第9話【強さ】

 ―― 一方フィルとカルゴ二体


「貴様……よくもオデの片目を……」


「ふんっ、どうせもうすぐ死ぬんだ、片目を失おうが両目を失おうが関係ないだろう」


「うるさい!! お前絶対に食ってやる!!」


 二体のカルゴは超低空飛行で、螺旋状に交差しながらフィルへ襲いかかってきた。


 するとフィルは横に高くジャンプし避けた。


「むっ!?」


 すると二匹のカルゴは、ほぼ直角に進行方向を曲げ、フィルへまた襲いかかってきた。


 フィルはカルゴの突進を剣でガードするも、空中な為、押されるがままに押されていった。


「ちっ、どこまでいくつもりだ!」


 フィルが剣を押し返し、思いっきり弾くと、フィルと二体のカルゴはお互いに弾かれ、地面へと着地した。


「ちっ、ずいぶんと離されちまった、おい! 残り一匹の兇獣きょじゅうも倒さなければならないんだ、さっさと終わらせるぞ!」


「グヌヌ……よくもオデの片目を……よくもオデ片目をオォォオオ!!」


 二体のカルゴはまた物凄い勢いでフィルへと突っ込んできた。


「ふんっ、芸の無い」


 フィルは構えた。


「?!」


 するとカルゴはフィルの目の前で急上昇した、そして頭上で二手に分かれ、左右からフィルへと急降下してきた。


「クエエェェエ!!」


 二体のカルゴは左右から鋭い爪を剥き出しにし襲いかかったが、フィルはカルゴの攻撃を見事に裁き切っている。


「!!」


 フィルの剣がカルゴの頬をかすった。


「グヌヌ……」


 カルゴはまたも口から突風を吐き出すと、フィルはまた上へと高くジャンプした。


「馬鹿め! 空中ではオデ達には勝てんと言ったど!!」


 二体のカルゴはフィルへと突っ込んだ。


「……」


 ピカッ!


「なっ!? グヲオ!?」


 フィルは太陽の光を剣に反射させ、片目を失ったカルゴの残った片目に光を浴びせた。


「グァァァァア!! 目がぁ!! 目がぁ!!」


「はああああ!!」


 フィルは片目のカルゴを一刀両断した。


「グァァァァア!!」


 片目のカルゴは地に落ち、フィルも着地した。


「どうする? あとはお前だけだ」


 フィルはカルゴに剣を突き付け言い放った。


「グヌヌゥゥ……」


 フィルはゆっくりとカルゴへ歩を進めた。


「グヌヌゥゥ……オデが! オデがこんな人間にやられるわけなんてないどー!!」


 カルゴはその場で高速回転し始めた。


「むう……?」


 そして高速回転したカルゴから無数の羽が飛んできた、だがフィルは羽を弾き落とした。


「今更そんな攻撃か……そんなもの効かんこともわからんほどの低脳か……ん?」


 すると、カルゴは高速回転しながら浮かび上がり、フィルへ向け突進してきた。


「ちっ!」


 カルゴは周りの建物などを破壊しながらフィルへ迫ってきた。


 フィルは突進を交わしながら、飛んでくる無数の羽も切り落とした。


「調子に乗りやがって、はあっ!」


 フィルは高速回転するカルゴに剣を振り落とした。


「!?」


 しかし、剣は高速回転するカルゴに弾き返されてしまった、そして行き着く間も無く無数の羽が飛んで来た。


「くっ!」


 フィルは羽を切り落とすも、カルゴの突進は止まらない、その後、フィルはなんとかカルゴの突進と羽をかわし続けるも、遂に壁を背に追い込まれてしまった。


「……」


 カルゴは勢いを止めることなくフィルに突っ込んでくる、そしてついにはフィルへと衝突し、フィルは回転に飲み込まれてしまった。


 フィルごと壁に激突したカルゴは大量の土誇りを上げると、その後、回転が緩やかになり、ついには回転が止まった。


「グッグヘェ……」


 なんとフィルはカルゴの上に乗り、頭を剣で突き刺していた。


「ふんっ」


 フィルは剣を抜くと、カルゴから飛び降り着地した。


 するとカルゴは大きな音を立て倒れた。


「……」


 フィルは剣に付いた血を振り落とし、鞘に収めた。


「さて……」


 フィルはティグやハナのいる場所へと駆けて行った。



 ―― 一方ティグとカルゴ


(くそ……まさかこんなガキにここまで手こずるなんて、計算外だったど……しかしさっきのあの男の強さは本物だ……さっさとこのガキを殺して、あの娘をさらってとんずらするど……)


「バハァァァアー!!」


「!!」


 カルゴはティグに向かい突風を吐いた。


 ティグは突風を横に走り回避した。


(突風といい羽といい、とことん距離を取って来るな……なんとかして近づかないと、勝機はないぞ……)


(不用意に上に飛んで、空中でオデにやられるのを避けたか……少しは考えてるだど……グフ……しかし……)


