっ!!」


 吹き飛ばされたティグに向け飛び上がったグレッグは、槍を突き立てティグへと突いた。


 ティグは既のところで後ろに転がりそれを避けると、グレッグは突き刺さった槍を利用し、ティグの元へと飛び、蹴り飛ばした。


 蹴り飛ばされたティグは大木に衝突した。


「がはああっ!! うぐぐうう……うをおおおお!!」


 ティグはそれでも立ち上がり、グレッグへと突っ込んだ、槍が地面に刺さったままのグレッグだったが、それを抜くこともなく尻尾でティグを吹き飛ばした。


「ぐあああ!! ぐぐぅぅ、くそぅ……」


 吹き飛ばされたティグはまた立ち上がり、剣を構えた。


「て、てめえ……いい加減しつこいぜ……」


「はあはあはあ……う、うあああ!!!!」


 ティグはまたもグレッグに突っ込んだ、しかし、またいとも簡単に尻尾で吹き飛ばされてしまった。


「がはあっ!!」


「何度も何度もてめえは馬鹿か……? もうちょっと学習能力があると思っていたが……所詮はガキだったか……」


「はあはあはあ……はあはあはあ……ぐぐぅううあああ!!!!」


 ティグはまたしても立ち上がると、不用意にグレッグへと突っ込んでいった。


「チィ!! 馬鹿が!! これで終いにしてやる!!」


 グレッグは尻尾に力を込めティグへと振り放った。


「うをおおおお!!!!」


「!!??  んな!? 剣が俺に向いてねえ!? 尻尾!?」


 ティグはグレッグの顔めがけて突っ込んでいたわけではなく、迫りくる尻尾をめがけて剣を振っていたのだった。


 しかし左右のどちらから来るかが見切れない為、全て右から来ると仮定して今まで突っ込んでいたのであった。


 そして今回、ドンピシャで右からの尻尾の攻撃に剣を合わせた。


「うぎゃああああ!!!!!!」


 グレッグの尻尾が切れ、地面へと落ちた。


「はあはあはあはあ!! や、やった!! やったぞ!!」


 グレッグは尻尾を押さえ叫んでいる。


(こ、これで踏み込んだ後の攻撃は無い、あとはあいつの顔面に一撃を入れるだけだ!!)


「ぐうぅぅがぁぁああ!!!」


 ティグは悶えるグレッグに剣を構えると、右手にアークを輝かせ、グレッグへと剣を走らせた。


「なーんちゃって……」


「え??」


 グレッグは地面に刺さった槍を抜くと、ティグへと振り、吹き飛ばした。


「ぐあああ!!」


「ヒィーッヒッヒッー!! 残念だったなあ!!」


 するとグレッグの切れた尻尾は一瞬にして再生した。


「なっ!?」


「ヒッヒッヒッ……これくらいの再生なんぞ朝飯前よ、まあただ、痛えには痛えがなぁ……だが、良い作戦だったぜえ! ヒッヒッヒッ!」


「くっ! くっそぉぉおお……」


「折角こんなに頑張ってくれたんだ、お礼に俺も奥の手をみせてやるよ!」


 そういうとグレッグは大きな口を開けた。


「ケッ!!」


 すると口の中から紫色の液体が飛んできた。


「なっ!? うわあ!!」


 ティグは咄嗟に横へと転がり、倒れるように避けた。液体は後ろの木へとかかり、液体の掛かった部分を見ると、わずかに腐食していた。


「ど、毒!?」


「ヒッヒッヒッ……ああ、そうだ……だが安心しろ、俺の毒は即死するような代物じゃねえ、苦しみもがくが、一曰くれえは生き延びられるように調整してある、死ぬまでの間、母親を思う期間があるなんて……俺ってやさしいだろう?」


「くっくうぅぅ……」


「まあ、苦しすぎてそんなこと思ってる余裕ねえかもだけどなあ!! ケッ!! ケッ!! ケッ!!」


 グレッグは立て続けに毒液を飛ばした、ティグは転がるように逃げ回った。


「ヒィーッヒヒー!!!! おいおい、無様だなぁ!! いいじゃねえか!! いい加減死んじまえよ!!」


 グレッグはティグが逃げる方へと槍を払うと、ティグは剣で防ぐも飛ばされ倒れた。


「がはあっ!! ぐうぅう……」


「ヒッヒッヒッ! もうあきらめろって、そんな状態じゃ、もう反撃だって出来ねえだろう」


「くっ……」


 ティグは剣をつき、なんとか立ち上がった。


「おいおい……まだやるのかよ·……いい加減面倒臭えよ、とっととくたばれ!! ケッ!! ケッ!! ケッ!!」


「う、うををおおおお!!」


 ティグは飛んでくる毒液をことごとく切り裂きながら、グレッグへと一直線に突撃した。


 切り裂かれた毒液はティグを避けるように弾かれていったが、数的の毒液はティグの足や腕などに掛かった。


「ぐっ!! がああ!! ぐあぁぁあああ!!」


 ティグはそれをも構わず突っ込んだ。


「な、なにい!!」


 グレッグは驚くも、すぐさま尻尾を振った、しかしその時、またティグの右足が輝いた。


 ティグは一気に速度を上げ、グレッグへと剣を突き立てた。


「ううをおおおお!!!!」


「う、うがああああ!!!!」


 剣はグレッグへと突き刺さった、ティグはその勢いのまま宙へ飛び上がり、数回転すると地面へと仰向けに倒れた。


「はあはあ!! はあはあ!! があぁぁ……!!」


 ティグの身体に毒が回り始め、ティグは苦しみ始めた。


「ぐあぁぁぁ……はあはあ!! あ、あいつに……か、母さんの居場所を吐かせないと……」


 ティグは身体を反転させ、うつぶせになると、身体を引きずりながらもグレッグの方へと顔を上げた。


「あ、あれ……?  あいつは……?」


 その時、ティグの右手に槍が突き刺された。


「ぐわああああ!!!」


 グレッグであった、ティグが突き刺した剣は急所を外し、肩口に突き刺さっていた。


「このガキぃい……よ、よくもやってくれたなぁ……くそがああ!!」


 グレッグはティグを蹴り飛ばした。


「ぐわああ!!」


「このまま放って置いてもどうせくたばるが、それじゃあ腹の虫が収まんねえ!! ぐちゃっぐちゃのミンチにしてから食ってやる!!」


 そういうと尻尾で執拗にティグを叩いた。


「ぐわあ!! がああ!! だぁあ!!」


 そして足で腹を蹴り上げると、ティグは宙を舞い、そのティグを尻尾で地面に叩きつけた。


「あがあああ!!!!」


「チッ! ぎゃあぎゃあうるせえガキだ! もういい、とりあえず止めを刺してやる!」


「あ……あああ……」


 ティグはもはや虫の息であった、だがそれでも落ちている自分の剣へと手を伸ばしていた。


「くたばれええ!!!」


 グレッグは槍を突き立て、ティグの首へと放った。


「!!!! え?」


 その瞬間、グレッグの見ていた景色が逆さまになった。


 なんとグレッグの首が切られ、地面に落ちたのだった。


「あ……あああ……」


 ティグは朦朧とした目でグレッグの身体が倒れるのを見ていた。


(い一体なにが……)


 ティグは気を失った。

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