第25話【力】

「先手必勝!!」


 ティグは剣を振り上げると飛び上がり、デズニードに向け勢いよく振り落とした。


「シハアアア!!」


 するとデスニードは片手でティグの剣を弾いた。


「うわっ!」


 ティグは剣を弾かれると体制を崩し横に飛ばされた。


(な、なんて力だ……! て、手が痺れている……)


 デズニードは怯んだティグへと間髪入れずに襲いかかった。


「シハアアア!!」


 デズニードは立て続けに剣撃をティグへと放つと、ティグはなんとか防ぐも防戦一方になっている。


「ぐっ! がっ! ぐわっ!!」


 そしてついにはティグの剣が持つ手を離れ、後方へと剣が飛んだ。


「くそうっ!」


 ティグはとっさに距離を取り剣を拾った。


「シハアァァァァァ……」


(つ、強い……! こ、こいつ……言葉を喋らないのに、こんなに強いなんて……)


 デズニードはまたゆっくりとティグに近づき、距離を詰めると剣を振り放って来た。


(あんな剣撃、とても受け続けてはいられない、受けるんじゃなくて外すんだ!)


 ティグはデズニードの剣撃に集中した。


「シハアアア!!」


「はっ! ふっ! くっ! がっ! うが!!」


 最初の何振りかは躱したものの、デズニードの凄まじい攻撃に身体の反射が追いつかず、剣で受けざるを得ない形となり、またしても剣を飛ばされた。


「くっそう!」


 ティグはまた即座に剣を拾い構えた。


(駄目だ……攻撃に転じる隙がない……あの剣を受けれないとどうにもならない……だけどあまりの強さに手が……)


「シハアァァァァァ…」


 またデズニードはゆっくりと近づいて来た。


(そ、そうだ……右手だけならアークを集中させられるんだ、アークを纏った右手なら、剣を持っていられるのかも!)


 するとティグは右手に集中しアークを燃やした、デズニードはそんなことはお構いなしに剣を振り上げ突っ込んできた。


「すううぅぅ……はああぁぁ……」


 その時、ティグの右手が輝き出した。


「シハアアア!!」


 デズニードが剣を振り落とすと、ティグはその剣を受けた。


(よし! これなら受けれる!)


 デズニードが立て続けに剣撃を放つと、ティグはそれをすべて受け、今度は逆に銅に剣を振り払った。


 デズニードがそれを後方に避けると二人の動きが止まった。


(こ、これなら戦える! ……けど……)


 ティグの右手からアーク光が消えた。


(戦いながらアークを保持するのがこんなに難しいなんて……呼吸が乱れればアーク孔が閉じてしまうし……常にアークを燃やしていないと切れてしまうし……)


「シハアァァァァァ……」


(もっと早くアークを教わっておけばよかった……ていうか、ちゃんと授業聞いておくんだった……)


 デズニードはまたもティグへと襲いかかった。


「くそぅ! とにかくやるしか無い!」


 ティグはまたアークで右手を覆うと応戦した。


 しかし次第にアークは薄れ、ついにはまた剣を弾き飛ばされた。


(駄目だ! 俺のアークの技術ではまだまだ戦いには使えない! 下手にアークに集中力を使うより、今はアーク無しで戦うしか他ない! なにか……なにか弱点はないのか……? よく見ろ、よく見るんだ!)


 デズニードはまた剣を振り上げ迫ってきた。


「はっ!?」


 ティグはとっさに大きく後ろへ飛び、大きく距離を取り剣を拾った。


(こ、こいつ……こっちが受けの時……必ず一撃目は振り下ろしてきてる……?)


 ティグはデスニードの攻撃を待った。


 するとデズニードはまた剣を振り下ろして来た、ティグはそれを横に逸し避けると、次にデズニードは剣を横薙ぎに打ち払って来た。


 ティグはまたも後方に距離を取ると、確信した。


(やっぱりだ、攻撃パターンが決まってるんだ、それがわかれば読みやすい!)


 そして案の定デズニードがまた剣を振り下ろしてくると、ティグはそれを横に避け、その後横薙ぎに来た剣をしゃがみ込み避けると、そのままデズニードの左足を切った。


「シハアアア!!」


「よし!!」

(これで動きも遅くなれば、もっと戦いやすくなる!)


