第23話【生命エネルギー】

 ティグは村を出ると東へと向け進んでいた。


 途中、自分の右手を見ると、村でロッドに言われたことを思い出していた。


「……アーク……生命エネルギーか……」



 ――――


「ティグ、君の戦闘を見て思ったことがあるんだ、剣の腕は確かに素晴らしい、だけど、この先兇獣きょじゅうと戦う上で、覚えておかなければならないことが二つある」


「二つ……?」


「うん……まず一つは、アークだ……」


「アーク……確か……前に授業で…………」


「そう、魔法士が魔法を使う時に必要とする、あのエネルギーだよ」


「ああ、魔法かぁ……苦手なんだよね……」


「君はあくまで剣士だからね、魔法を使えとは言わないけれど、アークの扱いは兇獣きょじゅうと戦う上で、必ず必要になってくる」


「うん……」


「ワラミルと戦った時、剣で切れなかったでしょ?」


「あ、うん……どう戦えばいいか分からなかった……」


「やりかたは二通り、一つは魔法で凍らせるか、燃やす」


「うん、ロッドがやってたやつだね」


「そう、そしてもう一つは、アークで消滅させる」


「アークで消滅……」


「そう、アークを魔法に還元して戦うのが魔法士なんだけど、剣士なんかはアークをアークとして、つまりはエネルギーとして使っているんだ」


「アークをエネルギーとして……」


「アークは生命エネルギーなんだ、そのエネルギーを使って、身体にまとわせたり、武器にまとわせたりする事で、 防御力を上げたり、攻撃力を上げたりすることが出来るんだ、アークそのものを飛ばすことだって出来る」


「あ……」


 ティグはクラーケルとの戦闘時、自分が放ったものこそがまさしくアークだと理解した。


「ワラミルのように物理攻撃の効かない敵と遭遇したら、剣士の場合はアークで消滅させるしか他ないんだよ」


「そ、そうだったんだ……? で、でも俺、アークの出し方なんて……授業でやったことはあるんだけど……魔法に興味が無かったから……ちゃんと授業聞いてなかったし……」


「それを今から僕が教えるよ」


「え? 本当?」


「うん、でも、やってすぐに出来るわけじゃないから、お母さんを探している最中にも定期的に特訓を続けてほしい、そして、兇獣きょじゅうを消滅しえる程のアークが出せるようになるまでは、物理攻撃の効かない兇獣きょじゅうに出会ったら、すぐに逃げること」


「わかった!」


「さっきも言った通り、アークっていうのは生命エネルギーなんだ」


「うん」


「ティグは人間が生きて活動する上で必要なものってなんだと思う?」


「ええ? なんだろ……うーん……ご飯? とか?」


 それを聞いたラフターが笑った。


「あっはっはっ! ちげえねえな!」


「まあ……そうだね、それも正解、じゃあ例えば、それがないと動けないし、なんかの拍子に怪我をして、それが外に出て少なくなっちゃうと死んじゃったりするもの」


「んんー? ……ああ、血?」


「そう! 血液は活動エネルギー、それをイメージして欲しいんだ」


「血をイメージ……?」


「じゃあ実際にやってみようか、利き手はどっち?」


「こっち」


 ティグは右手を出した。


「そしたら、この右手に通っている血液の流れを想像して」


「血液の流れ……」


「そう、手の中には沢山の血管があり、その中に君の血液、つまりはエネルギーが脈々と流れているんだ、その流れや強さを感じてほしい」


「流れ……強さ……」


 ティグは暫く集中した。


「どう……?」


「なんか……右手が熱くなってきた……」


「そう! その熱が大事なんだ、エネルギーを表す概念て色々あるんだけど、熱もまた一つの概念なんだ、だからその熱、つまりはエネルギーが自身に流れている感覚を掴んで欲しかったんだ」


「おおー……なるほど……」


「そしたら、もっと集中して……その血液の流れをもっと速く、そしてもっと力強く感じるんだ」


「速く……力強く……」


 ティグは目を閉じ集中した。


 するとティグの右手からキラキラと光る蒸気のようなものがうっすらと出始めた。


「そう! ティグ、これがアークだよ!」


「こ、これが……? な、なんかでも前に見た時より薄いような……?」


「うん、これはあくまで漏れたアークだからね、もうちょっとわかりやすく言うと、アークの湯気……みたいなもの」


「アークの湯気……」


「うん、アークを水として例えてみようか、今ティグの右手の中に駆け巡っている水(アーク)の脈動を力強く、速く感じることで、それが熱を帯びてお湯になる、そのお湯から出た湯気が、今ティグの右手から出ているアークってことだよ」


