第10話 色変わり
けれども、それは要らない心配のようでした。おじいさんは、リンゴの実の化身と親しげに何かしゃべっているようです。そして化身がそっと、おじいさんの分身の頭に両手を置いて、その手を離すと、一瞬にして、お互いの色が入れ替わってしまいました。おじいさんが、これを見て、なるほどというようにうなづくと、もう一度、同じ動作をして見せました。するとどうでしょう。また、一瞬にして、お互いの毛色が入れ替わり、もとの色に戻りました。固唾をのんでこれを見ていた二匹の目が丸く大きくなったのは言うまでもありません。
そして、その後、リンゴの木の化身は、くるっと木のほうへ振り返ると、フクロウの鳴き声みたいな「ほーっ。ほーっ。」という声を出しました。それを合図にしたかのように、一番低い枝になっていた光るリンゴの実が一つ、地面に降りてきました。その実が地面に着くか着かないかという時に、ぱっと激しく光って、今度は、あかどんにそっくりな紅いキツネが現れました。
「あかどん、みどやん。大丈夫だから、こっちへ来なさい。どういうことか、わかったよ。」
二匹が恐る恐る、そのそばまで歩いて行くと、おじいさんはまず、あかどんに向かって、
「ここにいる紅いキツネの姿が、恐らく以前のあかどんの姿じゃろう?違うかな?」
と、優しく笑いながら言うと、あかどんは答えました。
「うん。そうだよ、おじいさん。この色、この色だよ。」
それに付け加えるように、
「ああ、そうですよ。正に、あかどんの元の姿に間違いないです。」
と、みどやんも言いました。
さらにおじいさんは、
「じゃあ、まずは、あかどんから。前に出てきて、リンゴの木のほうに頭のてっぺんを向けてここに立ってみてくれないか?」
「あ、はい。こうですか?」
「そう、それでいいよ。」
とおじいさんは言ってから、目の前にいる紅いキツネに、目で合図を送りました。あかどんにそっくりな紅いキツネは、あかどんの頭に両手を置きました。するとどうでしょう。色だけがすっと入れ替わって、あかどんは、もとの赤色の毛に戻りました。代わりに目の前にいたキツネは蒼く変わりました。あかどんは、
「おっ!おーっ、戻ってる。もとの色に戻った。」
と、嬉しそうにしみじみと自分の手足や体を見回しています。
「おじいさん、これって色が入れ替わっているっていうこと?」
みどやんは驚きを隠せず、そう聞きました。
「まあ、そんなようなもんじゃな。さてさて次は、みどやんの番かな…とその前に。」
おじいさんは、リンゴの木に向かって、もう一度、呪文のようなものを唱え始めました。リンゴの木が少しだけワサワサと揺れて、周りの空気もさっきよりぼんやり少しだけ明るくなっているように感じられました。
(第11話に続く)
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