第6話【剣】

 ――王国内


「はあっはあっ!! はあっはあっ!!」


 ハナは城へと向かい走っていた。


「なんなのよあいつら一体……今まで王国内に攻めて来るなんて事なかったのに……とにかく早く城へ避難しなくちゃ……ティグとコイルは大丈夫かしら……?」


 王国では、兇獣きょじゅうが攻め入って来た場合の緊急避難先を城としていた、城の周りには大きく強固な壁があり、兇獣きょじゅうを撃退するべく兵も武装している。


「はあはあはあ……?!」


 ハナはその時、何かに気付き足を止めた。


「うう……ぐぐぅ……」


 目線の先には瓦礫に足を挟まれ、動けなくなっている男がいた。


「大丈夫ですか!?」


「ゔぐぐぅ……あ、足が……」


「?!」


 ハナは男の足に乗っている大きな瓦礫に気付き、力を込めて瓦礫を退かそうとするが、一人ではピクリともしなかった。


「んんー!! ああ〜!! っはあ!! はあはあ!!」


「お、お嬢ちゃん……も、もういいから早く行くんだ……兇獣きょじゅうが来たら君まで襲われてしまう……私の事はいいから城へ行くんだ」


「んんー!! だっ! 大丈夫!! なんとかする!! 城までもう少しじゃない!! が! 頑張って!! んんー!! ああー!!」


 ハナはなんとか瓦礫を動かそうとするが、一向に動く気配がない。


「んんー!! はっ!?」


 その時、ハナは何かに気付き動きを止めた。


「お、お嬢ちゃん……いいから早く……」


「しっ!」


 ハナは咄嗟に男の口を手で塞いだ。


「…………」


 なんと兇獣きょじゅうがすぐ近くに近付いていた。


「グルルル……」


「…………」


 ハナと男は気配を消して兇獣きょじゅうが去るのを待った。


「…………」


「……ふう……」


 兇獣きょじゅうはハナと男に気付かず去って行った。


「お嬢ちゃん早く行くんだ、じゃないとこのままじゃ!」


「大丈夫! きっとなんとかする!」

(でもどうすれば……この重さじゃとても一人じゃ……助けを呼びに行く……? でも呼びに行っている間におじさんが兇獣きょじゅうに襲われてしまったら……でもこのままいても二人共……やはり一度助けを呼びに行くべきか……?)


 その時、ハナと男の背後から影が近寄っていた。


(一体どうすれば……)


