第20話【名もなき村】
―― セドンの森
ティグはガルイード王国を出ると南に真っすぐ進み、セドンの森へと入っていた。
「はあはあ……ここは一体どこだ? 王国を離れたら急に
ティグは草で歩き辛い森を、剣で切り分けながら歩き続けた。
「しかしこれじゃあただの自然破壊だな……もっと歩きやすい道は無いのかなぁ?」
しばらく進むと、草も少なく、木の感覚も離れた場所に出た。
「お、これなら歩きやすいや、少し先を急げそうだな、どこへ向かっているのは分からないけど……」
ティグはそう言うと剣を鞘に納め、歩く速度を速めた。
「!!??」
その時、頭の後ろからなにか気配を感じ、ティグは咄嗟に地面に身を伏せた。
「
【ホルネット】
昆虫の
ホルネットはお尻の針を剥き出しにし、ティグを威嚇している。
「こいつ、一体だけか……? よし!」
ティグは剣を抜いて構えた。
「ブブブブ!!」
その瞬間、ホルネットはティグに針を突き出し、突撃してきた。
ティグは剣で弾き防ぐも、ホルネットは飛び回り、何度も針で突いて来た。
「くっ! なんて素早い奴だ! だああああ!!」
ティグは何とか隙を見つけて剣を振ると、ホルネットは後ろへと身を引いた。
「逃がすか!」
ティグが飛び上がりホルネットを追うと、ホルネットのお尻が妙にふくれあがった。
「!!??」
次の瞬間、お尻から勢いよく針がティグめがけて飛び出した。
「うっっわ!!」
ティグは咄嗟に首を捻り針を避けた、そしてそのまま剣を振り降ろしたが、ホルネットは旋回してティグの後ろへ回り込んでいた。
「あ、危なかった……飛ばすことも出来るのか……でもこれで奴に武器は無くなったぞ」
「ブブブブブブ!!」
するとホルネットのお尻から、再び針が生えてきた。
「げっ!?」
ホルネットはまた、針を突き出してきた。
「うわっ! わわっ!」
ティグは驚きながらもなんとか針を剣で弾いたが、連続の攻撃に体勢を崩してしまった。
「ブブブブブブ!!」
それを見たホルネットは、勢いよく突っ込んできた。
「はっ! くぅっ!」
ティグが咄嗟に横に転がり針を避けると、ホルネットの針は木に突き刺さった。
「う! うをおおおお!!」
ティグはすぐさま剣を振り上げホルネットの胴を切り裂いた。
「ブブ!!」
ホルネットの身体は真っ二つに別れ、その場に朽ちた。
「はあはあはあ……お、思わず倒してしまった……」
ティグは身体を起こし、剣を収めた。
「こないだの
ティグは先を急いだ。
途中途中で持ってきた干し肉を食べながら、丸一日程森を彷徨うと、遂には森を抜け、とある小さな村へとたどり着いた。
「む、村……?」
ティグはその村の中へと入って行った。
「こ、これは……」
その村には誰かがいる気配もなく、いくつかの家はボロボロになっており、中には崩壊寸前のものまであった。
「
ティグは暫く村の中を歩いた。
「!!??」
その時、横から鎌が飛んできた。
ティグは何とか避け、飛んできた方向を確認すると、剣を抜き飛んできた方向へと突っ込んだ。
「ひゃああ!!」
「え?!」
ティグは動きを止めた。
するとそこにはうずくまる男の姿があった。
「に、人間……?」
「ひぇ……?」
二人は互いを見合った。
「な、なんだぁ、子供じゃねえかぁ、おりゃあてっきりまた
「おじさん、この村の人?」
男は立ち上がった。
「そうだぁ、おめえさんは? どっから来たんだぁ?」
「ガルイード」
「ガルイード?! また良いとこの……んで、そのガルイードのお坊ちゃんがぁ、こんな村に何の用で?」
「母さんを探しに……」
「母さん……?」
「うん……
「
「うん……今までずっと
「そうかぁ……にしたって、それで国を飛び出して探しに来ちまうなんて、おめえさんもなかなか無謀なやつだなぁ……」
「国衛軍は、今それどころじゃなさそうだから……俺が行かなきゃ……」
「そうかぁ……ま、こんなとこでもなんだ、ガルイードから来たならおめえさんもだいぶ疲れてんだろ? 俺ん家来て少し休め、こんな状態でロクなもんは無えけど、飯食わしてやっから」
「本当? いや、でも……急がなきゃならないから……」
