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ところが、あら不思議。なぜか、その落下が途中で止まると共に、辺境伯さんの身が、いとも軽やかに宙へ浮かび上がったではありませんか。
「こ、これは一体どうしたことだー」
まあ、先述のように、落ちたところでダメージはなかったでしょうが…
「凄いです〜、おじさま〜。空を飛んでます〜」
いまや中空に立つような姿。その辺境伯さんを目の当たりに、史都が言いました。
「あー、なるほどー。これはきっと、この翼のおかげに違いないー」
おそらく、辺境伯さん自身の言う通り。その背のウイングが、彼に飛ぶ能力を与えたと思われます。
で、香山が背を向けている隙に辺境伯さんが、より積極的に天井付近を飛び回り始めました。
そして、香山が通話を終えるや、何事もなかったかのように、元の位置へ戻ります。
「もし、このままなら脱出に使えるんだがー」
「まったくです〜」
おや、そんな2人の願いが通じたのでしょうか。ウイングもそのままに香山が、いそいそと外出の準備に掛かりました。
どうやら先の電話は、誰かからの呼び出しだったようです。
「これは、願ってもないチャンスだー。あの男がドアを開けるタイミングを見計らって脱出しようー。さあ、史都ちゃんー…彼が玄関に向かったら、私の背に掴まるんだー」
「いえ、おじさま〜。私を背負ったら、きっと重くて飛べないと思います〜」
ということで、実際に試してみましたが、まさに史都の言う通りでした。
よって、ひとまず辺境伯さんのみが自宅に戻り、そこから助けを呼んでくることに決まったのです。
「では、史都ちゃんー…待っていてくれたまえー。すぐに助けを呼んでくるからねー」
「お願いします〜」
かくして辺境伯さんは、やがて香山がドアを開けた隙に、まんまと脱出に成功。史都が見守る中、外へと向かって飛び出していきました。
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