第12話【再び】

 ―― その日の夜


 夕飯を食べ終え、ひとしきりの団欒を済ませたサオとティグは、それぞれの部屋に入った。


 ティグはサオが寝るのを静かに待った。そしてその間、サオと過ごした日々を思い出していた。




 ――――


「ティグーご飯よー!」


「ティグー! 早く起きないと遅れるわよー!」


「きゃああー!! ティグ!! そっち行ったー!! 捕まえてー!!」


「母さんはもう知りません!!」


「ティグ、お誕生日おめでとう!」


「まあ凄い! 頑張ったわね!」


「こんなに立派に成長してくれて……あなたは私の誇りよ……」




 ――――


 ティグは声を押し殺し泣いた。


 そしてサオが寝静まったころ、ティグは静かに部屋を出ると、食卓の机にサオへとしたためた手紙を入れた封筒を置いた。


(母さん……ごめん!!)


 そしてティグは家を出て行った。



 ―― 待合せ場所


「あ、おい! ティグ! こっちだ!」


「コイル!」


 ティグはコイルを見つけ駆け寄った。


「コイル、早いな……」


「まあ、なんか家で待ってても落ち着かなくてな……」


「そっか……ハナは? まだ来てない?」


「ああ、何してんだろうな……?」


 しばらく待つとハナが現れ、コイルが呼んだ。


「ハナ! こっちこっち!」


「ごめん遅くなって、いろいろ用意してたから……ティグ、これ……持ってって」


 そういうとハナは布にくるまれた長細いものをティグに渡した。


「これは……?」


 くるまれた布を取るとティグは驚いた。


「剣!? どうしてこんなものを!?」


「父が以前使っていたものよ、寝静まるのを待ってたら遅くなっちゃった」


「ハナ……い、いいのか?」


 ハナはティグの腰を指差した。


「そんなちっぽけなナイフで、もし兇獣きょうじゅうに出くわしたらどう戦うつもりだったのよ! まったく、あんたは本当に馬鹿なんだから、あとこれ、地図、 一番近い王国はフィルスター王国ね」


「ハナ……」


「俺もこれ……」


 そういうとコイルもティグに包みを渡した。


「薬草とか、干し肉とか入ってるから……」


「コイル……ありがとう!」


 するとハナがまた何かを出した。


「そ、それとこれ……」


「え?」


 ハナが出したのは三つの腕輪だった、その腕輪には緋色に輝く石が埋め込まれていた。


「こ、これは?」


「コルルの石で作った腕輪よ、コルルの石には災から身を守る力があると言われているの」


「ハ、ハナが作ったの?」


「そ、そうよっ、ほら早く着けなさいよ!」


 そう言うとハナはコルルの腕輪をティグとコイルに渡した。


「お、俺にもあんの? やった!」


 三人はコルルの腕輪を嵌めた。


「良い? 私達はどこにいたって仲間!! チームハナよ!!」


 三人は拳を合わせた。


「え?」


「ん?」


「はあ?」


「お、おい、なんでチームハナ? そこはチームティグだろ?」


「いやいや、どう考えてもチームコイルだと思うけど?」


「何言ってんのよ、チームハナに決まってんじゃない! 馬鹿じゃないの!?」


 三人はしばらく言い合った。



 ――――


「はあはあ……は、はははっ! とにかく、ありがとうなハナ!! 大切にする!! うんと、うんと強くなって帰ってくるよ!!」


「おう! 絶対に強くなって帰って来いよ!」


「まあ、期待はしてないけど、せいぜい頑張りなさい」


「ああ、じゃあ……行ってくる!!」


 ティグは王国の外へと向かい、足を踏み出した。







 ドオオオーーーンンン!!!!!!







