6

『…きっと、数日に亘って宇宙を彷徨っていたのじゃろう。その疲労から、すっかり眠り込んでしまっているだけで、命に別状はない。とりあえず処置は、こうして点滴だけ打っておけばいいじゃろう。じきに目を覚ますはずじゃ』


 これまたロボットアーム搭載。この医務室のベッドに備え付けの診断、処置機能、それすなわちAIドクター(ベテランじーさん設定)が、同ベッド側面のスピーカーを通して、そう告げてきました。


「それはよかった〜」 


 同じく機能を有する2台のベッドを背後に、ほっ、とテイトが息をつきました。


 その眼下のベッド上では、先のティア星人なる彼女が、点滴のチューブを付けられた姿で寝かされています。


「あ〜、パパ船長〜。いま彼女の瞼が少し動いたような〜」


 ベッドを間にテイトの向かい、コトを横目にシトが言い出しました。


 おっ、どうやら彼女の言う通り。その透明娘・・・ったら、まもなく静かに目を開けたではありませんか。透明ゆえ、やたら分かりにくいですけどね。


 そして、一同が見守る最中、そのボブヘア(も透けています)の彼女が、ゆっくりと半身を起こしました。


「ここは…?」


「目が覚めましたか〜。ご安心ください〜、ここは我々の宇宙船の中です〜。でも、まだ無理に起きない方がいいですよ〜」


 そのテイトの声が響く室内を、きょろりきょろ、と透明娘が見回しています。


「あなた方が、私を助けてくれたのですね」


 ひと通り見回した後、あらためてクスノキファミリーを一望。確認を取るかのよう、透明娘が一同に尋ねます。


「はい〜。あなたの乗ったカプセルから、救難信号が出ていたので〜」


 コトが口を挟みました。

 

「あ、そうでした。それを出したまま、いつの間にか私は眠ってしまったようです。この度は、なんとお礼を申し上げていいか…」


 そう言って小さく頭を垂れる彼女に、


「その点滴が終わったら、まずは何か飲み物でも差し上げましょう〜」


 コトが気遣いを見せます。


「はい、ありがとうございます」


 またも透明娘が、小さく頭を垂れました。

 


 やがて点滴終了後…


 だいぶ元気を取り戻した透明娘を、クスノキファミリーが、当船の食堂へとご案内。


「…じゃあ、シト〜。これをユアさんのテーブルに〜」


「了解です〜、ママ〜」

 

 こぢんまりとしたカフェ風の空間の中、その奥のキッチンカウンターにて、とりあえずコトがホットミルクを用意。まもなくシトが、それを『ユア』(透明娘の名前だそうです)さんのテーブルの前に運んできました。


「熱いので気をつけてください〜」


 その向かいにテイトが座る一方、ほわほわと湯気の立つカップを、シトがユアさんの前に置きました。


「ありがとうございます。頂きます」


 と、それからユアさんが、そのミルクを何口かすすったらば驚きです。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る