第7話【高ぶり】

 コイルの背後からモルザが襲いかかってきた。


「うわあ!!」


 コイルは即座に身をかがめた。


「うをおおおおおー!!」


「ギギャアオアア!!」


 ティグは剣を横薙ぎに振りモルザを一刀両断した、そしてモルザは真っ二つになり息絶えた。


「はあはあ……」


「う、おお……す、すげえ!! ティグすげえよ!!」


「あ、ああ……」


 ティグは持っていた剣を強く握り、感触を確認した。


(イケる! 俺は兇獣きょじゅうと戦える!!)


 ハナは少し不安げにティグを見ていた。


「よし! とにかくここを出よう!! 俺がお前らを城へ送るから、お前らは城へ避難するんだ!!」


「お前らはって……お前はどうするんだよ?!」


「俺は街へ出て兇獣きょじゅうと戦う!! まだ取り残されて、城へ避難出来ていない人達もいるだろうし!!」


「お前まだそんな……」


「いいわ!! とにかく一度、城へ行きましょう!!」


「ハナ!?」


 ティグは頷いた、するとコイルはハナへ小さな声で話しかけた。


「ハ、ハナ……なんだってそんな……ティグ一人で街に行かせるなんて危険だ……せめて俺たちも一緒に……」


「城まで行けば兵士達がいるわ、兵士に頼んでティグを行かせないようにしてもらう」


「なるほど……よし! じゃあ城へ行こう!!」


 すると、こそこそと話すハナとコイルにティグが叫んだ。


「なにしてんだ!? 早く行くぞ!!」


「お! おう!!」


 ティグ達は城へ向けて走り出した。




 ――――


「なんてこったい……街がグチャグチャだ……」


 街は兇獣きょじゅう達によって、木はなぎ倒され、建物は壊され、凄惨な状態になっていた。


「!!」


 するとその時、数十メートル先に一体の兇獣きょじゅうを発見した。


 ティグは兇獣きょじゅうの方へ駆けて行った。


「お! おい!! 向こうは気付いていないんだ!! 放っておけよ!!」


 コイルの声も聞かず、ティグは猛然と兇獣きょじゅうへ向かって行った。


「うをおおおおおー!!」


 ティグは兇獣きょじゅうの目前で高くジャンプし、剣を振り落とした。


「ギギャアオアア!!」


 兇獣きょじゅうを真っ二つに切った。


「ギャギャ!!」


 するともう一体の兇獣きょじゅうが襲いかかってきた。


「はあ!!」


 ティグは兇獣きょじゅうの攻撃を横に避けると、兇獣きょじゅうの背中を切りつけた。


「ギギイイッ!!」


 さらにもう一体の兇獣きょじゅうがティグに向かい、高くジャンプし、襲いかかってきた。


 ティグは腰を落とし、剣を構えた。


「うをおおおおおー!!」


 ティグは兇獣きょじゅうに向かい飛び、剣を横薙ぎに切りつけ、またも真っ二つに切り落とした。


「グギャアー!!」


「はあはあ……よし!! 先を急ごう!!」


「お、おう……」


「…………」


 ハナはまだ、不安げな表情を浮かべていた。




 ――――


「もう少しだ!! 急げ!!」


「!!」


「ぎゃあっ!! た! 助けてくれえ!!」


 叫び声のする方を見ると、そこには先程の兇獣きょじゅうより、ひと回りもふた回りも大きな兇獣きょじゅうが後ろを向いていた。


「な、で、でけえ……」


「…………」


「グルルル……」


 兇獣きょじゅうはゆっくりとティグ達の方へ身体を向けた。


「ああああー!! 助けてくれー!!」


「な、なんだこいつは……」


 そこには鳥のようなクチバシや、翼や羽を持ち、大きく肥大した爪を生やした兇獣きょじゅうが、片手で男を鷲掴みにしていた。


【カルゴ】