 するとデズニードは少し腰を落とし、足具の着いている右足で踏み込んだ。


「なっ!!??」


 瞬時にティグの目の前に来たデズニードは剣を横薙ぎに振った、ティグはなんとか防御するも後方に吹き飛ばされた。


「うああ!!」


 デズニードは飛び上がり、倒れたティグへと剣を振り落とすも、間一髪ティグは横へ転がり避けた。


(な、なんだ今の踏み込みは!? 動きが遅くなるところか早くなったぞ!? い、今までは本気じゃなかったのか? しかも攻撃パターンも変わってきた……)


 デズニードは再び踏み込みティグに剣撃を放つと、ティグは裁き切れずにまたも吹き飛ばされた。


「ぐわあ!!」


 ティグは左肩を痛めるも、なんとか立ち上がった。


(くそぉぉ……か、勝てない……まず力が違いすぎる……剣が受けられないってのに……どうやって勝てば良いんだ……)


 その時、ティグはロッドとの会話を思い出した。


(ち、力……)




 ――――



「ああー!! 駄目だ!! 上手く出来ない!! アーク孔を開いてもそれを維持出来ないよ!!」


「うーん……そうだなぁ……ティグは力に頼り過ぎてるかな」


「力に?」


「うん、アーク孔を力で開けようとしている感じがする」


「だって……力入れないと、開かないでしょ?」


「ううん……アーク孔って力で開くものじゃないんだよ、あくまで呼吸の流れの中で、結果的に開くものなんだ、だからむしろ力は抜いて、自然な呼吸の動作に身を任せるんだ」


「う、うん……」


 ロッドはティグの背中に手を当てた。


「ほら……呼吸が頭の天辺から地面にストンと落ちてくる……するとお腹の中心が丸く膨らむ……それを押し返すというより、自然と背中を伝って頭の天辺から天に返って行く……」


「すううぅぅ……はああぁぁ……」


「そう! その感じ!」


「ああ……なるほど……」


「なんでもそうだけど、力で考えるより、流れを理解して、自然に任せる事が大事なんだ」


「う、うん……わかった!」




 ――――



(力ではない……流れを読む……自然に任せる……)


 ティグは剣を構えた。


 そしてデズニードはティグ近づくと剣を振り下ろした。


「シハアアア!!」


 ティグはデズニードの剣を受けると、受けた瞬間に持っている手の力を緩め、剣の力を受け流した。


 更に横薙ぎに剣を振ってきたデズニードの攻撃を少し下がり躱すと、またも振り降ろしてきた剣を受け流し、そのまま脇を切り裂いた。


「よし!!」


 ティグは勝機をつかんだ。


(そうだ、なにも相手の攻撃を返さなくてもよかったんだ、要は自分の身体に当たらなければいい、軌道がずれればそれだけで良かったんだ!)


 デズニードは脇を切られたとはいえ、動揺すること無くまた右足で踏み込み剣を振った。


 ティグが剣を横に受け流すとデズニードの身体は外に流れ、ティグは後ろから背中を切りつけた。


 しかしデズニードは止まらず、ティグに剣を横薙ぎに振ると、ティグはそれを上に弾き、デズニードとの距離を詰めた。


「うをおおおお!!」


 そして胸を切りつけ距離を取った。


(よし! 勝てる! 勝てるぞ!)


 しかし、デズニードは致命傷を負っているのにも関わらず、平気でまた剣を構え近づいて来た。


(こ、こいつ不死身なのか……? ようし……だったら……!)


 デズニードはまた鋭い踏み込みで剣を横薙ぎに振ってくると、ティグはそれをまた上に受け流し、肩口を袈裟に切り払った。


 それでも止まらないデズニードは剣をティグの頭上に振り落としたが、ティグはそれを避けると頭上に飛び上がり剣を振り上げた。


「うをおおおお!!」


 するとティグの右手が輝きだした、ティグはそのままデズニードの兜へと剣を振り落とした。


 デズニードの兜が真っ二つに割れ、デズニードはその場に倒れた。


「はあはあはあ……やった……やったぞ!!」

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