第8話【タッグ】

 ハナはカルゴの攻撃を止めた男を見て驚いた。


「あ! あんたは!?」


 そしてティグはもっと驚いていた。


「あ! あいつ!!」


 カルゴは剣から口を放し距離を取った。


「なんだおめぇー?」


「ふんっ、貴様ら兇獣きょじゅうなんぞに名乗る名などない……」


 ティグが叫んだ。


「フィル!!」


 なんとハナの窮地を救ったその男はフィルであった。


「グフッ! グフッ! また命知らずなヤツがあらわれただなぁー、こんなにいっぱい、オデ食い切れねえどー、グフッ! グフッ!」


「ふんっ、知性の欠片も無い下等な兇獣きょじゅうが……おい……」


「え?」


「ハナ……とか言ったな、歩けるか? 歩けるなら、ここは俺に任せてあいつらを連れて城へ逃げるんだ」


「あ……はっ! ティ! ティグ!!」


 ハナはティグの方へと駆けて行った。


「ちっ……」


「ティグ! 大丈夫!?」


「あ、ああ……平気だ……コ、コイルは?」


「コイルー!! 大丈夫!?」


  コイルは倒れながらも手を振った。


「歩ける? 捕まって!」


 ハナはティグの腕を自分の肩に回した。


「グフフッ! にがさないんだどー!」


 カルゴは翼を振り、ティグとハナに羽を飛ばした。


「!!」


「なにい!?」


 ティグとハナに向け飛ばされた羽をフィルが全て切り落とし、ハナへと叫んだ。


「早く行け!」


「う、うん……」


「グヌヌ……これならどうだどー!!」


 カルゴは両翼を数回振り、大量の羽をフィルに飛ばした。


「ふん……」


「なっ!?」


 しかし、フィルは大量に飛ばされた全ての羽を切り落とした。


「どうした? 全ての羽が無くなるまで飛ばしてみるか?」


「グヌヌ……こんの……怒ったどー!! スゥゥウウ……」


 カルゴは思い切り息を吸い込むと、お腹をパンパンに張らせた。


「バハァァァアー!!」


 そしてフィルに向け突風を吐きつけた。


「!!」


 そして大量の土埃が晴れると、そこにフィルの姿はなかった。


「グハッグフフ!! 吹き飛ばされただかー!! さあ邪魔ものはいなくなっただ、食事の時間だべー! ……ん?」


 カルゴがティグとハナの方を見ると、二人は上を見ていた。


「ん?!!?」


 カルゴが二人につられて上を見ると、フィルが剣を構え飛び込んで来ていた。


「ヌオオア!!?」


「はああぁぁあ!」


 フィルはあの硬い羽に覆われたカルゴの身体をいとも簡単に斬りつけた。


「グウオアアア!!」


 それを見たティグは、小さくつぶやいた。


「あ、あいつやっぱ強え……」


 ハナはそんなティグを不安げな顔で見た。


「ティグ……」


 そしてフィルは剣に突いた血を振り払った。


「他にも助けを待っている者がいるかもしれんのでな、悪いがさっさと終いにさせてもらうぞ」


 フィルは再び構えた。


「グヌヌゥ……よ、よくも……グッグフッ! グフフッ!」


「?? ……なにが可笑しい?」


「グフィ!」


「!!??」


 するとその時、なんともう一体カルゴが現れ、フィルに突撃してきた。


 フィルは既での所で避けると距離を取った。


「ちっ……同種の兇獣きょじゅう……仲間を呼んだか」


「グフッ! グフフッ! さすがの反応だでー! でもこれならどうだどー!」


「!?」


 なんと更にもう一体カルゴが現れた。


「グフッ! グフフッ! 三対一だぁ……さすがのお前も絶体絶命ってやつだどぉ」


「ふんっ、雑魚が何匹になったとこでなにも変わらん」


「ほざけー!!」


 三匹のカルゴはフィルを囲むように陣を取った。


「スゥゥウウ……バハハアアアア!!」