「ぐうううううう…… 」
(ティグのお腹の音)
「ほら、急ぎてえのはわかるけど、飯ぃしっかり食っとかんと、いざって時に力ば出ねえぞ」
「う、うん……」
そう言うと男はティグを自分の家へと案内した。
「まあ、入れ入れ、だいぶボロボロだけん、堪忍してな」
「お邪魔……します……」
「そういや、おめえさん名前は?」
「ティグ……ティグ・ミナルク」
「ティグか、いい名前だぁ、おりゃあラフターってんだ、よろしくな、適当にその辺座っててくれ、今飯作ってやっから」
「うん、ありがとう」
そう言うとラフターは支度を始めた。
「ラフターさん、一人で暮してるの? 家族は?」
「ん……死んだ」
「え?」
「三年前くらいかな、村を襲って来た
「そ、そうなんだ……なんか、ごめん……」
「ああん、いいっていいって、もう過ぎたことだ、いつまでもくよくよしたって仕方ねえしな」
「でも……」
「気にすんな、もう忘れた……おう、ちょいと火着けるから、そこの薪取ってくれるか?」
「あ、うん」
ティグは薪を何本か取ると、 ラフターに渡した。
「この村にはラフターさんしか住んでないの?」
「いや、そんなことねえよ二十〜三十人くらいかなぁ、普段は
「そうなんだ、
「そうだなぁ……一週間に二〜三体は腹空かした奴らがくるかなぁ……」
「そっか……」
「まあ、
「大変なんだね……」
「こんな世の中になっちまったもんは仕方ねえさ、なぁに、まだこうして命があるだけマシってもんだ」
「そうだけど……村を出ようとは思わないの?」
「それは思わねえかなぁ、やっぱこんなんでも生まれ育った村だしな、誰もかんもいなくなって、無くなっちまったらって考えたら、やっぱ離れらんねえよ……」
「そっか……」
「ただまあ、中には頼りになんのもいてな、それこそお前さんのいたガルイードに一時期、武者修行に行くっつって行ってた事のある奴がいんだ」
「え!? ガルイードに?」
「ああ、ちょうど三年前くれえかなぁ? 期間で言うと一年間くらいは行ってたんじゃねえか? いずれは兵士になるって言ってたんだがな、今は一人で特訓してるよ」
(俺と同じような事を考えている人がいたんだ、しかも実際に村を出て……)
「結構強えんだ、なんか魔法っつってな、手からこう、なんか、いろんなもん出すんだ」
「その人はどこにいるの?」
「え? いやぁ、それが、普段は森に籠っちまってるから、村にはほとんどいねえんだよ……」
「そうなんだ……」
「なんだ? 興味あんのかえ?」
「え、ああ……どんな人なんだろうなとは……」
「歳もまだ若えのにたいした奴でな、ガルイードに行ってた頃にゃ、随分偉い隊長さんの隊で訓練させてもらってたみてえでよ、しかもいずれは隊に入れって言われてたらしいんよ、兵士になんには年齢制限があるみてえでよ、入れる歳になったら入りに来いってよ」
「ええ? それってまさかサルバ隊長!?」
「サルバ……? うんにゃ、そんな名前じゃなかったな……」
「そ、そっか……」
「ほれ、これそっちさ持ってって、そろそろ出来んぞ」
「え? あ、うん……」
(魔法を使うってことは魔法士か……ならサルバ隊長なわけないか……しかし国衛軍は圧倒的に剣士が多い、なぜなら魔法はまだまだ戦闘においての有用性が確立されていないからだ……それが故に魔法士になるには相当な魔法力とそれを使う感性に長けてなければならない……あのハナでさえ、今のままでは到底無理だって普段から言ってるくらいだし……それを隊長に約束されてるって……? いったいどんな凄い人なんだろう……?)
二人はそんな話をしながらも支度を済ませ食卓に着いた。
「さあ、遠慮なく食ってくれ! 小せえ畑だけど、うちの畑で採れた自慢の野菜で作ったもんばかりだ!」
「うん、いただきます!」
ティグはひとくち口に入れた。
「ど、どうだ……?」
「うんまーい!!」
「そ、そうか?! だろう? よかった! ならたんと食え! たんと食え!」
「うん!」
ティグはラフターの作った料理に舌鼓を打った。
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