 その時、王国内から凄まじい音が聞こえた。


「!!??」


「!!??」


「な!? なんだ!!??」


 三人が音のした方を向くと、なんと、また十数体もの兇獣きょうじゅうが攻め込んできていた。


「き! 兇獣きょうじゅう!?」


「ま、また!?」


「な! なんでこんな時に!?」


 ティグは数体の兇獣きょうじゅうが降り立った場所を見ると驚愕した。


「あ、あっちは俺ん家がある方だ! か、母さん!!」


 ティグは持っていた荷物を投げ捨てると剣を握り走り出した。


「ティグ!!」


 すると走り出したティグをハナが止めた。


「放せハナ!! 母さんが!! 母さんが!!」


「ティグ落ち着いて!! 今戻ってしまったら、あんたが王国を出ようとしたことがバレて、二度と他国へ行けなくなるわよ!!」


「だからって放っておけるか!! 母さんを助けないと!!」


 ティグはハナを押し切ろうとした。


「んん!! もう!!」


 ハナはティグを押し返し、倒した。


「ぐわっ! くっ!」


 ティグはすぐ立ち上がろうとしたが、ハナはティグに叫んだ。


「ティグ!! あんたのお母さんは私達が助ける!! あんたは行くのよ!!」


「でも!!」


「いいから!! この先あんたがいなくなってからだって、きっと兇獣きょうじゅうの襲撃はある!! あんたはそれをも覚悟で行くって決めたんでしょ!?」


「ぐっ……だ、だからって!!」


「だったら少しはあたし達を信じなさいよ!! あたしたちがきっとあんたは強くなって帰ってくるって信じて送り出すように!! あんたも少しはあたし達を信じなさいよ!! このチャンスを逃したら、もう二度と無いのよ!! 強く、強くなるんでしょ!? あんたの覚悟はそんなもんなの?!」


「うぅぐ……」


 ティグの噛み締めた唇から、一筋の血が垂れた。


「行くのよ!!」


 ハナは真剣な目でティグを見つめた。


「行けえええええええええ!!!!」


「ぐうううぅぅ……あああ!!」


 ティグは王国の外へと走り去っていった、ハナはその後姿を力強い目で見ていた。


(ティグ……頑張って!)


「コイル!!」


「あ、ああ!」


「急ぐわよ!!」


「おおう!!」


 二人はティグの家の方へと走って行った。




 ――ティグ家


 サオは大きな音に飛び起きると、急いでティグの部屋へと向かった。


「ティグ!!」


 部屋を明けるとそこにティグの姿は無く、部屋はやけに綺麗に整頓されていた。


「ティ、ティグ……??」


 サオは次に食卓へ向かうと、机に置いてある封筒に気が付いた。


「え……?? こ、これは……?」


 恐る恐る封を開けると、そこには三枚にわたり、サオへと綴る言葉の書かれた手紙が入っていた。


 サオはその手紙を震えながら読んだ。


「そ、そんな……ティ、ティグ」



 ドオオオーーーンンン!!!!



「きゃあああ!!」


 また大きな音がすると、サオは驚き、その場に倒れた。


「う、ううぅ……ティグ……ティグ!!」


 サオは身体を起こすと立ち上がり、裸足のままで家を飛び出した。


「ティグ!! ティグーー!!」


 サオは大声でティグの名を叫びながら王国内を駆け巡った。


「ティグーー!! ティグーー!!」


 その時、何者かがサオの身体を捕まえた。


「!!??」


 国衛軍の兵士であった、兵士はサオを捕まえると口を塞いだ。


「なにをしているんだ!? こんなところで大声を出して!! 兇獣きょうじゅうに見つかりたいのか!? 早く連絡通路から城へ避難するんだ!!」


 サオは兵士の手を掴み、自分の口から放した。


「ティグが!! 息子が!! 息子が王国を出るって!! 早く止めないと!!」


「な、なにい……? ? それは一体どういう……?」


「説明してる時間はないんです!! まだそんなに遠くへは行ってないはず!!  早く!! 早く止めないと!!」


 サオは兵士の腕を掴み、振り払おうとしたその時。


「危ない!!」


 その時、二人に向かい一筋の閃光が走り、兵士は咄嗟にサオを突き放し、サオは地面に倒れた。


「あああっ!」


「くっ!!」


 兵士が振り向くと、そこにはバルニルドの姿があった。


「その女……サオか……?」


「え?」


 サオは兇獣きょじゅうから自分の名が出てきたことに驚いた。


(な、なんで私の名前を……?)


