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 やがて…


 椿夫妻は帰宅の途に。このマンションの前の駐車場で、楠一家とお別れの挨拶を交わしてまもなく、愛車のランボルギーニ・スギウラに乗って帰っていきました。


「叔父様も叔母様も、相変わらず素敵な人です〜」


「また正月にでも集まろう〜」


「ですわね〜、あなた〜」


 屋内へと戻りながら、3人が口々に。


 と思えば、どうしてか史都が、急に立ち止まりました。


「そういえば、ちょっと本屋さんに行ってきます〜。きょうは月刊『微生物』の発売日なのを、すっかり忘れていました〜」


 やたらマニアックな雑誌なのはともかく、やや先をゆく帝都と湖都が、やはり立ち止まって我が子を振り返ります。

 

「もう遅いし、明日にしなさい〜」


「そうよ、史都〜。なにかあったらいけないわ〜」


「でも、近いから大丈夫です〜」


 その書店『変奇異堂』までは、ここから徒歩10分ほど。しかも、そこまでは開けた一本道なので、夜間に女の子がひとりで向かっても、特に危険なことはないでしょう。


 よって、


「う〜む〜…なら、気をつけるんだぞ〜」


「すぐに戻るのよ〜」


 どうやら許可が下りました。


「お金は持っているの〜」


「はい〜、ママ〜。大丈夫です〜。では、行ってきます〜」

 

 くるりと踵を返すや、史都は足早に歩き出しました。


 このちょっとした買い物が、後々、有田くんを始め自身の周囲の人々を困惑させるきっかけになろうとは、もちろん知る由もなく…

 

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