丸々太り、大きさは二~三メートルにもなる鳥型の兇獣きょじゅう


「グルルル……」


「お、おい、あの男……鎧を着てる!! 兵士だ!!」


「グルルル……」


「た! 助けてくれえー!!」


「グルルアアアー!!」


「ぎゃああぁぁぁあああああ!!!!」


 カルゴは持っていた男の上半身にかぶりついた。


「な!?」


「グチャグチャグチャ……ゴクン……」


 カルゴは男の上半身を飲み込むと咆哮した。


「キュアアアァァァアアア!!」


「う……わぁ、ぁ……」


 コールは震えていた。


「くっ!」


 ティグは構えをとった。


「グフッ! グフフッ!」


「!!??」


「オメェらまだ子供だなぁ……こんな奴よりもウマそうダァ……」


「しゃ?! しゃべった!?」


「に! 人間の言葉を話せるの?!」


「グフッ! グフッ! 特にそっちのムスメなんてウマそうだぁ……連れて帰ってスカール様に召し上がっていただくだかあ……」


 カルゴは持っていた男を放り投げた。


「グフフッ! 残りの二人はオラがいただくどお……」


 そういうとカルゴはティグ達に近づいてきた、ティグはカルゴへと叫んだ。


「おいお前!! なぜ人間を襲うんだ!? なにが目的なんだ!?」


「んー?? なぜって?? オラはただ、スカール様がここに人間を食べにきていいっていったから、食べにきただけだー」


「スカール? スカールって誰だ?!」


「スカール様はスカール様だべー、いいから早く食わせろー!!」


 カルゴは翼を広げ、空高く飛んだ。


「クアアァァァア!!」


 そしてティグ達に向かい急降下してきた。


「くそ!」


 ティグは再び構えをとった。


「ティグやめろ!! 兵士がやられてるんだぞ!! 俺たちじゃ勝てねーよ!!」


「はああぁぁあ!!」


  コイルの声には耳を貸さず、カルゴに向かい、高くジャンプした。


「うをおおおおおー!!」


 ティグは剣を突き立て、カルゴに突っ込んだ。


「ニヤリ……」


 するとカルゴは向かってくるティグに向け、翼を交互に振った。


「な!?」


 するとティグに無数の羽が飛んできた。


「くっ!!」


 ティグは幾つかは剣で弾くも、数発羽が突き刺さった。


「ぐわあ!!」


 ティグは地面に落ちた。


「ティグー!!」


「ティグ!!」


 コイルとハナがティグに駆け寄った。


「大丈夫かティグ!? やっぱ勝てねーよ!! 逃げよう!!」


「大丈夫……大した攻撃力じゃない……」


 ティグは数本刺さった羽を抜いた。


「それに奴は空を飛べるんだ、三人全員助かるのは無理だ」


「で、でも……」


「だから俺が囮になる!」


「な! なんだって!?」


「俺が奴の相手をしている間に、コイルとハナは逃げるんだ!!」


「な! なにを馬鹿な!?」


「そうよ! ティグ!! もうこれ以上無茶しちゃ駄目よ!!」


「いいから!! 俺が戦っている間に逃げるんだ!!」


 ティグはまたもカルゴへ向かって行った。


「お! おい!! ティグ!! ハナー……どうしよう!?」


「どうもこうもないわ!! ティグ一人で死なせるわけにいかないじゃない!! 援護するのよ!!」


「でもどうやって!? 武器だってないんだぞ!? 俺なんて魔法だって使えないし!!」


「そんなの自分で考えなさいよ!! 嫌ならあんた一人で逃げなさい!!」


「そんなー!! ハナー!!」


 ハナもカルゴとティグの方へと駆けて行った。


(ティグは武器を手にした事で気が大きくなってる……兇獣きょじゅうと対等に戦えるって事が、本当の強さって事じゃないのに!)


