第17話【決意】

 ―― ガルイード王国


 ハナは診療所を出て、国衛軍の駐屯所へと向かってい


「え? あれは……」


 駐屯所へ着くと、そこには多くの人が押し寄せていた。


「うちの息子が帰って来ていないんです!!」


「俺ん家の嫁も!! 城にいなかった!! きっと兇獣きょじゅうにさらわれたんだ!!」


「わたしのお父さんがーー!!」


 先日の兇獣きょじゅうの襲撃により、家族が行方不明になってしまった人達が、助けを求めて駐屯所へと押し寄せていたのでった。


「そ、そんな……今回の兇獣きょじゅうの襲撃によって国衛軍が守り切れず、家族をなくした人達がこんなにも多かっただなんて……」


 ハナは駐屯所に押し寄せた人達が減るのを待った。


 数時間程待っていると人も減り、ハナは駐屯所の兵士へと声を掛けた。


「あの、すみません……」


 兵士はハナを見ることもなく、面倒くさそうに返事をした。


「ああん? 今度はなんだ?」


「私の友達のお母さんが兇獣きょじゅうにさらわれてしまったんです、どうか国衛軍で捜索をしてもらえないでしょうか?」


「ああ……さらわれたの? そしたらまずはそっちの建屋の中に遺体が集められてるから、そん中にいないかを先に確認してくれる?」


「遺体って……殺されたわけじゃないんです! 私たちの目の前で連れ去られたんです! お願いします! 至急兵を出して捜索してください!」


「目の前でさらわれたの? ならもうとっくに食われてんじゃないの?」


「そ、そんな言い方……生きてます! 兇獣きょじゅうはおばさんになにか用があって連れ去ったんです、食べるなら連れ去らなくても、その場で食べられてるはずです、なにか理由があって連れ去ったならすぐには殺されないはず! お願いです! 一刻を争う状況なんです! 兵を出してください!」


「用があるって? 兇獣きょじゅうが? はんっ、わかったわかった、ただね、 捜索願いを出してるのは君だけじゃないしね、ただでさえ今回の件で 国衛軍の中でもいろいろと体制の見直しなんかも出てて、おいそれと兵を出せる状態じゃないんだよ、気持ちはわかるけど、 君だけを特別扱いするわけにはいかないからさぁ」


