第13話【発見】

「おばさん……ごめんなさい……訳は後で話します、とにかく今は城へ避難することを考えてください!」


「ハナちゃん……?」


 その時、ワラミルの凍った穴から液体が出てくると、さっきより少し小さくなったワラミルが 三人に襲い掛かってきた。


「あ! 危ない! 伏せろ!!」


 コイルは咄嗟に小石を大量に掴むと、ワラミルに向かい投げつけた、すると小石はワラミルの体内に勢いよく入り込み、一瞬ワラミルの動きが止まった。


「おばさんこっちへ!」


 その隙にハナはサオを引っ張りその場から離れた。


 そしてその様子をクラーケルは上空からただ見ていた。


「なんだあのガキどもは? だが一人は女だな、あいつがサオか?」


 すると上空からクラーケルはワラミルへと叫んだ。


「おいワラミル! その二人の女は生け捕りにしろ! そっちの男は殺しても構わん!」


 それを聞いたコイルは怯んだ。


「こ、殺されるの俺!? そ、そんなのたまるか!」


 するとワラミルは何やらうねうねと動き出した、そして次の瞬間、体内に入った小石をコイルへ向け放った。


「!!?? うわああああ!!」


 コイルは大量の小石を受け、吹き飛ばされた。


「コイル!!」


 ハナはコイルの元へ駆け寄った。


「リスナ!」


 するとコイルの身体は光に包まれ、傷が回復した。


「ハ、ハナ、ありがとう……」


 コイルは立ち上がり、ハナとコイルとサオは三人で固まった。


「コイル……戦ったって勝てっこない、とにかくここから逃げる事だけ考えるのよ」


「お、おう、でもどうやって……てか国衛軍は何やってんだ? 助けに来てくれねーのかよ?」




 ―― 王国内東部


 一方でフィルは王国内の東部でガルドと戦っていた。


【ガルド】

ヒューマからなる兇獣きょじゅう、爪や牙は肥大し、 頭頂部から背中にかけて角のようなたてがみが生えている。


「はああ!!」


 ガルドは素早い動きでフィルの剣を躱した。


「へっ! そんな攻撃じゃ俺には当たんねえよ」


「ふん、そうか、ならば遠慮なくいかせてもらうぞ」

(この兇獣きょじゅう達、先日の兇獣きょじゅうや俺が今まで対してきた兇獣きょじゅうとはレベルが違う……)


「グアーッハー!!」


 ガルドはフィルに飛びかかった、フィルはガルドに向け瞬時に五発もの突きを放つもガルドはそれを瞬時に横に避け、フィルの側面からさらに爪を剥き襲い掛かった。


 フィルは突きの体制から剣を戻す暇がなく、ガルドの爪を身体を強引にねじって避けると、そのまま転がるように距離を取り、立ち上がった。


 フィルの肩には深くはないが、爪で裂かれた跡が付き、血が垂れていた。


「グヘッヘー……どうしたぁ……? まだ遠慮してるのかぁ?」


「ちっ!」




 ―― 王国内南部


 ワラミルはじりじりとハナ、コイル、 サオの三人との距離を詰めてきていた。


「コイル、もう一度あの兇獣きょじゅうに石を投げつけて!」


「え? でも最終的には自分に返ってきちまうぜ?」


「大丈夫、石を受けた瞬間、動きが止まる上に、投げ返す前には予備動作があるわ、その隙に走るのよ」


「そ、そうか、分かった!」


「おばさんも、いいですか? 全力で走ってください」


「え、ええ……」


 するとコイルは素早く小石を拾い、ワラミルへと投げつけた。


「今よ!!」

 