「へぇー……アークの湯気かぁ……」


「うん、ここまでの作業を、アークを溜めるとか、作るとか、燃やすって言うんだよ」


「へぇー……アークを……燃やすっていいね、カッコいい!」


「うん、そしてこれを、今は右手だけだけど、左手、右足、左足と……いずれは全身でアークを燃やせるようになるのが目標だ、アークを燃やせば燃やす程、一気に多くのアークを放出出来るようになる、その代わり、時間がかかったり、疲れやすくなってしまったりするんだけどね、そこの調整も含めてアークの技術になるんだ」


「なるほど……」


「一番覚えておいて欲しいのは最初に言った通り、アークは生命エネルギーだから、燃やし尽くしてしまったら死に至ることもある……そこだけはくれぐれも注意して欲しい」


「そうなんだ……? わかった、気をつける」


「まあ、大抵は全部燃やし尽くす前に気を失っちゃうと思うんだけどね、無我夢中になってる時とか、特に怒ってる時なんかに、そういう事が起こりうるから……」


「あ……」


 ティグは再度クラーケルとの戦闘時、まさしく激怒し、無我夢中になっていた自分を思い出した。


(確かに……あの後、三日間寝込んでいたらしいからなぁ……)


「じゃあ次はいよいよそのお湯を出そう、それがアークを放出するってことだよ」


「あ、うん」


「いいかい? 人間の身体には、目に見えないほどの小さな穴が沢山あいているんだ、例えば毛穴とか、汗が出る穴とかもそうだろ?」


「うん……」


 ラフターが口を挟んできた。


「ケツの穴とかな! わっはっは!」


「…………」


 二人は一瞬止まったが、構わず続けた。


「それと同じように、アークの出る穴も全身にあるんだ、それをアーク孔って言うんだよ」


「アーク孔……」


「アーク孔は、普段閉じているっていうか、半開きの状態なんだ、だから開こうっていう意識をしてもいないのに、アークの湯気が出てきたのはそれが理由だよ」


「へえ……」


「このアーク孔を開く為に大事なのが、呼吸なんだ」


「呼吸……?」


「うん、呼吸を使ってアーク孔を開き、燃やしたアークを一気に放出したり、少しずつ開いて、必要な分だけ出したりすることも出来るんだ」


「なんか……難しそうだね……」


「まあ、やってみようか」


「右手のアーク孔だけ開くの?」


「いや、アーク孔はどこだけ開くっていう技術はないんだ、全身のアーク孔を開くか、閉じるか、それだけなんだよ、基本的に、アークを集中させたい箇所がある場合は、燃やす段階で決めるんだ、例えば、右手にすべてのアークを集中させたいって時は、燃やす段階でアークを右手に集中させる」


「なるほど……」


「じゃあ、やってみよう、いいかい? まずは息を吸う時、頭の天辺から息が入って……まっすぐ身体の芯を通って、足まで行って、そのまま地面に吸い込まれていく……」


「すうぅぅぅ……」


 ティグは言われたようなイメージで息を吸い込んだ。


「身体の中心が丸く膨らんできたのわかるかい?」


 ティグはゆっくりとうなずいた。


「そしたら……おへその少し下、丹田と言われる箇所で、そのまるいものを、強く押す、するとそれは背中を通り、首の後、後頭部を通り、頭の天辺を抜け、天へと上がって行く……」


 ティグは更に言われた通り続けた。


「息が出きったところで首の後ろがキュッとなる感覚が出たら、アーク孔が開き始めるから、あとはその呼吸を繰り返すだけ、常に天から入って、天へと返す感じ……」


「すうぅぅぅ……はあぁぁぁ……すうぅぅぅ……はあぁぁぁ……」


 するとティグの右手が先程より濃く煌々と輝き出した。


「そう! やった! 出来たね!」


「おおお! 出来た!」


 そるとティグが出来たことに驚いた瞬間、アークはたちまち消えてしまった。


「あ、あれ……」


「ああ……呼吸がおろそかになってしまったからだね、この呼吸を常に維持出来るようにしないと駄目なんだ」


「そ、そうか……」


「とにかく今は練習だね、アークを燃やす、アーク孔を開く、この二つをしっかりと練習して欲しい」


「うん……わかった! 練習する!」


「あとは、アークを出せるようになってからの技術とか、他にも沢山あるんだけど……それはまず全身からアークを出せるようになってからだね、お母さんを助け出した後、もう一度訪ねて来てよ、残りを教える!」


「わかった!」


 ティグはその場でしばらく練習を続けた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る