第3話【対決】

 ――翌日 


「ここがガルイード城かー……近くで見るとこんな大っきいんだなー……っと」


 ティグは辺りを見回し、入口と門番を見つけると、歩み寄った。


「あのー、すみません……」


「ん? なんだ貴様は!?」


「いや、あの、ガルイード王国国衛軍のサルバ隊長に会いに来たんですけど……」


「なに?! サルバ隊長に?! 貴様のような小汚い小僧がおいそれと会える様なお人ではない! 帰れ!」


「な!?」

(カチン!)


「小汚いとはなんだ! それに俺はちゃんと隊長と会う約束をして来てんだい!」


「嘘をつくな嘘を! 仕事の邪魔だ! さっさと帰れ!」


「むー!! なんだい! 仕事なんてそこでただ突っ立ってるだけじゃないか!」


「なにをこのガキー!!」


 門番は持っていたサガネをティグに振った。


「なっ?!」


 するとティグは頭を下げてサガネを軽々避けた。


「門番だったら、城内のお偉いさんが誰と会う約束してるかくらい、把握しとけってんだい!」


 ティグは門番の脛を蹴りつけた。


「ぐわっ!! 痛っっ!!」


「へへーん!」


「こ! この糞ガキー!!」


「なんだー! やるかー!?」


「ぶった切ってやる!!」


 門番は剣を抜いた。


「やれるもんならやってみろ!!」


「ぶっ殺す!!」


 門番は剣を振り上げ、ティグに襲いかかった。


「……おい!」


「!!??」


 その時、後方から声が聞こえた。


「あ……フィル殿……」


 そこには青年が腕を組み、立っていた。


「その小僧がサルバ隊長と会う約束をしているのは本当だ、さっさと案内をしてやれ」


「は、はは! 承知しました!」


(な、なんだあいつ? なにもんだ?)


「おい、行くぞ、付いて来い」


「え? あ、ああ」


 門番の案内でティグは城内へと入って行った。


(まだ全然若そうに見えたけど、なんか態度のデカイ奴だったな……城の人間ってのはあんなのばっかなのかなぁ……いや! サルバ隊長はきっといい人だ! きっと強くて優しいんだ!)


「セイ! セイ! セイ!」


「キエエェエーイ!!」


「でやあああ!!」


 サルバの部屋に向かう途中、訓練場の前を通ると数百人という数の兵団達が、様々な訓練をしていた。


「うわあ! すっげぇ……」

(俺もいつかここで……いや……もしかしたらサルバ隊長次第では明日からにでも……)


「ぐふっ、うふふぅ……」


「おい!」


「ん、え?」


「ここだ」


 ティグは訓練場の脇にある、部屋の前に案内された。


「貴様、名は?」


「ああ、ミナルク……ティグ・ミナルク」


 門番は扉を叩いた。


「門番のラグナです! ティグ・ミナルクを案内してまいりました!」


「入れろ」


「は! おい……」


 門番のラグナはティグに中に入るよう促した。


「う、うん」


 扉を開け中へ入ると、そこには一人の男が窓から外の訓練場を眺め立っていた。


「ど、どうもぉ……」


「君が……ティグ……か……」


「は! はい! ティグ・ミナルクであります! こ! この度はお招きいただき、誠に光栄であります!」


 ティグは背筋をピンと伸ばし敬礼をした。


「うむ、まあ、そう硬くならずに楽にしてくれればよい」


「は!」


 そういとサルバはティグの近くに寄り、全身を見回した。


「あ、あのぉー……」


「ふむ……」


 サルバはまた窓の方へ向かい、訓練場を眺めた。


「君は……将来国衛軍に入り、兵士になりたいそうだな」


「は! はい! 沢山訓練して強くなって! 自分は是非サルバ隊長の隊に入り! 共に兇獣きょじゅうと戦って! この国の平和を守りたいと思っております!」


「そうか……」


「はい!」


「…………」


(来るかー? 来るかー? スカウト来るかー?)


「…………」


(来い! 来い!! スカウト来い!!!!)




「君は……兵隊には向いてない、国衛軍に入るのは諦めて他の道を探すんだ……」


「はい! 是非! ……へ?! な?!」


「…………」


「な! なんでですか!? 自分は国衛軍になるためならどんな努力だってします! ま、魔法だって苦手だけど、頭だって悪いけど……でも誰よりも努力します!! 国衛軍になりたいんです!」


「駄目だ、国衛軍になる事は他の誰が認めようとも、この私が許さない……」


「そ、そんな……なんでですか!? せめて理由を教えて下さい! 自分は今まで自分なりに国衛軍になる為に沢山努力はして来ました! 国の大会にだって優勝したし! 生半可な覚悟ではやってきてはいないです!」


 その時、扉の方から声が聞こえた。


「ふんっ、あんな素人だらけの大会で優勝したくらいで、なにをいい気になってるんだか」


「!?」


 振り返るとそこには、さっきの青年がまた腕を組み立っていた。


「フィル……」


「お! お前はさっきの!」


「あの大会には兵士や訓練生は参加できない、言わば剣のイロハも知らないような素人集団の大会だ、いくら最年少だろうがなんだろうが、あんな大会での優勝など、なんのなんの実力の証明にもなりはしない」


