第2話【連絡】

 ――数日後


「母さん行ってきまーす!」


「いってらっしゃい! 気を付けてね!」


「はーい!」


 ガルイード王国では、十年前の事件以来、王国の軍事力を高めるべく、兵隊の育成機関、いわば兵士の訓練学校を設けていた。


 王国の若者はそこへ通い、兵隊としての戦いのイロハはもちろん、一般教養などを学んでいた。


「おーい、ティグ―! おはよう!」


「コイル! おはよう!」


「今日一時間目なんだっけ?」


「うーんと……たしか教養だったと思う」


「うへぇ……教養かぁー……教養なんていいから、もっと剣術や魔法の授業を増やしてくれればいいのに……」


「本当だよなー、アシダ先生の授業聞いてると眠くなってくんだよな……」


「わかる! あのこもった低音がなんか眠気を誘うよな!」


「あー……であるからしてぇ……」


「あははっ! 似てる似てる!」


 その時、学校の方から鐘の音が聞こえてきた。


「あっ! やべっ! 遅刻するぞ! 急げ!」


 二人は学校へと走った。



 ―― 授業中


「あー……であるからしてぇ……」


 ティグは授業を聞かずに外を眺めていた。


「ん……?」


 その時、ティグの頭に小さく丸められた紙が当たった。


「……」


 紙はコイルが投げたものだった。


 ティグがその紙を広げてみると、そこには文字が書かれていた。


(次の授業魔法だから、どっちが早く水を凍らせられるか勝負しようぜ!!)


「ふふっ!」


 ティグはコイルに向けて、望むところだとジェスチャーした。


 するとコイルはまた何かを書きティグに投げた。


(負けた方はダーチ先生の髭を燃やすこと!)


「ブッ!!」


 ティグは噴き出しながらもコイルの方を見ると、コイルは負けないぞというジェスチャーをしている。


 ティグもまたさっきより大きく望むところだどジェスチャーを返した。


「……グ! ティグ!!」


「ん? へ? あっ! はい!」


 ティグはアシダ先生に呼ばれていた、急いで立ち上がると、言われてないのに教科書を読み上げ始めた。


「よ、だ……な、ま、だ? し?? あ……?」


「ティグ……教科書逆だ……」


「あら……」


「それに誰も教科書を読めなんて言っとらん……」


「あ……ははは……」


「剣術のブラス先生がお前に急用があると来てくださっている、授業はいいから先生と一緒に行って来なさい」


「あ、ブラス先生……はい……」



 ―― 別室


「よろこべティグ! 先ほど王室の方から連絡があってな、こないだお前が最年少での優勝を成し遂げた大会の功績を称え、王衛軍軍隊長のサルバさんが会いたいと言ってくれているそうだ!」


「ええ!!?? 本当ですか?!」


「ああ本当だ! なんとサルバ隊長直々に、この学校に連絡してきて下さったらしいぞ!」


「サ、サルバ隊長が……直々に……?」


 ティグは歓喜に震えながらも飛び上がった。


「やったー!! ははー!! やったやった!! 先生やったよー!!」



 ――帰り道


「まじ?! あのサルバ隊長から直々に?! す、凄えなぁ……」


「ああ、やったよ、もしかしたらサルバ隊に入隊なんて事も!!」


「ええー?! いくらなんでもそれは無いんじゃないの? 俺らまだ十歳だぜ? 訓練生になれんのだって十三歳からだろ? それから最低三年訓練して、テストに合格してやっと一新兵としてどこかしらの隊に入隊だろ? さすがに無理じゃねーの?」


「うーん……まあ……でも聞いた話によると十五歳にしていきなりサルバ隊に入隊が決まった凄い人がいるって!」


「だからってその人だって十五歳じゃん、お前十歳じゃん、しかもそんな凄い人だって十五歳じゃなきゃ入れなかったんだろ? いきなりお前の年で入隊なんてないよー! んー! ないない! 絶対なーい!」


「むすぅ……」

 