 ティグはカルゴを追って建物の上に登っていた。


「やい!! 降りて来い!! 卑怯だぞ!! 俺と戦え!!」


「グフフッ! 命知らずなガキだあー!」


 カルゴはティグの目の前に降り立った。


「だああああー!!」


 ティグは剣を振り上げカルゴへ突進した。


「グフフッ! スゥゥウウ……バアアア!!!!」


「!?」


 カルゴは口から突風を吐き出した。


「うわっ!!」


 ティグは突風により吹き飛ばされ、壁に激突した。


「ぐはっ!! うぐぐぅ……」


「グフッ! グフッ!」


 カルゴはまたもティグの目の前に降り立った。


「グフッ! そろそろ食わせろー!!」


「!!」


 カルゴは口を大きく開けてティグへと迫って来た。


「くそ! だあああ!!」


 ティグは大きくジャンプしてカルゴのクチバシを避けると、もっと高い建物の壁を利用してさらに高くジャンプした。


「グフッ! バカめ!」


 カルゴはまたも翼を降り、羽をティグに向け飛ばした。


「うをおおおおおー!!」


 ティグは羽を全て弾いた 。


「!?」


 と思ったが、あと一つ羽が残っていた、ティグの顔面めがけて羽が迫るも、ティグに剣を振り戻す暇はない。


「くそおっ!!」


「フリーズン!!」


 その時、ハナが飛び出し、残り一つの羽を魔法で凍らせた。


「!? ハナ!?」


「なにい? グフッ……スゥゥウウ!!」


 カルゴはまた、突風を吐き出すため大きく息を吸った。


「うわぁぁああ!! りゃああああ!!」


 カルゴが大きく口を開けた瞬間、コイルが口に向け石を投げつけた。


「!!」


 投げた石は見事にカルゴの口内にぶち当たった。


「ゴハッ! ゴフッ! ゲホッ! こ! こんの〜!! はっ!?」


 カルゴは咳き込んだ後、上を見上げると、ティグが目前まで剣を振り上げ突っ込んで来ていた。


「だああぁぁぁぁああ!!」


 ティグの剣がカルゴに振り下ろされた。


「グアアァ!!」


「よっしゃああ!!」


「やった!!」


 ハナとコイルは喜びの声を上げた。


「!!??」


「グフッ!」


「え?」


「へ?」


 なんと、カルゴの身体は硬い羽で覆われている為、剣は羽で止まり、切ることが出来なかった。


「グフフ……」


 カルゴはティグを爪で吹き飛ばした。


「があっ!!」


「ティグ!!」


「ティグ!!」


 ギロリ……。


「ビクッ!!」


 カルゴは近くにいたハナを見ると、ハナの目の前に降り立った。


「悪い子はおしおきだべぇ……」


「くう!!」


 ハナは後退った。


「ハ! ハナ……!!」


 ティグはダメージでその場を動けないでいた。


「うおおー!! やめろー!!」


 コイルがハナを助けようと、また石を投げようとした。


「グフッ!」


 カルゴは翼を振り、羽をコイルに飛ばした。


「うわぁぁああ!!」


 コイルは羽を受け倒れた。


「コ! コイル!!」


「グフフッ! さあ邪魔モノはもういない、おしおきだべぇ……お前はスカール様への貢ぎモンだぁ……やさしくおしおきだべぇ」


 カルゴはゆっくりと翼をハナに伸ばしハナの腕を掴んだ。


「くっ! はあっ!!」


 ハナは掴まれた逆の手をカルゴの翼に当てた。


「バニング!!」


「!?」


 するとハナの手から炎が発生し、カルゴの翼を燃やした。


「ウギャ!!」


 カルゴは燃えた翼を上げ下ろし、さらには口から突風を出し炎を消した。


「はあっ!!」


 その隙にハナはカルゴの頭上に飛び上がり両手を掲げた。


「もい一発くらいなさい!! 焼き鳥になっちゃえ!! バニング!!」


「グッ! こ! こんのガキー!!」


 カルゴはハナが炎を出すより先に、翼でハナを殴りつけた。


「きゃあああ!!」


 ハナは吹き飛ばされ、壁に激突し倒れた。


「うぐっ!! ぅぅ……」


「ハ! ハナー!! ううう!! おおおお!!」


 ティグはなんとか立ち上がった。


 そしてカルゴはまた、ハナの目の前に降り立った。


「グルルル……このガキ……俺の大事な翼を焦がしやがって……怒ったどー!! もうおでが食ってやるー!!」


「うぐぐぅ……」


 ハナはダメージで動けないでいた。


「クアアァァァア!!」


 カルゴは口を大きく開け、ハナに迫った。


「うをおおおおおー!! ハナー!!」


 ティグはハナを助けようと走り出すも、ダメージで足がもつれ倒れてしまった。


「クアアァァァア!!」


「きゃあぁぁああー!!」


「ハナァァァアアアー!!」




 ガギィィィイイイイーン!!




「!?」

「!?」

「!?」



 まさに今、カルゴがハナにかぶりつこうとしたその時、何者かがその口を剣でとめた。

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