第26話【グレッグ】

 ティグは倒れたデズニードのそばに寄り、顔を覗き込んだ。


「ええ!? あ、頭が無い!? ど、どういうことだ……?」


 ティグは驚き、後ずさりながらもその場を離れ、自分の荷物を取りに行った。


「ん?」


 その時、抗帯籠こうたいろうを見ると、かなり弱いながらもまだその炎は消えていなかった。


「他にも兇獣きょじゅうが?!」


 ティグは剣を構え、辺りを見回したが、何の気配も感じられなかった。


(どういうことだ……まさか……?)


 ティグは倒れているデズニードを見た。


「……ま、まさかな……」


 ティグはなんとなくその場を離れ、木の陰に隠れると、倒れたデズニードを見張った。


 するとデズニードが動き出した。


(!? う、動いた!?)


 デズニードは立ち上がると辺りを見回していた。


(か、顔がないのに……わ、わかるのか……?)


 デズニードはしばらく川辺をうろつき、恐らくティグを探していたのだろうが、居ないことを悟ると川上の方へと歩き出した。


(も、もしかして……アジトへ戻るのか……? よし……)


 ティグは気配を殺しながらもデズニードの後を付けて行った。


 そしてしばらく歩くと、デズニードは森の中にある祠へと入って行った。


(もしかしてあそこがアジト……? どうしよう……中に入るのは流石に危険すぎるか……?)


 ティグはしばらくの間、祠の入り口を見張った。


(あれから特に兇獣きょじゅうの出入りはない……もしかしたら単純にあいつが休むために入っただけなのか……? どうする……悩んでる暇なんて無いぞ……)


 その時、祠の中から何かが出てくる気配がした。


(!!!!)


 すると中からは三体の兇獣きょじゅうが出てきた。


(来た! 兇獣きょじゅうだ!)


 兇獣きょじゅう達は外へ出ると、辺りを見回していた。


(どれも見たこともない兇獣きょじゅうだ……)


 するとさらにその後ろからもう一体兇獣きょじゅうが現れた。


【グレッグ】

全身に緑色で硬い鱗を持っている、大きく避けた口と長い舌が特徴で太い尻尾は木をなぎ倒す。


(あ、あいつはなんか……異様な雰囲気を持っているぞ……)


 するとグレッグは三体の兇獣きょじゅうに何やら指示を与え始めた。


(!!?? なにか指示をしている? 言葉を話せるのか!?)


 指示が終わると、三体の兇獣きょじゅうはティグの方へと向かって来た。


(え?! まずい! こっちへ来る!)


 ティグは急いでその場を移動した。


(び、びっくりした……バレたのかと思った……あいつら川の方へ向かっていく……まさか、俺を探しに行ったのか……?)


 祠の方を見ると、グレッグはまた中へと入って行った。


(あいつがこのアジトの親玉なのか……いや……そんなことは関係ない……とにかく、言葉を話せるんだったら、倒してクラーケルの情報を聞き出すんだ!)


 ティグはしばらく祠の周りをぐるぐると詮索すると、入り口から少し離れた場所でたち止まり、息を思いっきり吸った。


「おい兇獣きょじゅう!! お前らは俺がやっつけてやるからな!! ビビってないで出てこい!!!!」


 ティグはそう叫ぶと、すぐさま身を隠し、祠の入り口を見張った。


 すると中から更に四体の兇獣きょじゅうが出てきた、その中にはグレッグもいた。


(あ、あれで全部か……? よ、ようし……)


 ティグは近くに落ちていた石を握り、祠の入り口とは真反対へと思いっきり投げた。


 すると石は遠くで大きな音を立てた、兇獣きょじゅうは音のした方へと反応し、グレッグがまたも兇獣きょじゅうに指示を出すと、兇獣きょじゅう達は散り散りに森へと入っていった。


(よし、これであいつだけになったはず……)


 グレッグはしばらくあたりの様子を見ると、また祠へと入って行った。


 ティグはそれを見ると、ゆっくりと祠へと近づき、そっと中の様子を見た。


(中は真っ暗だ……この中に母さんが居てくれればいいんだけど……どうする……

いや、どうするじゃない……! 行くしか無い!!)



