番外編 スペース人形ファミリー
無限に広がることで有名な大宇宙…
その闇の中、1隻の宇宙船が、地球に向け火星付近を航行中です。
その名も、クスノキ号。銀色にしてブーメラン状を成す中型輸送船です。
「パパ船長〜、あと6時間ほどで地球に到着です〜」
前面に強化ガラスの張られたコックピット内。操縦桿を手に告げるは、船長テイト・クスノキの娘であるシト。現在16歳です。
「了解〜」
メカニカルな空間の中央、シトの背後の席にて、船長のテイトが返しました。
すると同じくして、
「あなた〜、なにかの飛行物体が、側方から当船に急接近しています〜」
2人と同じくスペーシーな服装。娘シトの隣で、レーダースクリーンを見つめつつ、妻のコトが言いました。
「なんと〜…」
と、そのテイトの声を合図とするかのよう、天井付近に設置のスピーカーから、女性らしき者の声が響いてきました。
「我は、宇宙海賊クレオパトラ永世11段である。当船前方の中型輸送船。ただちに停止しなさい。繰り返す…」
「いやはや〜、この船には海賊さんに差し上げるものなどないが〜」
などとテイトが呟いたが、今度は前面上方に設置の大型スクリーンに、先の声の主と思われる女性の姿が映し出されました。
「…ごきげんよう、輸送船の皆さん。実は当船では、ある物資が不足している。よって、それを貴船に提供して頂きたい」
「はい〜、なんでも差し上げましょう〜」
…って、テイトが急に態度を変えたのは、同スクリーンに映し出された彼女が、その長い髪も艷やかな、若きクールビューティーだったからです。
「まあ、あなたったら〜」
「パパは美人に弱いです〜」
母娘揃って呆れる最中、
「では、これから、そちらへ参る」
告げると共にクレオパトラさんとやらは、再びスクリーンから姿を消しました。
そして間もなく、その彼女の宇宙船が、当クスノキ号に接舷してきました。
ふむふむ、それは所謂『気球』状。幾本ものワイヤーによって、そのエクレアのような流線型の下に、ゴンドラ風が吊られている。といった形の大型宇宙船です。
さて、接舷からしばし後、いよいよクスノキファミリーとクレオパトラさんとが、当クスノキ号の後部は収納庫内にて対面しました。
オレンジ色の照明の下、あらためて見るに、そのクレオパトラさん…スラリもスラリの長身に、ぴったりフィットの宇宙服やマント、さらにロングブーツなど纏った姿。それらいずれもが、とても良くお似合いな、20代後半くらいの美女です。
また彼女、やはりさすがは海賊か。その柳腰の側面には、長い銃身を持つビームガンを下げています。
にしても、特にテイトとコトは、この危機的状況にもかかわらず、なにを笑ったり変顔とかしてるんだ。しかも、黙って聞いてれば、さっきから3人揃って、緊張感のない一本調子の口調で…と仰るなかれ。
実は、無表情のシトも含めた彼らは皆、そういった顔に作られた等身大の人形に、亡くなった人間の魂が…なんて、いまさら説明するまでもなさそうです。
ちなみに、彼らクスノキファミリーの声に至っては、コックピットにせよ当空間にせよ、そこら天井付近に設置のスピーカーから発せられています。
「で〜、クレオパトラさん〜…一体なにをお望みなのでしょうか〜」
テイトが尋ねました。
「うむ、案じなさるな。そんな大したものではないのでね」
果たして、そのクレオパトラさんの要求とは、これいかに。
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