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 翌日の授業中。


「…では楠くん。2502ページから読んでみて」


 やたら分厚い教科書なのはともかく、国語担当の青年教諭、森川先生が史都に向かって言いました。


 が、窓際の1番後ろの席。どうしてか史都からは返事がありません。


 見れば、ジェスチャーでもって彼女は、なにか先生に訴えているようです。 


 かと思えば、ふと隣の席の女子、北原さんが口を開きました。


「先生。きょうは楠さん、いつものラジカセが急に壊れちゃって、家に置いてきたそうで、声が出せないんです」

 

 あ、なるほど。そういうことだったんですね。不便。


 向こうの席では、かの有田土岐雄くんも心配そうに史都を見ています。


「そうだったのか。じゃあ…」


 そこで森川先生が、そのスーツの懐から取り出したるは、1台のスマートホンです。


「じゃあ代わりに、これを使ってみたらどうかな」


「なるほど」


「その手があったか…」


 などと、生徒たちが口にする中、森川先生が、それを史都の机の上に置いてくれました。


「ありがとうございます〜、先生〜」

 

 お、出ました出ました。さっそく、そのスマホから史都の声が。


 どうやら解決。ほどなく先生が教壇に戻ったところで、教科書を手に起立。史都が音読を始めました。


「『私は思った〜。なぜカッパ口はカワイイのに、カッパ顔はカワイくないのか、と〜。だが、それ以上に気になるのは、隣の晩ごはんで〜…』」


「あちゃ、よく聞こえんな。ヴォリュームは最大にしておいたのに…」


 一転。眉を下げ下げ、森川先生が史都を見てきます。


「やっぱり、スピーカーが小さいからだと思います〜」

 

「そうか〜」


 つい釣られたか。森川先生まで、史都と同じような口調になっちゃってます。


 こうなったら、その先生の背後は頭上にある、校内放送用のスピーカーでも使えばいいのでは? という、ご意見もありましょう。


 でも、それはいけません。 


 実は、過去に同じく状況の際、それを一度試してみた結果、広く校内全域に史都の音読が響いてしまった為、以降は使用禁止とされているからです。

 

 き〜んこ〜んか〜んこ〜んっ…


 おっと、なんだかんだ言ってるうちに、そのスピーカーから終業のチャイムが響いてきました。 

 

 結局、森川先生のアイデアも実を結ばず。やがて、同氏が去ってゆくと共に、教室は賑やかに。これから昼休みです。

 

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