頭はどこへ?

 なにやら、先より楽しげな雰囲気。


 それもそのはず。今宵は当楠家に親戚が来訪。現在、その5名でもって夕食を共にしているからです。


「…しかし、こうして魂だけでも戻ってきてくれて、ほんとによかった」


 楠家の3人ともども食卓を囲みつつ言ったのは、椿遷都せんと氏。史都の母、湖都の弟です。


「あの日、事故の知らせを聞いた時には、ショックのあまり頭の中が真っ白になってしまいましたから…」


 ほっそり美人。遷都氏の妻である首都さんが、ふと表情を曇らせました。


「でも、元気そうで何より。お義兄さん、これからも姉をよろしくお願いします」


「もちろんさ〜。こちらこそ、いつも湖都に支えてもらっているよ〜、遷都くん〜」


 こうして姿こそ人形になってしまいましたが、なお家族の絆は健在、という訳です。


「史都ちゃんも、お勉強がんばってね」


「はい〜。叔母様〜」

 

 相手が親戚とあって、本日は『お面』なし。優しく微笑む首都に向かって、史都も笑顔(のつもり)で返しました。


「でも、年頃なんだし、恋もするんだよ。史都」


 との遷都の発言に、にわかに史都は、有田くんの姿を思い浮かべました。


 彼からの告白については、凛や久美よろしく、両親にも伝えていないとあって、これまたヒヤヒヤドキドキ。でもやっぱり、こんな時には便利な無表情です。


「そんな、どこぞの馬の骨を連れてきても、パパは会わんぞ〜…ありがとう〜」


 はて、なんだかややこしい言い回しの帝都ですが…


 実はそれ、史都の父親としての複雑な心理ゆえに違いありません。


 可愛い娘の彼氏に決して会いたくはないけれど、でも人形の史都を好きになってくれてありがたい。という主旨の発言なのです。


「あなたったら〜、どっちなんですか〜」


 その湖都の指摘を耳に、


 あっはっは〜っ…


 たちまち一同の間から、笑い(といっても、楠一家はいつもの調子)が起こりました。


 楽しい時間が過ぎていきます。

 

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