 そして三体のカルゴは一斉にフィルに向け突風を吐いた。


「はあっ!」


 フィルは瞬時に高く飛び上がり、突風を避けた。


「グフッ! グフフッ! 上に逃げるしかないよなぁ!!」


 上空へとジャンプしたフィルに向け、三体のカルゴは一斉に羽を飛ばした。


「ふんっ、ハイウィンド!!」


「な!?」


 フィルは風の魔法で突風を起こし、さらに上空へと上がり羽を避けた。


「ただでさえ貴様らの吐いた臭い息が上昇気流を生んでいるんだ、驚く程の事ではなかろう」


「グウウ……なるほど……だがなぁ……グフフゥ……」


 カルゴ達は一斉に翼を広げた。


「オデ達に空中で勝てるかー!?」


 三体のカルゴは物凄い勢いでフィルに向かい飛び立った。


「グウハアアー!!」


 まず一体目のカルゴが爪を剥き出し、フィルに迫った。


「……むんっ!」


 爪と剣が交わり、フィルは後ろへ弾かれた、そしてそのまま後ろからも、もう一体のカルゴが襲いかかってきた。


 爪こそ防ぐが、またフィルは弾かれてしまう、カルゴは交互にフィルを責め続けた、フィルは攻撃こそ防いでいるが、空中では思うように動けず苦戦している。


 そしてカルゴが地面に向かいフィルを弾くと、残りの二体は地面に激突しそうなフィルに向け羽を飛ばした。


 フィルは回転しながら体制を立て直し地面に着地した、しかし直ぐさま無数の羽が襲いかかってくる。


 フィルは直ぐさま剣を構え羽を切り落とした。しかし頬をカスッており、フィルの頬からは血が垂れた。


「ちっ……」


 フィルは頬を拭った。


「グフッ! グフフッ! さっきまでの勢いはどうしただー? グフフッ!!」


「ふんっ、こんなかすり傷一つ付けたくらいでなにを浮かれている?」


 それを見ていたティグは拳を握った。


「まずい……流石にあの兇獣きょじゅうと三対一じゃ、いくらあいつでも……」


「ティグ……?」


「ハナ! 頼む! 俺の傷を治してくれ!! 俺も加勢する!!」


「駄目よ!! さっきコテンパンにされたじゃない!! あんたが行ったって足手まといになるだけよ!!」


「頼む!! このままあいつがやられるのを、指を咥えて見てるなんて出来ないんだ!! 頼む!!」


「でも……」


「俺が援護に着けば局面も変わるはずだ! このまま黙って見ていたって、なにもしなきゃ、いずれあいつらに皆んな食われるだけだ!! 頼むよハナ!! 俺はどうせ死ぬなら戦って死にたい!!」


「ティグ……」


 ティグは真剣な目でハナを見つめている。


「……わかったわ……でも……死んだら承知しないわよ!」


「ああ! ありがとうハナ!!」


 ハナはティグの傷に手を当て目を閉じた。


「リスナ……」


 たちまちティグの傷は癒えた。


「よし!!」


 ティグはフィルとカルゴの方へと駆けて行った。


「…………」


 ハナは心配そうな表情を浮かべていた。



 ―― フィルとカルゴ


「さて、あまりお前らに……ん?」


「でやぁぁぁぁああああ!!」


「な?!」


 その時、ティグが物凄い勢いで突進してきた。


 そしてカルゴに向かい剣を振り落とした。


「ヌオア!?」


 カルゴは硬い翼でティグの攻撃をガードした。


「くそっ!」


 カルゴはそんなティグを見て驚いた。


「な! なんだお前!? さっきあんな痛めつけたのに、なんでそんな元気なんだ!?」


「うるさい! はあっ!!」


「ぬお!」


 ティグは立て続けに攻撃するも、硬い翼に刃が立たない。


「ぐああ!!」


 そしてティグはもう一匹のカルゴに吹き飛ばされた。


「ぐっう……!」


 ティグは直ぐさま立ち上がった。


「くそっ!」


 ゴンッ!!