 同時に兵士にも緊張が走った。


(言語を話す兇獣きょじゅう……)


「くっ!!」


 兵士は剣を構えた。


「もう一度聞く……その女はサオか?」


 バルニルドはゆっくりと近づいてきた、しかしサオは隙を見てその場から走り出した。


「待て!!」


 バルニルドは走り出したサオを追ったが、兵士が入り込み、バルニルドへ剣を振り落とした、 バルニルドはその剣を受け、鍔迫り合いの形となった。


「貴様、邪魔をするな! どけ!」


「悪いが、国民を護るのが俺の仕事なもんでな……そして」


 兵士はバルニルドを強く押し返した。


「お前ら兇獣きょじゅうを倒すのも、俺の仕事だ!」


 兵士は再び剣を構えた。


「面白い……では貴様を殺してからゆっくり探すとしよう……」


 バルニルドも剣を構えた。


 一方サオはティグを探し、再び王国を掛けていた。


(ティグ! ティグどこなの!? もしかしたら、もうすでに門を抜けて外に……?)


 サオは王国の門の方へと走り出した。


 その時、突如サオの身体は液体に包まれた.


「えっ!?  ゴボゴボ……!?」


 ワラミルであった、サオはワラミルの体内に取り込まれたのであった。


(い、息が……)

「ゴボゴボゴボッ!!」


 その時、もう一体の兇獣きょじゅうが現れた。


「おお、ワラミル、よくやった、 捕らえたのは女か? こいつがサオだったら大手柄だぞ」


【クラーケル】

人に近い形をしているが耳が尖るように長く、牙も生えている。知能が高くずる賢い、ほかの兇獣きょじゅうを手下のように扱い行動することが多い、背中には皮の羽が生えている。


「ゴボゴッ! ボゴボッ!!」

(こ、この兇獣きょじゅうも私を……? 駄目! も、もう息が……!」


「うおおおおおおお!!」


「!?」


 その時、コイルがもの凄い勢いでワラミルに突撃してきた。


「な!? なんだあいつは!?」


 クラーケルは一瞬驚いたが、すぐに右手を構えた。


「ハイウィンド!!」


 だがその瞬間、近くで風が渦を巻き、瓦礫やら砂を上空に巻き上げた。


「ああ??」


 クラーケルとワラミルがそっちに気を取られた隙に、コイルはワラミルへと体当たりをした。


「ぶはぁ!!」


 するとワラミルの体内からサオが飛び出し、今度は逆にコイルがワラミルの体内へと取り込まれた。


「ごほっ!!  がはっ! けほっ! けほっ!  ……コ、コイルくん?!」


「ゴボゴボゴボッ!! ゴボゴボゴボッ!!」


  コイルはワラミルの体内で暴れまわるが、その動きに合わせてワラミルが形を変えるので、 コイルは抜け出せないでいる。


「ああん……? なんだこいつは? おいワラミル、その女を逃がすなよ」


 するとワラミルから液体が伸び、サオへと迫った。


「はあああああ!!」


 その時、風で巻き上げられた瓦礫や砂がさらに渦を巻き、クラーケルに襲い掛かってきた。


「あん?」


 クラーケルは高く舞い上がり、それを避けた。


 するとそこにハナが走り込み、ワラミルに向かい手を構えた。


「フリーズン!!」


 ワラミルはたちまち凍りだした。しかし凍っているのは表面のみで、中にいるコイルは凍っていない。


 コイルは凍ったワラミルを中から蹴り、穴を空けると、そこから脱出した。


「ぶわっはあ!! がはっ! ごほっ! ふふうぅぅ……」


「コイル! よくやったわ!」


「お、おうよ……」


 サオは突如現れた二人に驚いていた。


「ハ、ハナちゃん……? はっ!! ハナちゃん!! コイルくん!! ティグが!! ティグを知らない!?」


「……」


「……」


 ハナとコイルは黙り、俯いた。

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