「バハァァァアー!! バハァァァアー!!」


 カルゴは立て続けにティグに向かい突風を吐いた、するとティグはあっという間に壁際まで追い込まれた。


「グフッ! グフフ! もう逃げ場はないど……」


「……」


「くたばるだどー!!」


 ティグは剣を構えた。


「バハァァァアー!!」


 カルゴがティグへ再び突風を吐くと、上空へと飛ぶティグの影が見えた。


「グフフッ!! 上に逃げるしか無いのはわかってるんだど!!」


 カルゴが無数の羽を飛ばすと、羽は全て命中した。


「グフハハァ!! 呆気なかったどー!! ざまあないどー!! ……ん? ……!?」


 空中で見えた影は岩のカケラであった。


「な!?」


 なんとティグは剣を構え、カルゴのすぐそこまで距離を詰めていた。


「な!? なんで!? そこに?!」


 カルゴは羽を飛ばした体勢のままであった。


「壁に囲まれてるって事は! それ以上どこへも吹き飛ばされようがないだろう!!」


「ま! まさか! 壁際でオデの突風に耐えていたのか!?」


「うをををぉぉおお!!」


「ヌア、アアァァアア!!」


 ティグはカルゴに剣を突き刺し、カルゴごと倒れた。


「ギャアアア〜!! ガアァァア!!」


 カルゴは悶え苦しんでいる。


「はあはあ!! や、やった!!」


 それを見ていたハナは安堵の表情を浮かべた。


「ティ、ティグ……ほっ……」


「やい! 鳥野郎!! どうだ参ったか!?」


「うぐぐぅ……」


「!?」


 カルゴはティグに背を向け、身体を引きずるようにしてティグから離れてゆく。


「あ、あいつ、退散するのか……?」


 ティグは剣を握り締めた。


「逃すか! トドメをさしてやる!!」


 ティグはカルゴへと向かい、剣を振り上げた。


「ティグ!!」


「!?」


 ハナがティグを呼び止めると、ティグは動きを止めた。


「ハナ?」


「ティグ……もういいよ……早くお城に行こう」


「な! 何言ってんだよハナ! あいつ弱ってんだよ! トドメをささないと!」


「ティグ……あんたが強いのはもう分かったよ……でもこれ以上やったらティグが兇獣きょじゅうから狙われちゃうよ……まだまだ、どんだけ強い兇獣きょじゅうがいるか、わからないんだよ?」


「そんなの俺が全部倒してやる!!」


「無茶言わないで!! あの最強と言われたメダイ隊長を倒すような兇獣きょじゅうだっているのよ!? いくらあんたが強くなったからって、そんな兇獣きょじゅうが現れたら、勝てるわけないじゃない!!」


「うぐぅ……そ、そんな事……」


「ティグ……死に急がないで……最近のあんたは変だよ……」


「へ、変て……俺は別に……強くなりたいだけだ!」


「あたしだって強くなりたいよ……だから学校でティグやコイルと三人で頑張って来たんだよ……」


「そ、そうだよ! だから!」


「わたしは!! 兇獣きょじゅうと殺し合いをしたいから強くなりたいんじゃない!!」


「ハナ……」


「守りたい人を守れればいい……あんただって、お母さんや、この王国の人達を守りたいって言ってたじゃない」


「……」


「その為に、見境なく兇獣きょじゅうと戦う事は必要? 弱っている兇獣きょじゅうにトドメを刺す事は必要? 考えも無しにそんな事を繰り返していたら、すぐにもっともっと強い兇獣きょじゅうにやられちゃうよ!」


「……」


「死んだらもう守れないんだよ……強くなるのに必死なのは分かるけど……今のあんたが守れる人達の数と、五年後、十年後、あんたが今よりもっと強くなった時に守れる人達の数を考えてみて……ティグ……死に急がないで……焦らなくたっていいじゃない……少しずつだっていいじゃない……一緒に、強くなっていこう……」


「…………」


 ティグは剣を強く握った。


「コイル!!」


 ティグはコイルへ呼びかけた。


「…………」


「城へ向かうぞ! 動けるか!?」


 コイルは寝たまま手を上げ振った。


「よしっ」


 ティグは剣を鞘に収めコイルの元へ走った。


「ハナー! コイルが動けなそうだ! 城へ運ぶのに力をかしてくれー!!」


「ティグ……」


 ハナは安堵の笑みを浮かべた。


「うんっ!」


 ハナもまたコイルの元へと駆け寄り、三人は城へと向かった。


 一方カルゴは傷ついた身体を引きずり、退却しようとしていた。


「うぐぐうう……あ、あの小僧め……絶対に許さん……絶対に、次はもっと仲間を連れて、絶対に八つ裂きにして食ってやる!!」


 するとその時、カルゴの後方から、戦いを終えたフィルが駆けてきた。


「あれは……?」


 フィルは足を止めると辺りを見回した。


(あのやろう……)


 するとフィルは剣を抜き、 カルゴの元へと歩を進めると、身体を引きするカルゴの後頭部へと剣を突きさした。


「ゲガッ!!!」

 

 カルゴは息絶えた。


「ちっ、止めも刺せんのか、あの小僧!」


 フィルは再び駆けて行った。


 その後、国衛軍の活躍により兇獣きょじゅうは全て倒され、ガルイード王国には再び平和が戻った。

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