「な! なんなんだお前さっきから!」


 その時、フィルは瞬時にティグに近づき、腕で首を絞め上げた。


「がふっ!」


「フィル!」


「貴様にお前呼ばわりされる筋合いはない、サルバ隊長の言う通りに、貴様はさっさと諦めて漁師でも農民でも、他の道を探せばいいんだ!」


「ぐっ! ふっ! い! いやだ! 俺は国衛軍になるんだ!」


「ふんっ! こんな弱い奴が国衛軍になったところで、たちまち兇獣きょじゅうに喰い殺されるだけだ、他の兵士達の足手まといになるくらいなら、最初から諦めろ」


「そ、そんなの、ぶふ! やってみないと、ぐっ! わからないだろう……」


「わかるさ……現にこの状況を見ろ、この状況一つどうにも出来ん無能がなにをほざく?」


「お、お前が不意打ちなんて、がばっ! ひ、卑怯な真似を、ぐっ! するがらだろう……」


「卑怯……? ははっ! お前……兇獣きょじゅうに殺されても、そんな戯言をほざくつもりか?」


「う! うるざい! くふっ! お! お前こそ! 俺にビビってんだろ?! っぐっ!」


「なにぃ? ふざけるな! なぜ俺が貴様なんぞにビビらなきゃならん!」


「ふ、ふんっ! こ、この不意打ちと言い……くはっ! 俺を兵士にさせたくない事といい……くふっ! 俺に、ビビってるから……」


「貴様……」


 フィルはティグから手を離した。


「がはっ! はっ! はっ! ぐふっ! ごほっ!」


「上等だ、訓練場へ来い、格の違いと言うものを教えてやる」


「ぐふっ! ごほっ! こ、この……望むところだ」


「いいでしょう? サルバ隊長!」


「む、う……ん、まあ、いいだろう……だが、くれぐれもやり過ぎるなよ、あくまでこの子は一般人だ」 


「わかってますよ……おい、小僧! 行くぞ! さっさと立て!」


「こほっ……くっそ、見てろ……」



 ――訓練場


「さっさと防具を付けろ!」 


「うるっさいなぁ、なんだこれ? どうなってんだ?」


 ティグは慣れない手つきで防具を着けた。


「よし! これでいいや! 出来たぞ!」


「こっちへこい!」


「いっちいち偉そうに……」


「あれ? お前防具は?」


「お前じゃない! フィルさん! だ! 貴様如き相手するのに、俺が防具を付ける必要はない!」


「へーんだ……格好付けちゃって、目にものみせてやる……」


「ではサルバ隊長、お願いします」


「うむ……」


(でも丁度よかった、サルバ隊長に俺の実力を見せつけて、認めさせてやる!)


「始めい!」


(よ〜し! 速攻で倒してやる!)


「!?」


 ティグは勢いよくフィルに飛びかかろうとしたが、その動きを止めた。


「ふんっ、ただの馬鹿ってわけでもなさそうだな」


「う! うるさい!」


(な、なんだこいつ……まったく隙がない……)


「どうした小僧? 攻めてこないのか?」


「ぐ……お! お前こそ! ビビってないで攻めてこいよ!」


「ふんっ……口の減らん奴だ」


 するとフィルは流れるような動きでティグに近付いた。


「うわっ!」

(なんだ!? たいして動いてないのに一瞬でこんなに近くに!)


 ティグは咄嗟に後方に跳んだ。


「馬鹿め!」


「んっめえええええええんー!!」


 フィルはティグの頭にサガネを叩きつけた。


「ぐわぁあ!!」


 そしてフィルは立て続けに、次はティグの腹部を薙ぎ払った。


「どおおおぉぉぉおお!!」


「ぐふう!!」


 そして瞬時に元の構えに戻った。


「ぐっ! がはっ!」


 ティグはかなりのダメージを受けていた。


「ふんっ! 口ほどにも無い、もう降参かするか?」


「くっそ……誰が降参なんて……するかー!」


 ティグはフィルに向い突進した。


「ふんっ……芸のない……」


 フィルはサガネを構えた。


「む?」


 ティグはフィルの直前で止まると、すかさず横に回り込んだ。


「はあああ!!」


 そしてサガネをフィルに薙ぎ払った。


「なっ!?」


 しかしフィルは余裕で受け止めていた。


「甘い……」


 フィルは柄を返すと、ティグを床に叩きつけた。


「ぐはっ!」


 そしてなんども上からサガネを叩きつけた。


「ぐわぁああ!!」


「わかったか!! 貴様なんぞが兵隊になるなんて一千年早いんだよ!!」


「ぐっ! がっ!」


 ティグはサガネで防御はしているものの、一方的にやられていた。


「ぬう……」


 サルバは組手を止めようと一歩足を踏み出した。


「ぐわぁあ!!」


「ぬ?」


 するとその時、フィルがなにやら叫び出した。


「へ、へへ……」


「うぐぐぅ……き! 貴様!」


 フィルは足を抑えていた、なんとティグは一方的にやられている最中、サガネの柄でフィルの足の小指を叩いたのであった。


「貴様! 殺してやる! 殺してやるぞ!」


 そういうとフィルは腰を深く落とし、サガネを構えた。


「ぬう……まてフィル! それはまずい!」


「はあああ!」


 フィルの耳にサルバの声は届かず、そのままティグへ突っ込んで行った。


「うをおおぉお!!」


 ティグはもうフラフラで、立っているのもやっとであったが、フィルはティグに、一瞬にして十数回もの突きを放った。


「がっ! はっ! ぐっ! がっ!」


 ティグは訓練場の端まで吹き飛ばされた。


「はあっはぁはぁ……」

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