第24話【抗帯籠】

「うぅぅ……くっ……はあはあ……」


 ティグは何度かロッドの前でアークを燃やす練習をしてみたが、持続させる難しさを感じていた。


「はあ……難しいなぁ……最初は良いんだけど、燃やし続けることが上手くできないや……」


「こればっかりは少しずつ慣れていくしかないよ、慣れてる人は日頃から常にある程度のアークを体内で燃やし続けていて、あとはアーク孔さえ開けばつでもアーク出せるって状態にしているんだよ」


「ええ……??  常に?? もしかしてロッドも?」


「うん、まあ……魔法士は特に、アークを魔法に変換させるラグがあるからね」


「そっかぁ……」


「でも落ち込むことは無いよ、最初はみんなそんなもんだって、僕だって小さなころから始めて、ここまで来るのに十年はかかったから」


「そうだよね……そんなすぐに出来る筈ないよね……あ……そういえば、伝えたいことは二個あるって言ってたけど、もう一つはなんなの?」


「そうそう、もう一つが、オームを感じる事」


「オーム……確か兇獣きょじゅうの……?」


「そう、兇獣きょじゅうの生命エネルギーをオームと言って、僕らで言うアークと同じだね、それを感じられるようになってほしいんだ、そうすれば奇襲に合うこともなくなるし、ある程度兇獣きょじゅうの位置なんかも把握できるようになる」


「位置を把握か……」


「うん、そして何より、相手の強さがわかるようになるから、戦える敵と、そうじゃない敵が見分けられるようになるんだ、もちろん、オームやアークの量で強さのすべてが決まるわけじゃないけど、ある程度の指標にはなるからね」


「なるほど、確かに大事だ……」


「ただ、残念ながら今のティグには正直難しいんだ……」


「ええ? なんで?」


「実はオームを感じるって、結構なアークの技術なんだ、だからまずはアークをある程度扱えるようにならないと、正直厳しい……」


「そんなぁ……」


「だから、今はこれを持っていて」


 そう言うとロッドはティグに短い棒を渡した。


「これは?」


「これはね、抗帯籠こうたいろうと言って、ラナの葉やキコルの実などを練り合わせたものを、先端に塗り付けて乾燥させたものなんだけど、兇獣きょじゅうのオームに反応すると、青く燃えるんだ」


「へええー! すごい!」


「燃え方が弱ければ、弱い兇獣きょじゅうが近くにいるか、強い兇獣きょじゅうが遠くにいる」


「うんうん」


「燃え方が強ければ、強い兇獣きょじゅうが近くにいる、基本的に燃え方が強いか弱いしか判断材料がないから、正確な相手の強さとか距離は慣れるまでは判断し辛いんだけど、少なくともこれがあれば、奇襲は受けなくなる」


