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 はて、もうすっかり日も暮れたというのに、一向に史都が帰宅しません。


 それゆえ彼女の両親が、学校に問い合わせてみたところ、すでに下校したはずとのこと。


 そう、確かに下校しましたが…


「…凛さんや、他のお友だちのところへも連絡してみましたが、学校で別れたきりだそうです〜」


「そうか〜。いったいどこへ行っているんだ、あの子は〜」


 あるマンションの一室は、そのリビング内。いずれも史都と同じような口調で言うのは、彼女の母親の湖都ことと、父親の帝都ていとです。


 にしても、こんな時に何を笑ったり変顔とかしてるんだ、2人して。と仰るなかれ。


 娘が人の魂を宿した人形なら、両親もまた同じく。父は変顔、母は笑顔。やはり史都よろしく、それぞれ双方の霊魂が、そのような表情に作られた等身大の人形に憑依しているからなのです。


 実を言うと、この楠家の親子3人は、かつて揃って不慮の事故に遭遇。結果、この世に未練を残したまま亡くなってしまいました。


 で、その一家の彷徨える魂が、たまたま同じ場に棄てられていた3体の人形に憑依。こうして、再び現世で共に暮らすようになった。という訳なのです。


「まさか、誘拐だろうか〜」


「あなた、そんな縁起でもない〜」


 史都と同様、会話しているにも口は動かず。2人の声が、側のラジカセを通して、リビングにこだましています。


 両者とも、その口調と表情のせいで、とても心配しているように感じられないのが、いささか残念ではありますけどね。


 

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