第18話【手紙】

 ―― 約束の日


 ハナとコイルは約束の場所へと集まっていた。


「ティグのやつ遅えなー……なにやってんだあ?」


「ティグが時間を守れないのはいつものことよ、いつも通りってことは肩ひじ張ってないってことだから逆に良いんじゃない? 今回はとにかく冷静でいないと駄目だから……」


「そうだなー、俺も落ち着かないと……落ち着け俺……落ち着け……」


 ハナはそんなコイルを見て微笑んでいた、しかしその後、一時間経っても二時間経ってももティグが現れることは無かった。


「お、おいハナ……いくらなんでも遅すぎやしないか……? こんな時に寝坊するなんて考えらんないし……なんかあったのかな……?」


「……ま、まさか……」


 ハナは走り出した。


「お、おい! ハナ!」


 コイルもハナを追って走り出した。





 ――ティグ家


 ハナとコイルはティグの家に来た、そして外観を見回すが人がいる気配は無かった。


「誰もいないのかな……?  おーい! ティグー!!」


 その時、ハナは扉に手を掛けた。


「お、おい! 勝手にまずいって!」


 しかし鍵が掛かっており、扉は開かなかった。


「やっぱり誰もいないんだよ……で、でも一体どこへ……?」


 ハナは嫌な予感が拭えないでいた。


「!?」


 その時、ハナは扉の手紙受けに手紙が挟まっている事に気付いた。


 恐る恐る手紙を抜き取り見ると、その表には【ハナとコイルへ】と書いてあった。


「こ、これは……?」


 ハナとコイルは顔を一瞬見合わせると、封を開き、中の手紙を読んだ。




 ――――


 ハナ、コイル、母さんはオレ一人で助けに行くことにする!


 二人がいっしょに行ってくれるって言ってくれた時は本当にうれしかった。


 まじで本当にありがとう!!


 やっぱお前らはさい高の友だちだ!!


 でも、もうこれいじょう二人をきけんな目に合わせることはできない。


 母さんがやつらにつれていかれたりゆうはわからないけど、もとはと言えばオレがかってな事を言って、国を出たことがつれていかれたげーいんだと思う。


 オレがちゃんとさいしょから母さんをつれて城へ逃げていれば……


 うまくできるかはわからないけど、ハナがおしえてくれた作せんでやれるだけやってみようと思う。


 だいじょうぶ! きっとだいじょうぶ! うまくいく! 


 ぶじに母さんを助け出してもどったら、また三人であの場所でとっくんしようぜ!! 


 そん時はオレ今よりきっとうんと強くなってるだろうからかくごしておけよ!!


 せいこうを祈っていてくれ!!


 かならずまた会おう!!


 ティグ ――




 ――――


「ティグ……」


 ハナは手紙を読み終えると力無くその場に座り込んだ。


「う、うそだろ……」


 コイルは現実を受け入れられない様子で、手紙を何度も何度も読み返していた。


 そしてハナは泣きながら地面を強く叩き始めた。


「ううう……馬鹿!! ティグの馬鹿!! あんたが勝手なのはこういう所よ!! なんで……なんで……」


 コイルは掛ける言葉もなく俯いていた。


「ううう……馬鹿ティグ!! 今度会ったらただじゃおかないんだから!! ううう……絶対、絶対に!! 生きて帰ってこなかったら承知しないんだから!! 馬鹿ティグーー!!」


 ハナの叫びが王国の空に虚しく響いた。




 ―― カーガモウ


 バジムはサオをガルイードへ戻すべく、カーガモゥを訪れていた。


「は!? バジム様!?」


 すると一体の兇獣きょじゅうがバジムに気付き、駆け寄り敬礼した。


「サオという女はどこにいる?」


「はっ! こちらでございます!」


 兇獣きょじゅうはサオが幽閉されている部屋へとバジムを案内した。


 部屋の奥ではサオが手錠に繋がれた状態で憔悴していた。


(この女がサオ……)


 バジムは扉を開け、中に入った。


「だ、誰……?」


 サオは怯えた目でバジムを見た。


 バジムは両手首と片足首に着いている枷を見ると消滅させた。


「え?」


 サオが咄嗟の出来事に驚いていると、バジムはゆっくりとサオに近づいた。


 するとバジムはサオの前で片膝を突き、頭を下げた。


「サオ様……私の部下が大変な失礼を働き、誠に申し訳ありません……」


「え……?」


 サオはバジムの行動と言動に驚いていた。


「あなた様はこれから私が責任をもって元の場所へとお返し致します、今回の件はどうかご寛恕くださいますよう、何卒お願い致します……」


「ど、どういう事? 一体なにがどうなって……? 私は、私は一体あなた達にとってどういう存在なの!?」


 するとバジムは顔を上げサオの目を見た、サオはバジムの目を見ると、どこかで一度見た様な記憶がよぎった。


「…………」


「あなた様は大兇帝だいきょうてい様がご厚誼にされているお方……部下の不手際により、今回このような憂き目に遭わせてしまいましたが、今後はこのような事の無きよう努めますので……」


「だ、大兇帝だいきょうてい……? 大兇帝だいきょうていって……一体何……?」


 するとバジムの顔色が少し変わった。


大兇帝だいきょうてい様……この世を支配し、統べるお方……大兇帝だいきょうてい……テツ様でございます……ご存じ、無いのですか……?」


大兇帝だいきょうてい……テ、テツ!? テツくん!?」


 サオは目を丸くしてバジムに詰め寄った。


「テツくんは!! テツくんは生きているの!?」


 バジムは少し怪訝な顔をした。


「は……!? じ、じゃあアンジは!? アンジは一緒!? まさかアンジも一緒に!?」


「……ええ……アンジ殿も一緒にいらっしゃいます……」


 サオはそれを聞くと崩れるように地面に伏せた。


「良かった……良かった……アンジ、テツくん……ううう……うあああ……!!」


 サオは少しの間、歓喜の涙を流した。


 しかし、それを見るバジムの目は冷たく、はたまた怒りにもとれるような目つきでサオを見ていた。


「うう……お願い……私を二人の元へ連れて行って、アンジとテツくんに合いたい……お願い!! 二人に合わせて!!」


「それはままなりません……」


「なぜ?! お願いよ!! 二人に合わせて!!」


大兇帝だいきょうてい様はガルイードには手を出すなとおっしゃいました……なので本来、あなた様がここにいらっしゃる事……私共と接触していること自体……本来ならばあってはならぬ事……今回の件は私共としては、絶対に秘匿にするべき事……残念ですが、そのお願いはお引き受けできません……」


「そ、そんな……」


 サオは頭を下げ、うなだれた。


(でも生きてる……二人は生きてるんだ! 良かった……本当に良かった!)


「な、なら、せめて せめてどこに? 二人がどこにいて、どうしているのかだけでも教えて!」


「……ここから南西にある大陸……スクラシア大陸におります……この世を統べるべく準備をしております」


「スクラシア大陸……? この世を統べるって、どういう事……?」


 バジムはゆっくりと立ち上がった。


「必要な質問には答えました、そろそろよろしいでしょうか……?」


「ちょっとまっ……」


 サオはバジムの発する異様な空気に気圧され黙った。


 バジムは右手をサオの前に出した。


「失礼……」


 するとサオの身体は浮かび上がり、そのままバジムも一緒に空高くへと上がって行った。


「え? え?」


 サオは怯え、震えている。


 次の瞬間、サオの見る景色がまるで見たこともないようなものに変わり、思わず目を瞑った。


「到着いたしました……」


 しばらくしてバジムの声で目を開くと、なんとそこはガルイードの上空であった。

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