第16話【泥】
「と、とにかく、今あんたはいざという時の為に、身体の回復の事だけを考えて、おばさんの件はあたしがこの後、国衛軍の駐屯所へ行って話をしておくから」
ハナはそうティグに言い聞かせると、ベッドに促し休ませた。
―― ゼラル大陸南東カーガモゥ
クラーケルはゼラル大陸南東の、カーガモゥにあるスカールのアジトへと降り立った。
「スカール様、サオとかいう女を連れてきました」
クラーケルはサオをスカールの前に差し出すと、 いばら状のオームを解いた。
サオはすっかりと憔悴している様子で、その場に腰を落とした。
「その女がサオ……か」
スカールが椅子に座りながらも、鋭い眼光で覗き込むようにサオを見ると、 サオは怯えながらスカールの姿を見て何かを思った。
(メ、メザックの
サオはスカールを睨み付けるように見た。
「ほう……」
スカールがゆっくりと立ち上がると、サオはその巨体に再び驚き見上げた。
「なかなか気の強そうな女じゃねえか、気の強い女ってのは歯ごたえが良いからなぁ、嫌いじゃねえよ」
「わ、わたしに何の用があるっていうの!? あなた達はなぜ人々を苦しめるような事をするの!?」
「お前がガルイードにいると、ガルイード攻落の許可が下りねえからだ、人間を苦しめる事に理由なんてねえよ、単純に楽しいからやっているだけだ」
「そ、そんな……?? そ、それに、なぜわたしがいるとガルイードを攻めれないの?」
「理由は知らんが、
「だ、
「ああん? お前知らねえのか? 知り合いじゃねえのかよ……? じゃあ、なんだって
「そ、それは、わたしにも……」
「ふん……まあいい、とにかくまずはバジム様に報告だ、俺ではお前を
「そ、そんな……」
「おい、チェダー、俺はこれからバジム様の元へ行き、この女の事を報告してくる、その間、逃げ出さねえようにこの女をどっかに閉じ込めておけ、それと、ガルイード攻落の許可が出次第、即刻城を落としに行く、その時は総動員で出撃するから
「はい、承知いたしました」
そう言い伝えるとスカールは海辺へと移動し、海へと飛び込んだ。
海へと入ったスカールはとてつもない速さで進み、バジムのいるクラスティック王国を目指した。
(ガルイードを落とし、城さえ手に入れれば、ついにこの俺様が最後の
「グアーッハッハッハーー!!」
スカールはどんどんと速度を上げ、一時間程でクラスティック王国までたどり着いた。
―― クラスティック城王室
「バジム様……」
「サグアか、なんだ?」
「スカールがバジム様にお話しがあると来ていますが、お通ししてよろしいでしょうか?」
「スカールが……? 通せ」
「はっ」
しばらくすると奥からスカールが現れ、バジムの前に跪いた。
「どうしたスカール? ヴィルヘルムの奴らを捕らえたか?」
「いえ、奴らを捕らえるのはなかなか難航しております、いかんせん、どこでどう現れるかわからんもので……」
「なら何の用だ? くだらん用なら承知せんぞ」
「いえ、俺なりにガルイード攻落の許可が出ない理由はなんだろうと考えましてね」
「そんなもの貴様には関係ないだろう、今はガルイードよりもヴィルヘルムの方が優先だというまでだ、なにか不満でもあるのか?」
「え、いえ、滅相もない……ただ、どっからか風の噂で聞いたんですが、
バジムの顔色が変わった。
「貴様……どうしてそれを……?」
「いや、へへへっ……部下に耳の良い奴がいましてね……まあ、そんなことより、バジム様、この俺にいい案があるんですよ……」
「いい案……?」
「ええ、へへっ、ガルイード攻落の妨げになっているのがそのサオっていう女なら、その女をさらって
バジムは黙って聞いていた、スカールは得意げに話を続けた。
「それでねぇ、バジム様、実は……そのサオとかいう女、捕まえておいたんですよ!! あとはバジム様があの女を
「捕まえた……? そのサオという女を……?」
「ええ!! 今、俺の拠点のカーガモゥで幽閉しています!! さあバジム様!! 一刻も早くあの女を
その時、スカールの顔に衝撃が加わり、スカールは王室の壁へと吹き飛ばされた。
「ぐわあ!!」
吹き飛ばされ、壁に激突したスカールは倒れるが、すぐに顔を上げた。
「な! なにをしやがっ!?」
バジムを見上げたスカールは凍り付いた。
「あ、ああ、あああ……」
バジムは、とてつもない質量のオームを身体から滲ませながら、スカールを禍々しい眼で見降ろしていた。
「貴様……この俺の顔に泥を塗るつもりか……?」
「ひぃ、ひえ……滅相もございましぇん……」
スカールは怯え切った目で答えた。
「
「も! 申し訳ございませんんん!! し! 至急手厚く国へ送り返しますー!! な! 何卒お許しをー!!」
スカールは床に這いつくばり懇願した、それをバジムはまるでゴミをみるような目で見ていた。
「ふんっ、貴様のような馬鹿は余計な事を考えず、ただ黙って言われた通り、ヴィルヘルム捕獲に努めれば良いのだ」
「ははーー!!」
「そのサオと言う女はそのままにしておけ、あとでこの私が自ら迎えに行く」
「しょ! 承知いたしました!!」
スカールは逃げるようにして王室を出て行った。
サグアがバジムへ話しかけた。
「バジム様、申し訳ありません、まさか聞かれていたとは……」
「……構わん、もしかしたら都合が良かったかもしれん」
「と、言いますと?」
「スカールの様な馬鹿が他にもいるやもしれん、女をガルイードへ戻した後、信頼できる
「かしこまりました」
「……スカール……まがりなりにも
「では最後の
「ああ、スカールが駄目だった今、
【
「それではバジム様のスクリアが……大丈夫なのですか?」
「恐らくあと一体くらいなら、力にはさほど影響は出まい……」
「バジム様……どうかご無理はなさらずに……」
「構わん、とにかく今はヴィルヘルムをなんとしてでも探し出し、
「ははっ!!」
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