 その瞬間、ハナとサオは走り出した、コイルも次いで走った。


 石を受けたワラミルはやはり一瞬動きが止まり、さらに石が体内に入ったままなせいか、三人を追う速度もあまり早くは無かった。


 それを上空で見ていたクラーケルは少し呆れていた。


「あのバカ……石が邪魔なら吐き出しゃ良いものを、あれじゃ逃げられちまうぞ……もっと別の奴を連れてくれば 良かったな、ったく、面倒くせえなぁ……」


 そう言い、ハナ達の方へ移動しようとしたその時、クラーケルはなにかに気が付き止まった。


「お! ちょうどいいや……」


 クラーケルは不敵な笑みを浮かべた、一方ハナ達は全力で走っていた。


「コイル!! 急いで!!」


 その時、 コイルが何かに気付き叫んだ。


「!!?? ハナ!! サオさん!! 伏せろ!!」


「!!??」


 ハナとサオの側面からバルニルドが横なぎに剣を振るってきた、ハナとサオは倒れるように伏せ、なんとか躱した。


 その時、それを聞いたクラーケルは反応した。


「なに?! サオ?! 今サオと言ったな?!」


 クラーケルはサオを見てさらに不敵に笑った。


「サオさん、てことは年増な方か……なるほど……あいつがサオかぁ……!」


  倒れたサオはバルニルドを見上げると驚愕した、バルニルドは左手に先ほどの兵士の首を持っていた。


「あ、あああ……」


「お、おばさん? 大丈夫? 早く逃げないと!」


 バルニルドは兵士の首を投げ捨てると、剣を二人に振り上げた。


「うおおおお!!」


 しかしコイルがバルニルドに後ろから飛びかかり、動きを抑えた。


「今だ! 逃げろ!!」


「コイル!? くっ! おばさん! 立って!」


 ハナはサオを起こし、走るように促した。


「ぐわぁ!!」


 しかしその時、コイルは振りほどかれ地面に叩きつけられた、そしてバルニルドは倒れたコイルに剣を突き立てた。


「ハイウィンド!!」


 ハナの魔法でバルニルドの足元から風が渦のように舞い上がり、バルニルドの身体が少し浮きあがった。


 その隙にコイルは立ち上がると、近くにあった物干し用の竿を手に取り、ハナとサオの前に立ち構えた。


「ちょっとコイル、そんなんじゃ剣なんて受けれなわよ!?」


「わかってるって、だから、お前の魔法で凍らせてくれ、ちっとはまともになる……」


「わ、わかった……でもあたしの魔法じゃ硬度はそこまで保証出来ないわよ!?」


「ああ、でも今のままよりはよっぽどいいさ、さあやってくれ!」


 ハナは竿を掴むと力を込めた。


「フリーズン!!」


 すると竿はみるみる凍り、剣の形を成した。


「よし! いいか、俺が奴に飛びかかった瞬間に走るんだ!!」


「ハナは小さく頷いた」


「うをおおおおお!!」


 そしてコイルはバルニルドへ剣を振り上げ突撃した、と同時にハナとサオは走った。


「ハナちゃん、コイルくんは!!」


「大丈夫!! おばさんを連絡通路まで送ったら私はすぐに戻ります!!」


 その時、ハナは急停止した。


 なんとそこにはクラーケルが待ち構えていた。


「ケッケッケ……どこへ行くんだい? お二人さん……」


「くっ!」


「お嬢ちゃん、俺様はその女に用があるんだ、黙ってその女を譲ってくれれば、殺さないであげるよ……」


「お、おばさんに用……? 兇獣きょじゅうが? な、なんで?」


「ほら早く…… 渡すんだ……」


 クラーケルは少しずつ近づいて来た。


「誰があんたなんかに!!」


 その時、クラーケルは小石を指で弾き、ハナの右足へと飛ばした。


「ああああっ!!」


「ハナちゃん!!」


 ハナはその場に伏した。


「自発的に渡せば痛い目を見ずに済むものを、馬鹿なのか……?」


「う……うああああ!! バニング!!」


 ハナは右手から炎をクラーケルへと放った。


「ケッケッケ……」


 クラーケルはその炎を右手でかき消した。


「なっ!? くっ!!」


 ハナがさらに右手を構えて魔法を放とうとしたその時、クラーケルは再び石を弾き、今度はハナの腹部へと当てた。


「うぐうっ!! ごほっごほ!  がはっ!」


「ハナちゃん!! もうやめて!!」


 サオはハナを守るように抱きかかえた。


「ケッケッケ……おうおう、お前がこっちに来ればやめてやるよ」


「……わ、わかりました……」


 サオはゆっくりと立ち上がった。


「ケッケッケ……なかなか聞き分けが良いじゃねえか」


 サオがクラーケルへと足を踏み出そうとしたその時、ハナはサオの腕を掴んだ。


「駄目よ! 絶対におばさんは渡さない!! ティグと!! ティグとそう約束したんだ!!」


「ティグと!?  ハナちゃん、一体ティグとなにを?」


 その時、またハナに石が飛んできた。


「あああっ!!」


「ハナちゃん!!」


「ちっクソガキが、せっかく言うことを聞いてんだ、黙っとけ!」


「うぐぐうう……渡さない…… おばさんは絶対に渡さない……」


 ハナは額から血を流しながらも、サオの腕を強く掴んでいた。


「ちっ! ……ん?」


 クラーケルはなにかに気が付いた。


「ケッケッケ……どうでもいいけど、こっちばかりに気を取られてていいのか?」


「え……?」


「うあああああ!!」


 その時、後方から叫び声が聞こえた。


「コイル!?」


 ハナが振り返ると、なんとコイルは全身血だらけで、バルニルドに胸ぐらを掴まれ、顔に剣を突き立てられていた。


「ううぅ……ぐう……」


「ちょこまかと逃げまわりおって、だがこれで終わりだ!!」


「コイル!!」


 バルニルドはコイルに向かい、剣を突き放った。


「い! いやあああああーーー!! コイルーーーーー!!」


 その時、ハナの身体からアークの光が放たれると、渦巻き状の風がバルニルドへ向け一直線に放たれた、そしてその渦の中には大小さまざまな氷の破片が渦巻いていた。


「う、を、おおおお!!」


 ハナの放った氷の風はバルニルドに直撃し、コイルを放し吹き飛んだ。


「う、ううぅ……ハ、ハナ……?」


 それを見たクラーケルは驚いていた。


「な、なんだ今のは?」


 ハナは受けた傷と一気に放出したアークの影響でその場に倒れた。


「う、ううう……」


「ハナちゃん! ハナちゃんしっかりして!」


 サオはハナの身体に手を当てて力を込めた。


「リスナ!!」


「おっと!」


 しかし、即座にクラーケルがサオの手に小石を飛ばし、回復魔法を阻止した。


「ああっ!!」


 そして吹き飛ばされたバルニルドも立ち上がっていた。バルニルドが自分の胸を見ると、胸当てが大きくへこんでいた。


「たいした魔法だ……」


 バルニルドは歩き出し、ゆっくりとまたコイルに近づいた。


「うう……コイル……逃げて……」


 ハナの声も虚しく、コイルもまたダメージが大きく、その場を動けずにいた。


  バルニルドはコイルの頭上に立つと、剣を構えた。


「死ね……」


 そしてコイルへ剣を振り落とした。


「コイルーー!!」


 王国の夜空に血が舞い散った。

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