「そ、そんな……」


「わかったらその紙にそのさらわれた人の名前と、君の連絡先を書いておいてよ、受け取るだけは受け取っとくから」


 ハナが兵士の対応に茫然としていると、駐屯所の脇でうずくまる少女に気付いた。


「う……お母さん……ううぅ……」


 ハナは紙を手に取るとその少女の元へ行き腰を落とした。


「お母さん……いなくなちゃったの?」


「う、うぅ……うん……お家に、お家に帰ってこないの……お母さん……ううぅ……」


「そう……」


「うう、うう……ううぇぇ……」


「お母さんの名前は?」


「うぅ……ルナ……ルナ・グレイス……」


「あなたの名前は?」


「ララ……ララ・グレイス……」


 ハナはララから必要な情報を聞き出すと紙に書き、少女の頭にそっと手を乗せ、やさしくなでた。


「ララ……お母さんはきっと無事よ、絶対に元気で帰ってくるって信じて、希望を捨てないで……」


「ううぅ……おねえちゃん……うぅ、うん……」


 ハナは暫くララと話しをし、なだめた後、家へと帰らせた。


 そしてハナは駐屯所の兵士の前へ行くと、ララの母親の情報の書いた紙を机の上に叩きつけた。


「うを! なんだよ、驚かせるなよ、ん? 書いたの? じゃあ、とりあえず預かるだけ預かっておくから」


 兵士がハナの手から紙を取ろうとしたその時、ハナは紙を握りしめ、手を引き、 兵士を睨み付けた。


「あんた達に……国衛軍を名乗る資格なんてない!!」


「は?」


 そういうとハナはその場から立ち去った。




 ―― 診療所


 診療所ではコイルも目を覚まし、ティグとコイルは話しをしていた。


「なあティグ……今回、国衛軍もかなりやられたのかな?」


「そうだな……前の兇獣きょじゅうとはレベルが全然違ったからな……あのフィルでさえ苦戦したみたいだし……」


「それでもあいつらはあくまでも手下なんだろ? ならあいつらの親玉って言ったらどんだけ強いのよ……?」


「うん……」


「これからこの国もちょいちょい襲撃を受けるようになっちまうのかな……? いずれはよその王国みたいに……」


「……そ、そんなことないさ! この国にはあのサルバ隊長だっているんだ! きっと大丈夫だって!」


「そ、そうだよな、サルバ隊長が護ってくれる限り……その間にどんどん兵士も育成して、そのうち完全に兇獣きょじゅうをやっつけてくれるよな!?」


「ああ! 俺がやっつけるさ! 今回の戦闘でまた強くなれた、どんどん強くなって、いつか兇獣きょじゅう殲滅せんめつしてみせる!」


「たのもしいねー! よ! 未来の隊長!!」


 その時、診療所にハナが帰ってきた、コイルはハナに問いかけた。


「あ、ハナ! どうだった!? 国衛軍は兵を出してくれるって?!」


 ハナは浮かない顔でティグの横に座ると首を横に振った、それを見たティグは表情を変えた。


「え……? ハナ? ど、どういう……」


「国衛軍が兵を出すことは恐らく……ないわ……」


「え? な、なんで? なんでだよ!?」


「今回の件での死傷者や行方不明者が多すぎる、それに国衛軍事態も痛手を負っているみたいで、体制の見直しなんかでかなりバタバタしてる……とてもじゃないけど……国民一人一人の声に耳を傾けられるような状態じゃなかったわ……」


「そ、そんな……」


「あの様子じゃきっと、外に兵を出す余裕なんてない……それそころか、今他国へ応援に行っている兵士も引き戻して、王国内の護衛強化に力を入れるんだと思う……」


「じゃあティグのお母さん、サオさんはどうなるんだよ!?」


 コイルはハナに詰め寄り、ティグは下を向き塞いでいた。



「わたしたちで行こう」


「え?」


「ええ??」


 ティグが顔を上げハナを見ると、ハナは真剣な顔で、真っすぐにティグの目を見ていた。


「国衛軍は当てに出来ない、かといっておばさんを見捨てるなんてもっと出来ない、 なら私たちで行くしかないわ!」


 それを聞いたコイルは少し不安そうな顔でハナに尋ねた。


「で、でもどうやって? それに……また襲われたら今度は助かるかどうか……」


「基本、兇獣きょじゅうには合わないように、身を潜めながら行動する、とくに複数隊でいる兇獣きょじゅうには絶対に手を出さない、戦う時は確実に一体でいる兇獣きょじゅうのみを狙う」


「た、戦うの……?」


 ハナはコイルを見て頷いた。


「戦っても、止めは刺さない、奴ら、手傷を負えばそれを治療しにアジトへ戻る筈……その跡をつけて、やつらのアジトを見つけ出す」


「なるほど、ハナ頭良い……」


「アジトが分かれば後はこっちのもんよ、大丈夫、三人でうまく連携すれば、きっとうまくいく!」


「なんか本当にうまくいきそうだなぁ、おい! ティグ! イケるよ! 三人でハナさんを助け出そう!」


「あ、ああ……はは……」


 コイルはティグの肩を抱きながら喜んだ、しかし一方でティグは、どこか浮かない顔をしていた。


「ティグ、コイル……あんた達は明日には退院よ、行くにしても夜より昼間……だから明日は出発の準備、そして明後日の早朝に発ちましょう、朝の七時にいつもの場所に集合よ」


「わかった!」


 ティグも元気がないながらも口を開いた。


「ハナ……ありがとう、コイルも……本当にありがとう……」


「馬鹿、別にあんたの為に行くわけじゃないわ! あたしは、あたしがおばさんを助けたいから行くだけよ! もし、足を引っ張るようなことがあればすぐ置いていくんからね!」


 コイルはそんなハナを見て、ニヤニヤしながらティグに言った。


「素直じゃないねー、ティグの為に頑張るって言やあ良いのにねぇ……」


 ハナはコイルを睨み付けた。


「何言ってんのよ! 違うわよ! いい加減な事言ってたら承知しないわよ!」


「ひゃー! ごめんなさいー!」


 ハナは拳を上げコイルを追いかけまわした、それをティグは微笑ましく見ていた。


「こら!! 静かにしろ!! ここをどこだと思ってんだ!!」


 怒られた。




 ―― その夜


 ティグはベッドに横になり、フィルの言葉を思い出していた。




 ――――



「そんな無謀な事をぜず、とっとと仲間を連れて逃げればよかったものを……貴様の傲慢な考えのせいで、仲間を死なせるところだったんだぞ」


「いい加減その浅はかな考えを改めんと、いずれ本当に大切な仲間を殺すことになるぞ」



 ――――



 ティグは丸くなり、拳を強く握った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る