 ティグは頬を膨らまし、ふてくされた。


「んじゃあ、なんで呼ばれたってのよ?」


「それはまあ……それだけ最年少での優勝が凄いって事なんだろうけど……」


「だろー!! まあ、いきなり入隊ってのは確かに無いかもしれないけどさ!!」

 


 ―― 以下ティグの妄想


「君が噂のティグ君か!! 国を上げての大会で優勝したんだって!? それも最年少で! なるほど! たしかに強そうで賢そうで男前だ!!」


「い! いや! そんな事ないであります!!」


「謙遜しない! 謙遜しない! 今すぐにでも我が隊に入隊してもらいたいのは山々なんだが、国の決まり上、少なくても十五歳にはなってもらわないとな! なーにあと五年なんてすぐだ! そしたら我が隊に入って私と共に兇獣きょじゅうを倒し、王国の平和を守ろう!!」


「はい! サルバ隊長!!」



 ―――


「うへへ……あふ……あへ……」


「おーい……ティグー、帰ってこいー」


「ん、ああ……と、とにかく悪い話じゃないはずだ! これで目標に一歩近付ける! よーし! やるぞー!」


 ティグはガッツポーズで飛び跳ねた。


「ははは、まあしかし、実際大したもんだよ、凄えよ、頑張れよティグ!」


「おおー! やるぞー!」


「おおー! やれやれー!」


 二人は大いに騒いだ。


「なにしてんのあんた達?」


「ん?」


「あ、ハナ……」


「こんな道端でなにを大騒ぎしてんのよ、みっともない、まったく、これだから男子は……」


 ハナはティグとコイルと同じ教室の同級生であり、女の子ながらに兵団を目指し、剣の腕こそまだ未熟ながらも、魔法においては学校で一目置かれている存在であった。


「ハナ聞いてくれよ! ティグってば凄えんだぜ!」


 コイルはハナに説明した。


「な! 凄えだろ?」


「なるほどね……それであの馬鹿騒ぎ? あんたたち本当に単純ね、あのサルバ隊にそう簡単に入れるわけないじゃない! あんたは確かに剣の腕はあるかもしれないけど、魔法なんてからっきしじゃない」


「う……」


「それにね、王国の国衛軍たるもの文武両道じゃないといけないの! あんたこないだの教養のテストいくつよ?」


「うう……に、二十三点…」


「ほうらね! そんなんであの泣く子もだまるサルバ隊の兵団なんてちゃんちゃら可笑しいわよ! せいぜいよく頑張りました! あとは魔法と勉強も頑張りなさいって言われて終わりよ!」


「ううう……」


「あんたが兵団に入るならよっぽど私が入った方が御国の為になるわー! おーっほっほ!!」


 ティグとコイルは静かにハナの元を離れようとしていた。


「ちょっと! あんたたち! どこいくの! まだ話は終わってないわよ!」


「うっひゃー!! 逃げろー!!」


「待ちなさーい!!」


 ティグとコイルは走り出した。


「コイル! じゃあまた明日な! 王室からの土産話、楽しみにしとけよー」


「おう! ティグ! うまくやれよー!」


「ちょっと! 二人とも待ちなさいよー!」


「ハナ!! そんな怒ってばっかいるとお嫁に行けないぞ!」


「な!? よ! 嫁!? あ! あたしは国衛軍になるのよ! お嫁になんか行かないんだからー!」


「ははは! じゃーなー!」


 ティグは走り去って行った。



 ――― ティグの家


「ね! 凄いでしょ母さん! サルバ隊長から直々にだよ! 頑張った甲斐があったよー! あーワクワクするなー! 早く明日にならないかなー!」


「サルバ隊長から直々に……」


 サオは浮かない顔をしていた。


「ん? どうしたの母さん?」


「ううん……なんでもないわ、おめでとう、くれぐれも王国の方々に失礼の無いようにね」


「うん! じゃあ僕もう寝るね! 明日七時だからちゃんと起こしてね!」


「フフフ……わかったわ、おやすみなさい」


「おやすみ! ああー、寝れるかなー! ヤギ数えなきゃー」


(フフフ……羊ね……)


「ふぅ……」


 サオは舞い上がるティグをよそに、一抹の不安を抱いていた。

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