 影はどんどん近付き、遂にはハナの真後ろまでたどり着いた。


 そしてハナの肩に何者かが手を置いた。


「はっ!!??」


 ハナは驚き振り向いた。


「ハナ!」


 影の正体はティグとコイルであった。


「ティグ?! コイル!?」


「しぃ! 声を落とすんだ!」


 ハナは小声で話し始めた。


「なんでここに?」


「お前がいつまでたっても来ないから! 一体なにしてんだ!?」


「このおじさんの足が瓦礫に挟まっちゃって、助けてあげなきゃ……」


 ティグはおじさんの方を見た。


「そうか、よし……」


 ティグは瓦礫に手を掛けた。


「三人で持ち上げよう!」


「あ、うん!」


 ハナとコイルも瓦礫に手を掛けた。


「せーの!」


「うりゃぁぁ……」


三人は一斉に力を込めた。


「ぐおおぉ……」


 瓦礫は持ち上がり、男の足は抜けた。


「よっしゃ!」


「おじさん大丈夫?」


 ハナはおじさんに駆け寄った。


「あ、ああ、ありがとう……うぐぐぅ……」


 しかし男の足は酷く傷み、まともに歩ける状態ではなかった。


「どうする……? これじゃあまともに歩けないよな? 担いで行くか?」


「いや、待って……」


 そういうとハナは、男の足に手を当て目を閉じた。


 するとハナの手から優しい光が放たれ、男の怪我がみるみるうちに治って行った。


「ふう……どう?」


「あ、ああ……ん? おお!」


 男の怪我は治り、立ち上がる事が出来た。


「凄い!! 痛くない!!」


「よかった! さあ行きましょう!!」


「ああ! ありがとう!!」


「すげえハナ!」


「??」


 三人が喜ぶ中、ティグは一人、遠くを見つめていた、ハナはティグに声を掛けた。


「ティグ? どうしたの? 早く城へ行くわよ」


「……先に行ってくれ」


「はあ?! なに言ってるの?!」


「俺……兇獣きょじゅうと戦ってくる!!」


 それを聞いたコイルは驚いた。


「はあ?! なに言ってんだよティグ!! そんなの危ねーよ!! 兇獣きょじゅうは兵士達に任せておけよ!!」


「俺だって兵士になるんだ!! こういう時の為に今まで特訓してきたんだ!!」


「そんな事言ったってまだ兵士じゃ……それに武器が無いよ! まさか素手で戦うなんて馬鹿な真似……」


「武器ならある……」


「あるって? どこに?」


「学校だ……学校の校長室に、兵士が実際に使っている剣が展示されているのを前に見た事がある……」


「学校!? 危ねえよ!!」


「そうよ!! 取りに行く間に襲われたらどうするのよ!!」


「そん時はそん時だ!! お前らは城へ行ってくれ!! 俺は行ってくる!!」


 ティグは学校へ向け走り出して行った。


「あ!! ちょっと!! ティグ!!」


「ああー!! ど!! どうする!?」


「どうするって!! 放っておけるわけ無いじゃ無い!! 行くわよ!!」


 ハナもティグを追い、駆け出した。


「ああー! もうー!! おじさん!! 足もう大丈夫だよな!? ごめん一人で先、城へ行っててくれ!!」


「あ! ちょっと君!!」


 コイルもティグとハナを追い、走り去って行った。


「あ、あの子達は一体……」




 ―― 学校


 ティグは校門までたどり着くと陰から中を覗いた。


「よし……兇獣きょじゅうはいなそうだ」


 ティグは体制を低くしながら、学校内へと入っていった。


「!!!!」


 その時、ティグの横から兇獣きょじゅうが現れ、爪で切りつけてきた。


 ティグは間一髪避けるも衣服の一部が裂かれた。


【モルザ】

全身毛むくじゃらで、二足歩行も行える、素早い動きが得意で、悪戯好き。


 ティグは直ぐさま後方へ飛び距離を取った。


(あ! 危なかった!! き、兇獣きょじゅうだ!! どうする!? 戦うにもまだ武器が!!)


「キッキキッギギ!!」


 モルザはティグの方へ、ゆっくりと振り向いた。


(一旦逃げるか!? でもどこへ?!)


「ギギッ!! ギギャアオアア!!」


 モルザは雄叫びを上げ、ティグへと猛突進してきた。


「くっ!!」


 ティグは構えを取った。


「ティグー!!」


 その時、後方からハナの声が聞こえた。


「飛んでー!!」


「!? ハナ!?」


 ティグは高くジャンプした、そしてハナは手を地面にかざした。


「フリーズン!!」


 すると、ハナが手をかざした地面は凍り始め、氷はモルザの足元へと伸びていった。


「ギギッ??!!」


 すると猛突進してきていたモルザは勢いよく転んだ。


「どおおおおりゃああああ!!」


 さらにコールが猛ダッシュで現れ、モルザへ向かい飛んだ。


「とおおお!!」


 コールはそのままの勢いでモルザに蹴りを当て吹き飛ばした。


「ギギャアオアア!!」


「ティグ!! 早く!! 今のうちに!!」


「あ、お、おう!!」


 三人は校舎へと入っていった。




 ――校舎内


 三人は静かに慎重に、校長室へと向かっていた。


「お前らなんで? 城へ行けって言ったのに」


「あんた一人でなんとかなるわけないじゃない! いいからさっさと武器を取りに行くわよ!」


「あ、ああ……」


「ここが校長室だ……」


 ティグはそっと校長室内を覗いた。


「よし……誰もいない、行こう!」


 ティグ達は扉を開け校長室へ入った。


「あった!! これだ!!」


 そこには、透明な入れ物に入れられた、立派な剣が飾られていた。


 そしてコイルは生唾を飲むとティグに問いかけた。


「すげぇ……思ってたよりデカイんだな……でもどうする? 鍵かかってるぜ……」


「うーん……まあ、壊すしかないよな……」


「ええ!? おまっ! 怒られるぞー……」


「でも状況が状況だし、仕方ないよ……」


「いやー、やばいよー、下手すりゃ逮捕だぜ、逮捕!」


「まじで!? 捕まっちゃうの? そりゃまずいよ……母さんにだっ……」


 その時、ハナが花瓶で剣の入れ物を叩き割った。


「ええー!!??」


 ハナは入れ物から剣を取り出し、ティグに渡した。


「ほらっ!」


「あ、ああ……」


ティグは剣を受け取ると、マジマジと眺めた。


「なあなあ! 俺にも触らせてくれよー!」


 コイルはティグに近寄った。


「コイル!! 伏せろ!!!」


「??!!」


「ギギッギギャラオ!!」

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