「確かにこれは助かる! ありがとうロッド!」


「うん、兇獣きょじゅうの跡をつける時とか、燃やしたくない時はこの鞘に納めておいて、そうすれば兇獣きょじゅうが近くにいても燃えることは無いから」


「わかった!」




 ――――


「本当にロッドやラフターさんにはお世話になったなぁ……母さんを助け出したら、必ずまた会いに行かなくちゃ!」


 するとティグは立ち止まった。


「その時までには全身でアークを出せるようになってなくちゃ……」


 ティグは右手に集中した。


「んん……んんん……すううぅぅ……はああぁぁ……」


 すると右手からアークが輝いたが、その輝きはうっすらと右手を覆う程度のものだった。


「はあ……もっとアークを燃やせるようになんないと……こんな程度のアークじゃあなぁ……」


 ティグはその場で暫くアークを燃やす練習を続けた。


「……はっ?!」


 その時、ロッドからもらった抗帯籠こうたいろうが青白く燃え上がった。


兇獣きょじゅう!? この燃え方は? 遠いのか? 近いのか? たいして燃えてないように思えるけど、どっちだ?」


 ティグは後方から気配を感じ、振り返った。


「キキィキィ!!」


「こいつは!?」


 モルザが現れた、モルザは木の枝をつたってティグへと迫った。


「くっ!」


 ティグは咄嗟に後方に飛び、同時に剣を抜いた。


「こいつは確かモルザ!」


 モルザは木の枝をつたいながら、ティグの周りを飛びまわり、様子をうかがってる。


「うをおお!!」


 ティグは飛び回るモルザに切りかかった、しかしモルザは素早く木から木へと移動し、ティグの攻撃を避けた。


「くそっ! 王国で戦った時は倒せたのに、捕まえられない!」


 そんなティグを尻目に、モルザはあざ笑うかのようにティグの周りを飛び回った。


「そうか……あの時は狭い部屋だったから……戦う場所によって、得意不得意があるんだ……」


 ティグは少し考えた。


「よし、捕まえられないんだったら……」


 するとティグは不意に剣を降ろし、目を瞑った。


「キキィキィ!!」


 それを見たモルザは、また木をつたい、ティグの背後へ素早く回り込むと襲い掛かった。


「そこだあ!!」


 ティグはモルザの気配を感じ、即座に振り返るとモルザの胴を切り裂いた。


「ギギキャ!!」


 モルザは倒れた。


「よし! ……ん?」


 しかしモルザは倒れたものの、抗帯籠こうたいろうの炎はまだ消えていなかった。


「ん? なんでだ? まさかまだ生きてるのか……?」


 その時、頭上からもう一匹のモルザが爪を剥き出し、襲い掛かってきた。


「うわああ!!」


 ティグは何とか咄嗟に剣で爪を防いだ。


「も、もう一匹いたのか! くそっ!」


 ティグは爪を受けた剣を素早く返し、モルザの腕を切り落とした。


「ギャギャギャ!!」


 腕を切り落とされたモルザは距離を取り、そのまま逃げだした。


「あ……!」


 すると抗帯籠こうたいろうの炎は消えた。


「ああ……あいつの跡を付ければよかったな……いや、あんな素早いやつ、追いきれないか……」


 ティグは剣を収めると、抗帯籠こうたいろうを見た。


「しかしこいつは本当に便利だ……ロッドにもらっておいてよかった……」


 そして倒れたモルザを見てティグは思った。


「またつい倒してしまった……アジトを見つけるには致命傷を負わせる程度に留めないといけないのに……」


 反省をしつつ、その場を動き出したティグは、暫くの間歩き続け、ミラージュ川へとたどり着いた。


「うわあ、川だぁ! よかった! 喉カラカラだったんだ!」


 ティグは川へと駆け寄り荷物を置くと、川の水を両手ですくい水を飲んだ。


「ぶはああ! うまあい! 生き返るなあ!」


 そしてティグはそのまま川のほとりで座禅を組むと、アークを燃やす練習を暫く続けた。


「ふぅ……しかしあれから全然兇獣きょじゅうが現れないな……だいたい、兇獣きょじゅうってどこに多くいるんだろう?」


 するとその時、 抗帯籠こうたいろうが燃え出した。


「!? 来た!! 兇獣きょじゅうだ!!」


  抗帯籠こうたいろうは先程のモルザの時より、激しく燃えていた。


(さっきより燃え方が激しい……近いのか……? どのくらい強いんだろう……)


 すると川の上流側から足音がゆっくりと近づいてきた、ティグは剣を取り、足音のする方へと目を向けた。


「あ、あれか!!」


「シハアアアァァァ……」


 川の上流から現れたのはデズニードだった。


「な、なんだあいつは……? 兵士……? でも抗帯籠こうたいろう が反応しているってことは兇獣きょじゅうなんだよな……? しかも、なんで兜と右の足具しか着けていないんだ……?」


 デズニードは剣を抜き、ゆっくりとティグに近づいて来た。


「シハアアアァァァ……」


「な、なんだあの剣は……? ボロボロじゃないか……あ、あんなんで切られたら…………逆に痛そう……」


 二人の間合いは徐々に近づいていった。

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