「いってー!!」


 その時、フィルがティグの頭をゲンコツで殴った。


「お前はなにをしている?」


「なにをって、お前が苦戦してるから、助太刀しに来たんだろー!」


 ゴンッ!!


「いってー!!」


 フィルは再びティグの頭をゲンコツで殴った。


「お前じゃなくてフィルさんだ、それに誰も苦戦などしていない、貴様はさっさとハナを連れて城へ行け」


「いちち……嫌だ!! 俺も戦う!!」


「駄目だ、足手まといになるだけだ、早く行け!」


「いーやーだー!!」


「こんのガキ……」


「俺だって兵士になるんだ!! こんな奴相手に逃げてられるか!! 戦って王国のみんなを守るんだ!!」


「…………」


「…………」


 フィルとティグは睨み合った。


「ふんっ、貴様、まだ兵士になれる気でいたのか、なら勝手にしろ、ただし、やられて食われそうになっても俺は助けんぞ、せいぜい食われて自分の馬鹿さ加減を悔やむんだな」


「へーん! 誰が喰われるか! 逆に焼き鳥にして食ってやる!!」


「ふんっ、口の減らん」


 ティグとフィルはカルゴへ向け、戦闘態勢を取った。


「グフッグフフ……逃げればいいものを、まあ、食事の量は多い方がありがたいど、グフフ……」


「へん! お前なんか甘辛のタレに漬けて食ってやる! ぎゃふんと言わせてやるから覚悟しろ!! だああぁぁぁぁああ!!」


 ティグはカルゴ達へ猛突進して行った 。


 ボコッ!! ドカッ!! バキッ!!


「ぎゃふん!!」


 ティグはカルゴ達にボコボコにされ、フィルの元へ吹き飛ばされ帰ってきた。


「くそっ!」


 ティグは直ぐさま立ち上がった。


 ゴンッ!

 

 そしてまたフィルに殴られた。


「いってー!! なにすんだい!!」


「いくらなんでも、もう少しまともな戦闘は出来んのか?」


「うるさい! 俺はお前とはタイプが違うんだ!」


「もっと集中しろ、自分の攻撃の事ばかり考えず相手をよく見ろ、ただ闇雲に突っ込むだけでは活路は見出だせんぞ」


「へん……偉そうに……」

(集中か……相手をよく見る……)


 ティグは戦闘態勢を取った。


「よし……はああぁぁあ!!」


 ティグは再びカルゴ達へ猛突進して行った。


「グフフ! 何度来ようが一緒だべぇ……」


 カルゴは翼を振り、羽をティグへ飛ばした。


(集中……よく見る……)


 ティグは飛んできた羽を最小限の動きで避け、残りの羽も剣を振るではなく、添えることで弾いた。


「なっ!?」


 そしてティグは勢いよく飛び上がった。


「だああぁぁぁぁああ!!」


「グフフ、お前の剣じゃオデの翼は切れんべぇ!」


 カルゴは硬い翼で体をカバーした。


「!?」


 その時、もう一匹のカルゴが、ティグの横から攻撃を仕掛けて来ているのが、ティグの目に写った。


「まずい!!」


「!? ギャアァァァアアア!!」


 すると、ティグを横から攻撃しようとしていたカルゴの目に、羽が飛んできて刺さった。


「グァァァァア……だ、誰だ!?」


 羽を投げたのはフィルであった。


「この羽は貴様のものだろう? 貴様の小汚い羽で王国を汚されては困るんだよ」


「グヌヌゥゥウウ……」


 そしてティグは今にもカルゴに斬りかかろうとするその瞬間。


「だああぁぁぁぁああ!!」


「!?」


 剣を逆手に持ち替え翼に突き刺した。


「グワアァアア!!」


「どうだ!?」


「ガアァァア!! きっ! 貴様! 俺の大事な羽をー!!」


「焼き鳥にしてやるって言ったろ! まずは串刺しだい!!」


「グヌヌゥゥウウ!!」

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