5:優しい冒険者さんと出会いました

 冒険者と門番の言い争いに巻き込まれないようにその場をこっそりと逃げ出した私達は、いつもの森へと帰ってきた。


 このままここで夕方近くまで時間を潰してから、いつもの壁まで行こうかな。


「まず、スキル取ったのは良いけどどうしよう⋯⋯」

 私が取得したスキルは察知系スキル三種類、回復魔法と剣術のLv1、そして最後にストレージと合計6個のスキル達。


「剣術って言ってもそう言えば剣を持ってないんだった⋯⋯どうしよう」

 そして少し考えてみると思い出したのはやはり異世界配信のスキル。


「剣とか、売ってたりしないかな⋯⋯?」

 そう呟くと、その瞬間に私の気配察知スキルが反応した。


「だ、誰かがこっちに来る!?」

「おねーちゃん?」

 私が急に動いたのもあってか、お昼寝をしようと木にもたれかかっていたリサが不安気に私の名前を呼んだ。


「害意は多分無さそう⋯⋯危険も無い、と言う事はたまたまこっちに来たのかな?」

 私がそう楽観視していると、感じていた気配は私の場所を目指して一直線に進んで来ている。


「場所が⋯⋯バレてる?」

 私はなんとかしないといけないと思って、普段動物を捕まえたりする際に使っていた大きめの木の棒を手に持ち、警戒する。



「お、おねーちゃん? どうしたの?」

 不安そうにリサがそう私に聞いてくる、先に逃げて欲しい所だけど、下手に森の奥にリサを行かせるのは危険すぎる。


「く、来る!?」


 もうダメかも、と思った瞬間——


「見つけた!」

「オイオイ、マジでいたのかよ」

 そこに居たのは門番さんと言い争いをしていた冒険者の二人だった。



「こ、怖がらせてごめんなさい!」

「あー、その、すまなかったな」

 冒険者の二人の第一声は謝罪からだった。


「私達みたいなのが凄い勢いで追って来たら誰だってびっくりしちゃうわよね」

「コイツが森で君達が魔物に襲われたらと思うとって言って追いかけるもんだからな⋯⋯マジですまん」

「い、いえいえ⋯⋯それにしても何で私の位置を?」

「その、私は視線察知のスキルを持っているのだけど、あなたの視線を感じて見てみたら子供がいたものだから、気になってしまって⋯⋯」

「あとは足跡を辿っただけだな」

 察知系のスキルを持っているとこんな簡単に場所がバレたりするなんて思いもしていなかった。 この事もちゃんと覚えておかないと。


「それで、単刀直入に聞くわね。

 どうしてこんな所で子供二人でいるのかしら?」

「え、えっと⋯⋯それは⋯⋯」


 私は今更隠しても意味が無いと思い、お姉さんに今まであったことを打ち明ける事にした。


「⋯⋯と言う事があったんです」

「街の中で両親が殺害?」

「おまけに孤児院も無い、と?」

 私の話を聞き終えた二人は顔を見合わせてから頷くと、再び私の顔を見た。


「案内をするから、俺達の拠点にしている街に来ないか? そこなら孤児院で妹ちゃんの面倒

も見てくれるだろう」

「勿論、いつでも迎えに行けるわよ」

 私はその申し出がとても嬉しかったけれど、少し不安もあった。


「良いんですか?」

「勿論だ、むしろ俺達の為にも来て欲しい」

「ここであなたを置いて行っちゃったらお姉さん、心配で夜も眠れなくなっちゃうわ」


 だけど、街へ行ったとしてもリサと離れないといけないとかは無いのかな?


「おねーちゃん、わたしおねーちゃんと離れたくないよぉ⋯⋯」

「⋯⋯こんな感じでリサはお父さんやお母さんが死んだショックで私から離れたがらないんです⋯⋯」

「うーん⋯⋯孤児院の先生は顔馴染みだし、私に任せて貰えないかしら?

 少しの間でも一緒に住めないか、お願いしてみるわ」

「はい! お願いします!

 えっと、お姉さんの名前は⋯⋯?」

「あぁー! 名前言ってなかったわね。

 私の名前はエリナよ」

「俺の名前はアルスだ、短い間かもしれんがよろしく頼む」

「はい! よろしくお願いします!」

「おねがいします!」

 そして私達はエリナさんとアルスさんの二人に連れられて二人が拠点にしている街へと移動する事になった。


♢(???視点)


「おい、そろそろあのガキ共を回収しても良い頃合いだろう」

「ハッ、早速部下に指示を出しておきます」

 そして若い執事に指示を出し、部屋から誰もいなくなったのを確認した男は部屋で一人、呟き始めた。


「このワシの求婚を断って何処の馬の骨とも知れぬ男と結婚したあの忌まわしき女の娘よ、ワシがこれからたーーーっぷり可愛がってやるからなぁ」


 男はそう呟きながら不敵に笑うと、手に持っていたワイングラスの中身を一気に飲み干した。



「オイ、いたか?」

「全然見つからねぇ!」

「この辺に居るように誘導したって聞いたんだが⋯⋯」

「何だか嫌な予感がしやがる」

 若い執事の指示を受けた男達はリナとリサのいなくなった街の中を虱潰しに探し回っていた。


「クソッ、何処へ行ったんだ!?」

「街の住人にはあのガキ共へは手出しをするなと厳命していたらしいから、それを破る事は無いと思うんだが⋯⋯」

 そう話しながら男達はリナ達の居る可能性の一番高い、残った飲食物や生ゴミを捨てるゴミ捨て場に到着した。


「これはこれは、領主様の所の⋯⋯こんな場所へ一体何の御用で?」

「実はとある子供を探していてな、今10歳くらいの女の子と8歳くらいのその妹を探しているのだ」

 男は同僚と話していた時の粗暴な態度とは打って変わり、丁寧に威厳のあるような言葉遣いでゴミ捨て場の管理人と話を始めた。


「10歳と、8歳⋯⋯」

 管理人は思い出した。

 かつて一年ほど前に自分自ら街を追い出した少女達が居たことを。


「そう言えば⋯⋯こんな事がありまして」

 管理人は自分がきっと良い事をしたのだと思い込んだまま、その時の話を領主の部下である男達に伝えた。


 だが、管理人は気付かなかった。


 領主の部下達の顔が全員真っ青になっている事に。

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