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「楠さんっ…」


 仲良しの凛や笹本久美ともども、史都が昼食を摂っているところへやってきたのは、誰あろう有田くんです。


 おや、その彼が手にしているのは、1台のラジカセではありませんか。

 

「ラジオ体操なんかに使うやつだけど、職員室から借りてきたんだ。よかったら、これを使って」


 言って有田くんが、とりあえず空いている隣の北原さんの机の上に、そのラジカセを置きました。


 すると、さっそく同ラジカセのスピーカーから史都の声が。


「わざわざワタシのために、ありがとうございます〜。有田くん〜」


 礼を述べる傍ら、ふと、昨日の告白のことが脳裏に。もちろん、まだ返事はしていませんが、どっちみち史都は、もうドキドキです。


 さらに、その告白の件を知らぬ2人が側にいるとあっては、それもなおさらのことです。


 ご多分に漏れず、表情や口調からは、まったくドキドキが伝わってきませんけどね。


 それに比して有田くんの方は、心なしか頬を赤く染めつつ、自分の席へと戻っていきました。


「ねーねー、有田くんって誰にでも優しいけど、特に史都には、もっと優しくない?」


 なにやら小声で言い出したのは、その三つ編みも愛らしい久美です。


「うんうん、私も思った。なんか、いつも史都を見守ってるっていうかさ」


 凛も乗ってきました。


「そんなことないです〜」


 内心ヒヤヒヤ。でも、惚ける時には何かと便利な、この無表情ならびに一本調子。

 

「ひょっとして彼、史都に気があるんじゃないのかなー」


 ドキッ…鋭いですな、久美さん。


「そ、そんな、どうしようっ…」


 …って、凛さん。あなたのことじゃありませんがな。


「もう、久美さんも凛さんも、そんなことないです〜」


 実はあるんです〜。


「なにせ史都ってば、可愛いもんねー」

 

 そりゃま、そもそも美形に作られた人形ですからね。美貌という点では、クラス…もとい、この学校の中でも、史都はトップクラスでしょう。


「有田くんもイケメンだし、これは美男美女のカップル誕生なるか?」


「よっしゃ、なら史都。私、応援しちゃうからねー」


「私もっ」

 

 当の史都を差し置き、がぜん盛り上がる2人の娘。


 それはそうと、さすがはラジオ体操等に使うというだけあって、有田くんが借りてきてくれたラジカセは、かなりの大型にして多くのスイッチ類が付いています。


 で、そのシルバーを基調とした長方形を机の上に、やがて史都が次なる5時限目の英語(担当・山﨑デュダ子先生。28歳)に臨めば…


「…じゃあ、楠さん。この文を訳してみてください」


「『…な〜に、言ってんだっ。このク☓ババアッ!』」


 わおっ、史都ったら、先生に向かって何てことを…っと思いきや、ひょっとしてそれは、某毒舌ラジオ番組でお馴染みの、あの毒蠍義太夫さんの声ではないでしょうか。


「先生、ごめんなさい〜。ボリュームを上げようとしたんですが、使い慣れないので、間違えてラジオのスイッチを入れちゃいました〜」


 いやま、すでにボリュームは十分に上がっていたようですけど、ね。

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