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「…楠さん。ちょっといいかな」
個人授業の後、あのラジカセや学生カバンを手に校門を出たところで、不意に史都は、ひとりの男子生徒から声をかけられました。
はたと足を止めて見れば、そのスラリと中背かつ端整な顔立ちの彼は、史都と同じクラスの
「どうしたんですか、有田くん〜」
校庭で、運動部の生徒たちが活動する姿を脇目に、史都が尋ねました。
「う、うん。ちょっと話があるんだけど…さ」
なにやら躊躇いがち。その話とは、いったい何事でしょうか。
「分かりました〜」
史都が頷くや、ちょいと校門から離れ、2人して近くの歩道の脇へ。あらためて彼女と向き合うと共に、再び有田くんが口を開きました。
が、
「…でさ、あのさ…」
それ以降、なかなか先へ進みません。というか、進めぬ様子の有田くんです。
「なんでしょうか〜」
例の無表情さでもって、史都が有田くんの次なる言葉を待ちます。
「あのさ…楠さん。んいや、史都ちゃん…」
お、どうした訳か有田くんったら、急に下の名前で彼女を呼びました。
んっ、これはもしかして、もしかすると…
「…し、史都ちゃん、好きだ! 僕と付き合ってくれないかっ」
ずがががが〜んっ…! (東京ドーム約100個分の衝撃)
やっぱり…そう、史都ときたら、突如として愛の告白をされちゃったんです。
「い、いや、もちろん今すぐに返事を、とは言わない。あとで…あとで返事をくださいっ。そ、それじゃっ」
せめて、いまこの場でフラれることは避けたかったのか。とにかく一方的にまくし立てた後、有田くんは、あれよと史都の前から去っていきました。
それに比べて史都はといえば、そこから1歩も動きませんが…
あ、よくよく見れば、彼女。気ぃ失っちゃってます。衝撃のあまりに。
無理もないでしょうか。まさか人形の自分が、こうして愛の告白を受ける日が来ようとは、夢にも思わなかったからです。
いや〜、それにしても世の中には、奇特な方(=有田くん)がいたものです。
もちろん、彼とて他のクラスメート同様。心はともかく、史都の身が人形であることは、すでに承知済みですし…
果たして、史都の返答やいかに。
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