「お前、ヴィルヘルムか?」



「!!??」


 その時、祠の中を覗いていたフィルの背後からグレッグが話しかけた、と同時に槍を横薙ぎに振ってきた。


「うわあ!!」


 ティグがとっさにしゃがんで避けると、槍は祠の一部を破壊した、ティグは大きく後方へと距離を取ると、剣を抜いた。


「なかなか素早いな……さっきデズニードの奴を倒したのはお前だろう? やはりヴィルヘルムの一員か……ヒッヒッヒッ、見つけたぞ……こいつぁお手柄だ、お前一人か?」


「ヴィ、ヴィルヘルム!? な、なんだそれは!?」


「あん? 違えのか? なんだぁ……チッ! ……兵士ってわけでもなさそうだし、なんだってお前みてえなガキが? 俺等になんの用よ? 自ら餌にでもなりに来たか?」


「違う!! お前らの仲間にさらわれた母さんを助けに来た!! お前クラーケルって奴を知ってるか?!」


「クラーケル? ……ああ、知ってるよ」


「なに!? どこに居る!!??」


「さあなあ……ヒッヒッヒッ……あいつに母親をさらわれたって? もしかして、お前の母親ってのは、サオって女かぁ?」


「!!?? なぜお前が母さんの名を!?」


「ヒッヒッヒッ……おもしれえなぁ……いいぜ、教えてやるよ、ただし……俺を倒せたらなあ!!」


 グレッグは槍を構えティグに突っ込んできた。


「くっ!!」


 グレッグはティグへと槍を連続で突き放ってきた、ティグはそれを剣で全て受け流した。


 そしてそのまま剣を横なぎに払うと、グレッグはそれを後ろに下がり避け、槍を振りかぶりティグの頭上へ落した、ティグはそれを剣の腹で受け止めた。


「ぐぐぅぅ!!」


「ほぅ、なかなか良い剣捌きじゃねえか、こりゃぁ少しは楽しませてくれそうだなあ!」


 その時、ティグの右手からアーク光が輝いた。


「むっ!?」


 そしてティグはグレッグの槍を押し返し、グレッグは後方へと弾かれた。


 ティグは今の攻防で確信した。


(いける! 攻撃が見える! 戦えない敵じゃないぞ!)


「なんだぁ、お前アークも使えるのか、いいねぇ……強え人間とガキってのは美味えってのが相場だ、俄然楽しみになってきたぜぇ」


(こ、こいつ……アークの事を知ってるのか……?)


「いくぞ!! シェァァアア!!」


 グレッグが槍を振り回しながら突っ込んできた瞬間、ティグのアークは切れた、しかしティグは槍先を見極め、上手く攻撃を受け流していた。


「いいねー! いいねー! その調子だぁ!!」


「くっ!! はっ!! ぐっ!!」


 しかしグレッグの攻撃の回転は速く、ティグは防戦一方で、中々攻めあぐねていた.


「どうしたあ!? 反撃しねぇのかぁ?!  まだまだ止まんねえぞー!!」


(くそう!! 武器が長いからやり辛い……どうする、このままじゃジリ貧だ…!!)


「なんだなんだぁ!? 結局アークも消えちまったし、こんなもんだったのかあ!? こんなんでよく母親を助けに来る気になったなあ!! ヒッヒッヒッ!!」


(くそう……まてよ……長い武器……そうか、長いってことは逆に抑え込んで懐に入ってしまえば、武器が機能しなくなる……よし!)


 するとティグはグレッグが縦に槍を振り下ろした瞬間、身体を横にずらし避けた、そしてその槍を足で踏みつけた。


「ムッ!?」


「うをおおお!!」


 するとその槍を土台に駆け上がり、グレッグの顔めがけて剣を横なぎに振った。


「ヒッヒッ……」


「!? うがあ!!」


 グレッグの顔面に、一撃が入ろうとしたその瞬間、ティグはグレッグの太い尻尾によって叩き飛ばされた。


「ううぐ……し、尻尾……?」


「ヒィッヒッヒー!! 惜しかったなあ!! 残念でした!! 懐に入ればなんとかなると思ったかあ!? ヒィッヒッヒー!!」


「ううぅ……くっそう……」


 ティグは何とか立ち上がった。


「ヒッヒッヒッ……しかし、なかなか楽しませてもらったよ……」


 グレッグは徐々に近づいて来た。


「これで終わりだぁー!!」


 グレッグは飛び上がり、ティグの頭上へ槍を落とした。

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